自社株買いが盛んになってきた。ソフトバンクG(9984)が昨年7月31日から本年7月末まで実施するとした上限1兆円、上限2.4億株の自社株買いに続き、直近では日本郵政(6178)が上限2500億円、上限2.76億株、発行済み株式の6.83%の自社株買いを行った。
筆頭株主の財務大臣(国)が保有する株を引き取ったのだが、株価の水準は2015年の上場時よりもかなり低く時価総額=資本金(3.5兆円)という水準での自社株買いを実施。
利益の還元と資本効率向上を図るという目的が示されているが、株価はソフトバンクGにしろ日本郵政にしろ冴えない展開となっている。
ソフトバンクGの株主数は15万人以上、日本郵政に至っては60万人以上ということもあり、多くの投資家の自社株買いへの関心が高まっていると推察される。
そもそも「自社株買いって何?」と言われる読者も多いかも知れませんが、上場企業が事業運営のために発行した株式を市場から何らかの方法で買い取るというもので、その原資は内部蓄積されたキャッシュであることが多い。
お金に色はないので時には銀行から借り入れて充当する場合もあるが、基本は自らが溜め込んだお金を自社株買いに充当することになる。
自社株買いを行うと企業の発行済み株式数のうち自社株が別に金庫株と言う形で存在する。この株はいざとなったらお金にする(自社株を用いた資金調達)こともできるし株式交換と言う形でM&Aにも活用される。また思い切って消却することもできる。
株主にとっては自社株買いが実施されると市場に既存の株主や新たな買いたい投資家とは違うその企業という買いの主体が現れることになるため需給が改善されその結果株価の上昇につながる場合が多いため株高の恩恵を受けやすい。
企業収益が同じでも発行済み株式数が減少すると計算されるEPSは増加することになり、既存株主の価値は向上する。そうした観点で自社株買いは歓迎されることが多い。
特にキャッシュを潤沢の有している老舗企業への株主の要求がこうした自社株買いとなって表れやすい。
証券アナリストジャーナル6月号では特集として「不確実性下の自社株買い」というタイトルで論じられているが、そこには自社株買いについての常識的な制度的な考察やその役割などが示されている。
単純に言うと、企業は株主に対して持てる資金を配当金で支払うのか、自社株買いの形で発行済み株式数のうちの特定部分だけをキャッシュを用いて買い取るのか、になる訳です。
発行された株式を買い取れば一株当たりの利益が向上し、その中で配当に回すお金を増やすことができる。
企業ごとに成長ステージは様々なので自社株買いを行うこと自体はこうした狙いがあるとしても成長途上の新興市場の上場企業で自社株買いを行う事例は見出しにくい。配当だって利益は出ていても無配のままにしているケースも多く、自社株買いは完成した企業の資本効率向上のために打ち出された施策と言って良い。
時には敵対的な買収を回避する目的など活用方法は様々にあるのだが、こうした自社株買いそのものを実施する企業が成熟しているとも言えるので最初に取り上げたソフトバンクGのような事例は株価を上げる意味合いが明確な場合を除いて反対にイメージダウンにもなりうるのかも知れない。
企業は過去蓄えてきた利益(キャッシュ、とりわけフリーキャッシュフロー)をどう使うのかが問われている。成長指向であれば内部留保を成長投資に充当すればよく、保守的な場合は、資本効率を向上させるための自社株買いを実施すれば良い。
コロナ禍で企業は成長より守りに入ろうとしている。
少なくとも次の一手の方向性が見えるまでは自社株買いで利益を還元しながら株価を維持していく手法が優勢となると考えられる。
株式市場の需給にとってはIPOで新たな企業の上場が続く(6月は23社のIPOが予定されている)一方で既存企業の発行済み株式数は減少し需給はタイトになるという構図が続くと考えられる。
(炎)
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