産業新潮
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7月号連載記事
■その10 先手必勝と集中力
●宮本武蔵と佐々木小次郎
どこまでが史実なのかは不明ですが、二人の巌流島における決闘はあまりにも有名で、多くのことを物語っています。命をかけた大事な決闘において大幅に遅刻する武蔵は「武士の風上にも置けない下劣な野郎だ」という考え方もあるかもしれません。
しかし、ルールや礼儀をきちんと守っても、負けてしまっては元も子もないという考えにも一理あります。戦後闇市の時代に、配給米しか食べず闇米を一切受け付けなかった裁判官が餓死するという事件がありましたが、この裁判官が英雄として扱われているわけではありません・・・
孫子は、もともと今で言う「ゲリラ戦術」の指南書であり、弱者が強者を打ち倒すためのノウハウにあふれています。そのため、必ずしも「強者のルール」に従う必要は無いと考えていますし、むしろ「強者のルールの隙」をつくのをモットーとしています。
さて、宮本武蔵のゲリラ戦術は「相手を待たせる」ことです(しかも相手を待たせるという先手をとったのです)。人間に限らず、生物というのは基本的に「待つ」のが苦手です。例えば、あるドキュメンタリーで放映していた実験に次のようなものがあります。
●ねずみも人間も待てない
まず、ねずみたちに例えば「赤のレバーを押すとすぐに1個の餌が出てくる」「黄色のレバーを押すと30秒後に3個の餌が出てくる」「青のレバーを押すと1分後に10個の餌が出てくる」ということを覚えさせます。なお、このレバーのどれかを1回押すと、10分間はどのレバーも使えないような設定になっています。さて、このねずみたちに自由にレバーを押させるとどうなったでしょうか?
ねずみたちは、ひたすら赤のレバーを押し続けて、他のレバーには目もくれませんでした。一度レバーを押すと10分間は他のレバーを押せないのですから、青のレバーが圧倒的に有利にも関わらずです・・・
確かに、生物の進化の過程で淘汰によって研ぎ澄まされた本能が「次の(大きな)獲物が手に入るかどうかはわからないから、今目の前にある(小さな)獲物を確保しよう」とするのはある意味自然かもしれません。
しかし残念ながら、「人間(経済)科学」においても、人々は同様の行動をとります。典型的なのは投資の世界でしょう。バフェットをはじめとする成功者たちが、長期投資の優位性を繰り返し説いているのに、世の中の多くの投資家は「日雇い投資=デイトレード」で、すぐ目の前のごくわずかの利益を確保することに汲々としています。
それほど「待つ」ということは、人間(生物)の本能に逆らうことですが、その本能を理性で押さえてこそ、成功できるというのが「人間(経済)科学」の説くところです。
●相手を待たせるのは自分も待つこと
巌流島の決闘では、佐々木小次郎が待たされてイライラして平常心を失って負けたことが強調されます。確かに、「自分が負けるかもしれない」という一抹の不安を抱きながら待つことの苦痛は容易に想像できます。「人間(経済)科学」の解説を待つまでも無く、人間は悪いことを想像しやすく(進化論的には、楽観的な個体よりも、悲観的な個体の方が危険を回避しやすく生き残りに有利であった・・・)、小次郎の胸中は負けた瞬間のイメージでいっぱいであったかもしれません。
しかし、「待たせた」とされる宮本武蔵も実は「待っていた」のです。もし、宮本武蔵が自分は負けるかもしれないと思っていたら、小次郎を待たせている間、彼の胸中も「負けた瞬間のイメージ」ではちきれるほどだったでしょうし、その恐怖で小次郎に勝つことができなかったかもしれません・・・・武蔵は、自分が勝つという自信を持っていたか、負のイメージをコントロールできるほどの胆力の持ち主であったということです。いずれにせよ、武蔵の方が小次郎よりも一枚上手であったことは、間違いありません。
(続く・・・)
続きは「産業新潮」
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7月号をご参照ください。
(大原 浩)
★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
(毎週木曜日連載)
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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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