産業新潮
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3月号連載記事
■その20 事件は現場で起こっている
●デジタルは原始的である
一般的に、「アナログ」という言葉は、「時代遅れで古臭くて機能が劣っている」という意味合いで使われることが多い。逆に「デジタル」は「先進的・未来的・挑戦的」なイメージで語られることが殆どだ。
確かに、人間を始めとする生物界、さらには人工の建設物も含む環境はほぼすべてアナログだから、近年登場したデジタルが革新的だと思うのも無理は無い。
しかし、地球誕生以来の生命の歴史を考えれば、「デジタルからアナログ」へ進化してきたと考える方が正しいのだ。
例えば、コンピュータ上で生活する(画面上を動く)生物は、ごく簡単な単細胞生物のようなものであれば、デジタルで十分作成できるのだ。ところが、その生物がコンピュータ上で「進化」していくにつれて、どんどん複雑な存在になる。すると、スーパーコンピュータでも計算できない程の計算量を持つ存在になる。つまりアナログ化するわけだ。
もちろん、数十兆個の細胞で出来上がっている人間の複雑さは、どのように複雑なデジタル生物をも凌駕する。その複雑な人間が機能するためには、膨大なデジタル情報のすべてを扱うのではなく、重要な情報を「直感的」に選択して、残りは捨てる「アナログ機能」が必要不可欠なのだ。
●人間の脳は情報を捨てるためにある
例えば、読者の両手を左右に広げてもらいたい。そして、両方の指先を見るように集中してほしい。すると、指先が見えるはずである。実は人間の目は、左右ほぼ180度「見えている」のだ。しかし、実際に見るためには「脳で認識される」ことが必要である。眼球の中に光が入っただけでは、実は何も「見えていない」のである。
人間の眼球に入るすべての(デジタル)情報を脳が処理していたらすぐにパンクする。例えば高画素のデジタルムービーをダウンロードしたことがある人ならわかるだろうが、画像のデータ量は莫大である。しかも、人間の目の解像度は5億画素程度あると言われる。普通のデジカメの画素数が数百万、高機能なもので数千万画素であることを考えれば、とてつもないデータ量だ。
そこで、脳は通常、視野の中心部分しか見ておらず、残りの視野の情報は捨てているのだ。この視野の中心をどこに定めるのかを判断するために発達した「価値判断」がアナログなのである。
「だまし絵」に人間の脳が騙されるのも、脳が、最小限の情報を使って、重要な判断を素早くできるように、「計算の近道」を行っているからなのである。
デジタルが「価値判断」を持たない、究極的には「セロと一」の集合であるのに対して、アナログは「ゼロと一」では表すことのできない「価値判断」を伴うものだといえる。
●コンピュータはアナログに進化しつつある
実際、デジタルで始まったコンピュータも、高度化するにつれてアナログ化し始めている。例えば、ディ―プラーニングなどで学習するコンピュータは、当初の人間が作成したプログラムから「進化」していくわけだが、進化の結果複雑化したコンピュータが出した計算内容を「デジタル的」に検証できないという問題が持ち上がっている。コンピュータが学習したことをすべて追いかけることは現実には不可能(だからこそ、コンピュータ自身に学習させる)なのだ。
したがって「あの人の言うことは信じることができる」のと同じように「あのコンピュータは信じることができる」というアナログ的判断に頼らざるを得なくなってきている。
また、最先端技術として騒がれている量子コンピュータも、同じように「計算結果を検証できない」という問題を抱えている。
世間に数多く出回っている量子コンピュータもどきは別にして(量子コンピュータの原理を応用したコンピュータというのは、要するに既存のコンピュータにしか過ぎない)、本来の量子コンピュータは「量子の重ね合わせ現象」を利用する。
この「量子の重ね合わせ現象」はごくわずかの間しか維持できないし、すべての可能性を計算するのではなく、「結果と思われる値」だけを我々に教えてくれるのだ。だから、その答えが正しいかどうかは、デジタル的には証明できず、アナログ的に理解するしか他に方法が無いのである。
<続く>
続きは「産業新潮」
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3月号をご参照ください。
(大原 浩)
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