産業新潮
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11月号連載記事
■その7 人間の本質を解き明かした老子と孫子
●老子と孫子の人間観
古今東西、人間性の本質を鋭く指摘した賢人たちは多数いる。
例えば私の好きなカエサル(シーザー)の言葉に、「私は他人に意見されて自分の考えをたやすく変える人間ではない。だから、他人も私と同じだと思う」がある。またデカルトの「我思う故に我あり」はあまりにも有名な言葉だ。
しかし、あまたある古今東西の名言・哲学・思想の中でも、私が極めて大事にしているのが「老子」と「孫子」である。どちらも人名と書名の両方に使われる。極めて短い文章の中に人間の本質を凝縮した傑作である。
「老子」は、個人としての人間の本質、「孫子」は人間性の中に含まれる「闘い」にスポットライトをあてている。
ちなみに、これらの賢人と並び称される「孔子」は、権力に服従することを教える。もちろん、他人を支配し、あるいは支配者に服従することも人間性の一つには違いないが、私や現代人の多くが信条とする「自由・平等」に反する考えである。
共産主義中国が「革命」の際に、「中国4000年の歴史」を破壊しつくしたにも関わらず、その後「孔子学院」なるものを創設し、世界中へのプロパガンダに努めたのも、孔子の教えが一党独裁の共産主義にマッチしたからである。
華僑達が「表の教え」を「孔子」、「裏の教え」を「老子」として奉っているように、「孔子」は権力者が国民の人間性を蹂躙するためのものである。
「権力欲」も人間の本質の一つには違いないが、「国民の人間性」を重視する立場からここでは論じない。
なお、朝鮮半島や中国大陸では、権力者に都合が良い部分が強調された儒学が発達したが、日本では国民の側にも重きを置いた「朱子学」が盛んであった。
●老子は世捨て人のバイブルでは無い
日本での老子のイメージは、「現役を退いた隠遁者が冷めた目で遠くから社会を眺めている」であろうか?
確かに、老子は人間の欲求が諸悪の根源であるということを繰り返し述べている。この部分は、煩悩からの解脱を目指す仏陀の教えに近い。
念のため、日本で仏教と呼んでいるものは中国大陸を経由しており、教えのほとんどは中国固有の宗教「道教」のものである。墓を作ったり(もともと、ヒンズー教と同じようにガンジス川に流した)、仏象を作ったり(初期には偶像崇拝が戒められ仏足石のような象徴をあがめた)、飲酒をしたりする(祇園精舎で酒の上の乱闘が相次いだので禁止となった)習慣は、仏陀の教えには無い。
しかし、個々の欲求をコントロールすることが、個人の幸せにも社会の繁栄にも重要であると説くことは、むしろ社会活動というものを重視している証といえる。
実際、老子は個人としての人生だけでは無く、天下国家についても論じている。典型的なのは「理想の統治とは、国民が一体誰が統治しているのか意識しない状態」であると述べることである。
人間は他人の欠点をあげつらうことには、犬の嗅覚以上のすぐれた能力を持っている。だから、どのような宰相が統治しても政権批判は起こる。ある日刊紙は誰が首相になっても常に政権批判をして高い部数を維持しているくらいである。
逆に、人間は水や空気無しでは生きられないが、水や空気の存在に感謝したり、それらについて語ることはそれほど多くない。今のところそれらが満ち足りているからである。もちろん、環境汚染や水不足の「心配」が語られることもあるが、切羽詰まった問題とは言えないだろう。
老子は、「すぐれた政治家は国民を満ち足りた状態にするから国民は政治を意識しなくなる」、と言っている。
<続く>
続きは「産業新潮」
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11月号をご参照ください。
(大原 浩)
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