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※このコラムは、2005年9月6日に掲載されたものです。
 当時の経済的背景に基づいていますので、ご留意の上お読み下さい。

JUGEMテーマ:株・投資


■ファンダメンタルズ分析で売買タイミングがわかる?

★キーワードは「前期」と「今期」。そして「減益」と「増益」

 企業業績では、今年の決算期のことを今期、前の年の決算期のことを前期といいます。

 例をあげましょう。
 過去数年、連続して業績を伸ばしている企業があるとします。これを「増益基調」型企業とし、仮に企業Aと名づけます。
 さて、増益基調とは、利益が毎年増加傾向にあることです。

 一方で、前期(前決算年度)は減益(利益が減ること)になった企業があるとします。これを「前期減益」型の企業とします。この会社を企業Bとします。
 前期減益型の企業Bは、今期は一転、増益となる見通しです。


 さて、AとBのどちらの企業の株を買うのがよいのでしょうか。

 さて、増益基調とは、少なくとも2年連続で利益が増加傾向にあることです。
 利益が増えることを増益といいますから、「基調」とは、少なくとも2年連続で同じ状態が続いていることを意味します。増益が続いている状態を「増益基調」といいます。
 似たような言葉に「続伸」という言葉があります。続伸とは文字通り「続けて伸びる」ことですから、業績についてのみではなく、株価にも適用できる便利な用語です。


 増益に対して、減益という用語があります。減益とは、利益が前と比べて減ることです。

 株価は、増益を好感します。逆に、減益を嫌気します。


 株価に重要な情報は、増益か減益かということです。


 株価は過去の成績では決まらず、やはり、将来の業績を映す鏡なのです。
 将来が増益になるか、減益になるかが株価動向に直結します。

 目先、足元の業績がどうなるか、ということに市場は注目します。
 短期的な将来を予想することで、当面の株価は動いているのです。


 市場に参加している人のほとんどが近視眼的に物事を考えています。

 個人では長く待てる人でせいぜい1ヵ月、機関投資家でも3ヶ月ぐらいの投資成果を求めています。誰も数十年先まで世の中を見通す千里眼を持ち合わせていないので、仕方のないことです。
 また、企業の将来性は、ある程度は株価に反映されます。将来性の高い企業は収益に比して高い株価でもよしとされています。

 未来を見通す力がないために、また、基本的な企業の将来性はすでに株価に反映されているために、投資家は、ほんの数ヶ月先の未来(=今四半期の予想)がどうなるかで、株価を判断しようとします。

 投資家のほとんどが、ほんの数ヶ月間の過去(=前四半期決算)を参考にしているのです。なぜならば、「現在に一番近い過去」から「現在に一番近い将来」を予想するぐらいはできそうだからです。

 現在に一番近い未来をまず予想して、その後のことはそのたびに考えましょうということなのです。


 業績動向において、最も身近な過去とは前期(または前四半期)のことであり、最も身近な未来とは今期(または今四半期)のことです。前期と今期とをつなぐ便利な言葉が「増益」と「減益」なのです。
 中には、横ばいに近い増益もあれば、横ばいに近い減益もあるでしょう。
 が、厳密に1円単位で分ければ増益か減益か2種類しかないのです。
 「増益」と「減益」は過去と未来、「前期」と「今期」を結ぶ比較概念です。

 「現在に最も近い過去」と「現在に最も近い未来」がお互い似ているのは、業績に限った話ではありません。株価もそうなのです。
 現在のソニーの株価は30年前とはかなり違いますが、昨日の株価と今日の株価とはそんなに違いはないのです。同様に、30年後の株価を占うよりも1年後の株価を占うことの方がたやすいのです。時間が経てば経つほど、不確実性が強まり、株価の変動幅が大きくなります。

 そうした時間に関する業績と株価との類似性がファンダメンタルズ分析の拠り所(前提)となっているのです。
 今の株価は現在の企業業績の状態に多くを依存しており、将来の株価は将来の業績の状態に依存すると考える、それがファンダメンタルズ分析の基本哲学です。


 将来の業績が将来の株価を決めるのならば、その将来の業績を占えばよいということです。
 将来の業績は、企業の意志の力で決まります。企業も人の集まりである以上、運命に抗することができます。企業に意思を持たせ、その意思を具現化するのは経営者や従業員の仕事です。ですから、経営者が信頼に足る人物であるという理由でその会社の株を買う人は、ファンダ分析の根本的な哲学を実践しているといえるでしょう。


 たとえば、この数十年、絶えず、逆風が吹いた業界があります。
 それは、自動車産業です。
 一ドル360円の時代が終焉して以来、現在に至るまで、ずっと円高基調です。円高は輸出産業にとって逆風です。言ってみれば、何十年も逆境ばかりが続いているのです。その環境を経営努力で乗り越えたからこそ、現在の栄光があるといえましょう。

 逆境があったからこそ、強くなったともいえるのです。


 ファンダ分析では、その企業の能力は問題にしません。

 問題にするのは、「やる気」とその企業の置かれている「環境」です。

 能力が高くても、やる気のない企業の株は上がりません。
 どんな問題児であっても、大切なのは、企業努力をしているかどうか、ということです。いや、それまで努力をしてこなかった企業が、やっと努力を始めたケースの方が変化の度合いが大きいがゆえに、株は上がります。
 それは、ガリ勉は、どんなにがんばっても向上する余地が小さいのに、落ちこぼれは少し勉強しただけで、成績向上することに似ています。

 「最近、君の株(価)は上がっているよ」という褒め方がありますが、文字通り、努力をして結果を出した人に対して使われる言葉です。

 企業のやる気は、「増益」を続ける企業努力のことです。企業努力を継続して、いかに利益を安定的に成長さ
せるかを意味します。

 せっかく企業にやる気があっても、環境が悪いために、その努力が報われない場合があります。特に短期的には環境の変化の影響を受けてしまいます。
 数ヶ月という視点で投資するならば、経済環境なども大きな分析対象となります。
 環境が悪いために業界全体が冴えない企業の株価はやはり冴えないのです。

 ただ、環境が悪いときに、経費を削減したり、人材を活性化したりして、すこしでも利益を増やそうと企業努力している企業は、結果的には状況がよくなったときには、相当な利益がでます。


 「昨日よりもよい今日、今日よりもよい明日」があってこそ、企業は栄え、従業員も長期雇用が保障されます。

 投資の世界では、「昨日よりも前進している今日」というのは、「企業努力で赤字部門を減らし、増益部門を増やすこと」です。企業努力を惜しまない会社は、一時的に景気悪化の影響を受けて、減益に陥ったとしても、再び、増益に転じる確度が高いといえます。
 それは、投資家にとっては、長く保有できる株といえるのです。


 利益が減った企業よりも利益が増えている企業の方が企業としては優れています。企業としては増益型の企業の方がよい。


 冒頭の問題に戻ります。毎年業績を伸ばしている「増益基調」型企業Aと「前期減益」型の企業Bとどちらの企業の株を買ったらよいでしょうか。

 減益企業を買っても、利益が減るわけですから、面白みがありません。
 しかし、株式投資では、減益企業を好んで買う人たちがいます。
 そして、そういう人たちに限って投資で好成績を収めているものです。
 利益が減少すれば、株価は割高になり、割高な株は下がるはずです。

 なぜ減益企業などウォッチする必要などあるのでしょうか。

 企業努力=増益=よい企業=よい株価という考え方は根強いものがあります。
 ネット証券のスクリーニングの条件にも、「増益かどうか」という項目が用意されています。

 数多く増益企業があるというのに、どうしてわざわざ減益企業など投資対象にしなければならないのでしょうか。


 意外に思われるかもしれませんが、減益企業でも増益企業でもどちらでもよいのです!

 それは終わったこと、過去のことだからです。
 あえていえば、この場合は、減益から増益へと転換を果たした前期の減益企業、すなわち、企業Bの方を買うべきなのです。

 単に減益企業といっているのではありません。「前期」の減益企業といっている点に注目してください。前期とは過去のことです。過去はいくら悪くても、過去です。過ぎてしまったことです。
 しかし、株主は将来の配当や利益成長に期待しているのです。過去減益だったかどうかは問題ではないのです。
 過去、いくら減益が続いたとしても、今年から増益に転じるのであれば、それはグッドニュースです。

 前期は減益でした。しかし、その利益水準を基準にして、今年は利益が増えていく予想になっている。業績は底打ち、回復局面を迎えているのです。ですから、減益というバッドニュースの後に、増益というグッドニュースが来たといえるのです。


 株価を動かすのは変化です。
 変化とは過去と現在との比較、あるいは、現在と未来との比較です。
 変化とは、その企業や銘柄の業績の見方の変化を意味します。
 過去と未来の対比がドラスチックであればあるほど、サプライズとなります。

 株式市場が、ある企業を、これまでは減益企業だと思っていたのが、実は増益企業だということが判明した。それは大きな見方(=パーセプション)の変化です。よい方向への変化です。
 減益を続けていた企業は、投資家から見放されているため、株価が安値で放置されている場合があるのです。株価は十分に安いので、ちょっとしたよいニュースで上がるというわけです。


 一方で、増益基調や続伸とは、前期も増益で今期も増益が続くことですから、株式市場の見方は大きくは変わりません。元々増益企業=よい企業=買い安心感のある株という見方。それは変わりません。今後も増益企業という見方が継続するだけですからね。

 増益を繰り返していた企業はすでに高い評価を得ている場合が多いのです。
 増益企業が今年も増益の見通し。古いグッドニュースの後に、新しいグッドニュースが来て、株は上がります。ただし、劇的な感動はありません。
 飴をなめたあとに、おいしいフルーツを食べてもその本当の甘さを味わうことができないのと似ています。


 市場の見方がネガティブからポジティブに変化をする銘柄は上がります。

 わかりやすくいえば、近所付き合いで、挨拶もできない愛想の悪いおばさんが実は大変な面倒見のよい善人だということがわかったらどうでしょうか。
 見方がガラリと変わるほうが「びっくり度」が大きいでしょう?

 株価を大きく動かすのは、意外感、つまり、びっくりする度合いです。
 これをサプライズといい、株式市場では大変よく使う言葉です。


 市場では、株価が上がるような「びっくり」をポジティブサプライズといいます。
 逆に株価が下がるような「びっくり」をネガティブサプライズといいます。


 減益企業が増益に転じるのはポジティブサプライズになりえます。

 「減益の冴えない企業だと思っていたのに増益で発表された」ということが意外であればあるほど、株価は上がります。ファンダメンタルズ的な売買タイミングとは決算の発表です。

 「前期は減益に終わった模様」であると市場が既に知っているとすれば、「前期の減益を市場が織り込んでいる」という表現を使います。そして、減益決算が織り込まれている場合、前期の決算を企業が正式に発表をしたとしても、株価は下がりません。それよりは、むしろ、織り込まれていない将来の業績動向に市場は注目しているのです。
 将来といっても、遠い将来は一度に織り込むことができません。そこで、現在に一番近い未来である今期予想の業績見通しが株価にまず反映されることになるのです。


 決算発表時は、「今期の企業収益はどうなるか」という見通しを企業が出してくれます。これを「今期の会社予想の数字」といいます。または、企業による「ガイダンス」といいます。ガイダンス=ガイドするということですね。

 この場合は、企業が投資家を導く、ガイドする、何をガイドするかといえば、「今期はうちらの業績はこんな感じになりそうですよ」、企業がわたしたち投資家を導いてくれるわけです。そして、その大切なガイダンスを発表する場が決算発表であり、その発表は、短信の表紙のリリースでなされるのです。

 短信の表紙がどれほど重要か、理解していただけましたでしょうか。
 短信の場所では、最下段に表示されています。表紙で最も重要な項目です。

→ガイダンス=会社予想ベースの業績見通し @短信表紙最下段に記載


 過去の減益を市場が織り込んでいて、投資家は誰でもその企業が減益になることを知っていたのであれば、たとえ、悪い決算が出ても、予想とさほど違わなければ、株価が下がる要因にはなりません。

 逆に、まだ将来、つまり、今期の企業からのガイダンスが強い数字であれば、それは市場にはポジティブサプライズである場合もあるのです。

 その場合、増益予想を好感して株価は上昇することになります。


 市場が見ている常識的な予想決算数字のことを「コンセンサス」といいます。
 多くの企業にとって、会社の予想数値である会社計画、会社側のガイダンスに基づいて市場のコンセンサスが形成されるケースがほとんどです。

 会社側の数字が適正なものかどうかを吟味して、独自に外部の人間がその会社の業績を予想する場合があります。そういう人々を証券アナリストといいます。
 ソニーのような大きな企業であれば十数人の証券アナリストが数字を予想しています。それらのアナリストたちの平均値をコンセンサスと呼ぶ場合もあります。

 しかし、多くの企業は、アナリストの予想数値がないケースも多く、会社予想ぐらいしか公表されていない場合も多々あります。つまり、コンセンサスという市場が想定している業績よりも悪かったりよかったりすると、それはサプライズとなるのです。そして、サプライズが出ることを見越して株を売買できるなら、それが最も効率よく株で儲けるコツといえましょう。


→会社予想≒市場コンセンサス≒アナリスト予想


 コンセンサスとはわたしたちを含めたみんなの総意ですから、コンセンサスと大きく乖離するような業績が発表されることはサプライズなのです。

 株式投資とは、「ポジティブサプライズを事前に予測して、ネガティブサプライズを避ける」ことだと換言できるといっても過言ではありません。


 さて、誤認や誤解を排除した優れた伝達文書には、5W1Hの要素が含まれています。

 ファンダメンタルズ分析の5W1Hとは、
 いつ、WHEN (どの決算期か)
 だれが、WHO (どの企業が)
 どこで、WHERE (どこの事業で)
 なにを、WHAT (利益傾向が増益か減益か)
 なぜ、WHY (事業のおかれている環境のために)
 どのように、HOW (大幅か小幅な、前期比何%か)
です。

 ファンダメンタルズ分析では、WHENの要素、「いつ」という要素が不可欠です。
 時には序列があります。明日の株価は明日の業績に拠っていると考えるのがファンダ分析ですから、明日の業績とは「今期」(12ヶ月決算)もしくは「今半期」(半期6ヶ月決算)もしくは「今四半期」(3ヶ月決算)の予想数字ということになります。

 減益企業が増益企業に変化するということは、前期は減益という結果だったが、今期は増益になりそうだという予想がもてることです。しかし、予想は当たらないかもしれない。しかし、あたるかあたらないかはやってみないとわかりません。とりあえず、企業が出した予想は信じてみようと思う投資家が存在することが肝心です。
 業績の見方は増益予想か減益予想かの2つしかありませんから、自らのことを一番よく知っている企業自身が自らの判断で業績を予想する以上、一旦は会社計画の見通しに従うのが筋なのです。
 ベテランのアナリストでさえ、会社計画と大きく隔たった自己の予想を立てることはまずありません。会社計画を参考にして上下10%以内で計画より上に予想したり、下に予想したりする場合がほとんどです。

 決算発表後の1-2ヶ月間は、多くのアナリストは会社の計画数値をそのまま採用しています。ですから、会社計画がすなわち市場のコンセンサスであるという状態が決算発表後しばらく続くのです。


→決算発表後1-2ヶ月は、企業発表の数字がとりあえずコンセンサスを醸成する


(用語)

決算発表:四半期を含め年に4回発表される企業業績のこと。決算短信として発表される。
決算短信:企業業績をまとめた決算書のこと。
前期:前の決算期。過去の決算であり、株価にはそれほど重要ではない。
今期:今走っている決算期。今期の予想利益が株価にとって重要。
来期:今期の翌年の決算期。
ガイダンス:企業から発表される今期の予想売上げや利益。
会社計画:企業が想定する予想売上げや利益のこと
会社予想:会社計画と同義
コンセンサス:会社予想をベースにして市場が想定する企業の利益
織り込み済み:市場が既に知っていること、株価を動かす材料にならないこと
減益:前の期と比べて利益が減ること
増益:前の期と比べて利益が増えること
続伸:業績面のことで用いれば、増益が続くこと。株価面で用いるのであれば、2日以上連続して株価が上がること
サプライズ:市場に織り込まれていない材料が新しく発表されることによって株価が反応すること
ポジティブサプライズ:株価が上がるサプライズ。用例 ~今期の会社計画は増益予想でコンセンサスを大きく上回りポジティブサプライズだ~

ネガティブサプライズ:株価が下がるサプライズ
好感:企業を好く評価すること 
 用例 ~円安を好感して株式市場は3日続伸 ~
引け後:マーケットが開いている時間の後。東京証券取引所やジャスダックの場合、15時にマーケットがクローズしますから、その後を「引け後」といいます。決算発表のほとんどが引け後に発表されます。しかし、例外的にざら場中に発表されることもあります。
ざら場:マーケットが開いている時間
証券アナリスト:企業業績を予想する専門職
材料:株価を動かす事実や見通し


(山本潤)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)