株式市場は2つの世界的な恐怖に襲われたため、不安感の下で相場の調整が続いている。
株式相場には全体相場だろうと個別株相場だろうと山と谷があり、この変動を横目に市場に集まっている投資家にリスクとリターンをもたらすことになる。
変動は上にも下にも行くことになるが過去の平均値を下回り、どこまで下がるのか分からない投資家は投げもあって中途半端には手が出せずにボトムを確認するまでは買いを手控えることになる。
そうなると相場は悪循環となる。指標面では明らかに割安だと思えても投げが投げを呼ぶため株価は想定外に下げることになる。
DX関連、ICT関連銘柄など一連の新興市場銘柄の下落などはまさにこうしたパターンで変動してきた。
反対に過去の平均的な株価水準を上回り買い人気が続くと反対にどこまで上がるのかが読めずに売りの手が引っ込み、それを見た買い方の勢いが増して途方もない株価がつくこともある。
こうした摩訶不思議な株価変動を続ける株式相場はコロナ禍やウクライナ戦争に加え、物価高に対応した米国の金利引き上げ策が足枷となり需給悪という状況に見舞われているのだが、そんな状況下で上場企業が打ち出した株価の下落を食い止める手立ての一つが自己株買いとなる。
これまで発行した株を一部その会社の資金で買い取るのが自己株買いだが、これには市場外で特定の株主の保有株を発表の翌日の朝に買い取る場合と市場内で比較的長期の一定期間において上限株数や上限金額を設定しておいて買い取る類の場合がある。
自己株買いを発表した企業の株価は下値が堅くなるのが通例ですが最近は需給悪でなかなかそうはならないケースも出ている。
まず確認しないとならないのは自己株買いの規模。発行済み株式数の1%以下などでは規模が小さいと見なされる一方で、5%以上であれば比較的規模が大きいと見なされる。自己株買いのスケールは企業ごとにまちまちながら多くは1%から8%程度で設定されるようだ。自己株買いの規模は株数と金額で推し量れるが金額の上限が大きい場合は会社側が自社株に対して自信があり、より高く買い付けしても良いというメッセージと受け取られるが、必ずしもそれで株価が上昇するとは限らない。
先般実行されたオークネット(3964)の場合は2月17日から4月30日まで上限30万株を上限金額6億円で自己株買いを行うと発表し4月18日に予定した株数を買い終わったとその翌日に発表があった。単純な買い付け予定単価2000円に対して平均して1584円で買い付けたことになる。同社としては予定していた資金6億円に対して4.75億円で済んだ計算。この結果1.25億円を使わずに終わったことになる。
買い付け終了で期間中は高値1785円までついた株価も終了後に需給悪で下落し本日は1500円割れ寸前まで売られてしまった。
4月の平均買い付け単価は1668円だったので、自己株買いが終わった途端に投げてきた投資家がいるのだろう。企業側としては自己株買いによる株価意識を示した筈だが、キャッシュ200億円を保有し、年々この額が積み上がっている企業としては上限30万株、6億円の自己株買いを相場の需給悪の中で実施したのは良いが買い付け終了のタイミングがやや早かったように思える。
日本最大の時価総額企業であるトヨタ(7203)も現在、自己株買いを実施している。
同社の自己株買いは11月に発表された上限1.2億株、上限1500億円の自己株買いが3月で終わった後も実施され、3月24日から5月10日までで上限0.8億株、同1000億円が実施されることとなっている。
前半は3月7日に終了し株数は7035.5万株に対して買い付け金額は1.5億円と、上限金額一杯を買い付けている。買い付け単価は2132円だった。株数よりも金額優先の実に積極的な自己株買いがなされたと言える。
後半は3月24日分だけが開示されているが、まだ株数は211.1万株、金額ベースで46億円余り(買い付け単価2182円)に留まっているが、このところの需給悪の中でも株価は比較的堅調なのはこの自己株買いが下支えになっているためだと推察される。どの程度の買い付け金が残っているのか、残りの買い付け株数はどのぐらいかは不明だが、期間設定が5月10日までというのが実に面白いと感じさせる。
オークネットの場合は4月末だったのを早めて終えたが、トヨタの場合は連休明けまでの買い付けを行うのか興味深いが、少なくとも連休明けの換金売りへの対策で期間設定したと思われるのが面白い。
また、ロングランの自己株買い設定をしたのがソフトバンクグループ(9984)だが、こちらは昨年11月から今年の11月9日までとなっている。
上限2.5億株(発行済み株数の14.6%)、上限1兆円という大きな規模の自己株買いで3月までの買い付けは6725万7900株、3445.7億円で買い付け単価は5123円となっている。残りの株数は1.8億株余りで金額は6554億円となり今月も含めて残りの7カ月ほどで買い付けていくことになる。
同社の株価は先般の5984円高値から一転して反落の動きを見せ、本日は5000円割れを演じたが単純な買い付け予定単価が3641円となるため投資家に見透かされているように思える。11月までの期間はまだまだ長い。株価の調整場面で早期に買い付けして終えるのかどうかは読み取れないが、少なくとも3月安値4210円に向けて下値模索を続ける同社の自己株買いによる下支え効果はややパワー不足となっている。つまりこのまま需給悪が続くなら下値が切り下がる可能性がある。
自己株買いは全体のどの程度を買うかのに関心が寄せられる。ソフトバンクグループのように発行済み株式数の14%以上の大型自己株買いは滅多にないのかも知れないが、買い付け期間がロングランとなると需給の変化などによってインパクトは薄れてしまいがちだ。
このほか昨年4月から続いてきたソニーグループ(6758)の自己株買いは上限2500万株、上限金額2000億円とされ、今月末で終了するが、買い付け予定平均単価が8000円で3月末でもまだ740万株、882.8億円(平均買い付け単価1万1930円)に留まっていたが、残りの金額1118億円で時価で買ったとしても株数は1000万株余りとなる。
自己株買いの終了後の株価がどうなるのかは業績の動向にもよるが下支え効果を失うことになる。
このように見ていくと自己株買いは一定実施期間において株価の下支え効果を発揮するが、終了後の株価は需給悪や業績の停滞などから下値模索を余儀なくされる可能性がある。自己株買いは全体相場の需給動向を見ながら効果的な実施を行うことで市場に安定感をもたらすが終了とともに株価を想定以上に押し下げる可能性も残る。
(炎)
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