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■モメンタム
増益率の変化をモメンタムといいます。
企業の「収益モメンタムが強い」という表現を使います。
投資家が好感するのはモメンタムの強い企業です。
なかなか日本語になりにくい言葉ですが、言い換えるなら、「増益率の高さ」でしょうか。
逆に、「収益モメンタムが低下している、悪化している」ときは、株価は冴えない展開となります。
非常に重要なポイントなので、覚えておいてほしいのですが、かなり高い増益率を達成したとしてもモメンタムが低下する場合があるのです。いくら増益を続けても収益モメンタムが低下して、株価は下がってしまうことがあるのです。
たとえば、こんな場合です。
前期に100%の増益率を達成した企業があるとしましょう。
増益率100%といえば、収益が1年で2倍になったということです。
その企業が本決算の発表で、今期の増益率を30%で発表したとしましょう。
30%の増益率といえばかなり優秀ですね。
これほどの高成長企業は探すのが大変なぐらいです。
重要な点です。いくら稀有な高成長企業であっても、株価は暴落してしまうことがあるのです。
ロジックは簡単です。増益率が鈍化してしまったからです。
100%の増益率の後、人々はさらに100%の増益率を期待していたかもしれません。
100%は無理にしても、80%ぐらいの増益率は達成できるかなと見ていたかもしれません。それが「たったの30%」の増益率では失望ものです。期待外れなのです。
増益率が著しく鈍化した場合、「モメンタムは悪化した」といいます。
高い増益率を維持しているのにも関わらず、悪化や鈍化という表現を使わざるを得ないのです。
そして、悪化、鈍化という表現は株価には必ずといってよいほど、マイナスに効くのです。
増益企業のモメンタムの悪化が株価の下落を招くということは、案外、企業経営者もわからない人が多いのです。仕事柄、社長によくインタビューをしますが、「なぜ株価が下がるんだ?業績は堅調なのに…」と愚痴をいう経営者が案外多いので驚いています。上場企業の経営者の中にも株価の見方がわからない人が多いことの裏返しです。
あまりにも高い成長をしてしまうと、どんどん成長の選択肢が狭まってきます。
大型で自社で有利のM&Aをしたり、大幅な株式分割を実施したりするぐらいしか手がなくなってきます。
考えてみれば当然のことです。100%成長を10年続けたら、利益規模は何倍になるでしょうか。1000倍以上になります。ところが、市場の規模には上限があります。市民の財布の中身を全部足した以上に個別企業の売上げが成長することはありません。高成長企業は、ゆくゆくは、その成長を鈍化させる以外には選択肢はないのです。
モメンタムが改善傾向にあるかどうか。
これが株の買いのタイミングなのです。
いくつかのパターンに分かれます。
買いのタイミング:
(1)過去の赤字から未来の黒字への転換時(=今期黒字化予想)
(2)減益から増益への転換時(=前期減益で今期増益予想)
(3)増益率の改善時(今期の予想増益率が前期の増益率よりも高い)
(4)減益率の改善時(今期の予想減益率が前期の減益率よりも低い)
(5)依然として赤字ではあるが赤字額の大幅縮小時
これらの5つのパターンは買いの典型的なパターンでありタイミングです。
非常に重要な事柄ですから、是非、身につけてください。
増益か減益かという視点で株の売買タイミングを計ることはできません。
増益率がどう変化したかで売買のタイミングを計るべきなのです。
増益率がどの程度改善しているか、その度合いが重要なのは言うまでもありません。
たとえば、前期が5%の増益率で今期は6%の増益率であれば、建前上、モメンタムは改善したといえるかもしれませんが、そのような小さな変化のケースで、モメンタムを論じることはまずありません。20%を超えるような増益率の変化や大幅な赤字がかなり縮小するといった大きな変化ならば、株価へのインパクトがあろうというものです。
5つの買いパターンに当てはまるからといって、その度合いが小さいものは意味も小さく、株価の動きも限定的になります。大きく儲けようと思うのであれば、大きな変化に注目するのが筋です。
売りのタイミングは、買いのタイミングのまったく逆を考えればよいのです。
売りのタイミング:
(1)前期黒字から今期赤字への転落
(2)増益から減益への転換
(3)増益率の鈍化
(4)減益率の悪化
のパターンは売りとなります。
ファンダメンタルズ分析といえば、業績予想をいかに上手にするかという技術だと考えている人が多いと思います。確かに、業績予想はファンダ分析の重要な一分野です。
しかし、業績予想よりも、業績のフェーズというか、業績のトレンドを把握することの方が株式投資には重要なのです。「業績がどんな方向を向いて動いているか」ということを業績動向といいます。業績動向、あるいは、収益動向は、トレンドです。減益から増益への転換、あるいはその逆。あるいは、増益基調、または減益基調なのか。業績の方向性が株価の方向性を決めるといっても過言ではありません。
機関投資家や証券会社は独自にアナリストを雇用して、業績を予想させています。ただし、業績動向の方向性を予想させているのであって、今期だけの予想数値を当てるために業績を予想しているのでありません。
証券アナリストの仕事とは、業績を当てることだと勘違いしている人が多いのですが、それはアナリストの仕事の一部にすぎません。業績を当てるのが仕事ではなく、業績の動向から株価動向を予測するのが本来の仕事なのです。
サプライズの大きさは、このモメンタムの改善(あるいは悪化)の度合いに比例します。
100%の増益率を誇った企業が30%台の増益率に鈍化する場合は、利益面で70%もの違いが生じてしまいます。70%も利益の見込みが違えば、当然、株価も数十%は下落するリスクがあると考えなければならないのです。
減益率20%で見ていた企業が、増益率20%に転じれば、その差額は40%程度です。経験則上は、その変化率の度合いの半分程度、株価は影響を受けます。40%の利益の見込み違いであれば20%程度株価は反応して動くということです。決算で10%以上株価が動けば、それはサプライズとみなされます。
市場を代表するような企業のネガティブなサプライズを○○ショックなどという場合があります。
投資を敢行してもよいファンダメンタルズ分析におけるタイミングとは、「20%を超えるような利益の変化の度合いがあるかどうか」を目安にすればよいと思います。増益率が50%から20%へ鈍化した場合、30%の変化があったとして、これは空売り(売りから入って買い戻しで差額を得る手法)の対象になるでしょう。あるいは、増益率が20%から50%へと「加速」した場合は、買いの対象になるでしょう。減益率の改善度合いも同様です。たとえば、前期50%減益が今期20%減益予想が発表されたら、買いの対象となります。
赤字から黒字の場合、赤字額が大きければ大きいほどインパクトがあります。
減益から増益の場合、たとえば10%減益から10%増益へ転じれば、20%の利益の変動ですから、買いの対象となります。
買いのケース、タイミングのまとめ:
(1)増益率の20%以上の改善時
例;(前期20%の増益だったが、今期予想で40%の増益率を発表)
(2)減益率の20%の改善時
例;(前期50%の減益率だったが、今期は30%の減益率に収まる)
(3)減益から増益への20%以上の転換時
例;(前期20%の減益だったのが今期は横ばいを発表)
(4)赤字から黒字(前期赤字の大きさや今期予想の黒字の大きさに注目)
(山本潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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