産業新潮
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4月号連載記事
■その2 人間の意志と心と経済・社会
●「道徳感情論」と「国富論」
1776年に出版されたアダム・スミスの国富論は、実際に読んだ人は少なくても、その名前は世界中に知れ渡り、現代の経済学における「聖典」とも言える。ところが、この本が、1759年に発刊された「道徳感情論」で論じた内容のうち「人間の経済の営み」に関する部分に特化したいわゆる「別冊」として出版されたことは意外に知られていない。
そもそもスミスはグラスゴー大学(映画ハリー・ポッターの魔法学校のモデルともいわれる名門)の道徳哲学の教授であり、「人間」に関する考察がその専門であった。したがって彼が生きた時代には、「道徳感情論」の方がはるかに世に知られた書物であったのだ。
人間経済科学が「人間中心」の思考を行う理由も、このアダム・スミスの手法に原点がある。現代の経済学が行きづまっているのも、本来不可分である人間の営みと経済を分離してしまったところに理由がありのるだ。
●「正確に間違っているより」も「大雑把に正しい」方がはるかにましだ
ピーター・ドラッカーは
「部下の長所を見つけることができず、短所ばかりを重箱の隅をつつくように掘り返すマネージャー(上司)は即刻解任すべきである」
と厳しいことを述べている。
人間が他人の長所よりも短所を簡単に見つけることができるのは、自然界で個体が生き残る戦略によって獲得された遺伝的形質であると思う。厳しい自然環境の中で生き残るためには他人の負の部分を含む「リスク」に対して敏感に反応しなければならず、よりリスクに敏感に反応して生き残った人類の子孫が我々であるからだ。
しかし現代社会、特に先進国では、夜道を歩いて猛獣に襲われたり、飢饉で飢えるようなことはまず無い。したがって、遺伝子で受け継がれた人間の本能は、今では「欠点・リスク」に過剰に反応しすぎるのだ。逆に言えば、その本能を理性でコントロールできる人々は、社会や経済で成功することができるというわけである。
ウォーレン・バフェットは「『正確に間違っている』よりも『大雑把に正しい』方がはるかにましだ」と述べる。例えば、企業の決算データを緻密かつ正確にいくら分析してもその決算そのものが粉飾であれば全く意味が無い。その企業の決算そのものが正確・誠実なのかどうかを大雑把に把握することの方がはるかに重要なのだ。
経済学に限らないが、現代は物事が細分化・専門化され些末なことに人々意識が集中している。「細部にこそ魂が宿る」というのは事実だが、枝葉の研究に専念して枝の上に登っていたところ、幹が腐っていて木が倒れてしまえば大けがをする。
また、象の「鼻」の専門家や「耳」の専門家、「尻尾」の専門家に「象の生態」を聞いても答えられない。同様に、我々が知りたいのは「経済」(社会)の生態であって、「経済」の鼻や尻尾の分析を事細かに聞かされても役に立たないのだ。特に、やたら難解な数式を使って経済の爪の生育具合を事細かに論証しても経済については何もわからない。
もちろん、木(爪)も森(象)もどちらも大事だが、「人間の経済・社会」という「生態系」を理解するためには、森全体の観察を行うことの方が重要であることはいうまでもない。そして、森全体を観察するときには細部にこだわるのではなく、全体を「大雑把に把握することが大事」だ。
まさに、ウォーレン・バフェットの「『正確に間違っている』よりも『大雑把に正しい』方がはるかにましだ」という言葉が意味することである。
(続く)
続きは「産業新潮」
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4月号をご参照ください。
(大原 浩)
★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
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