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書評:二宮金次郎とは何だったのか

2019/04/17 10:24 投稿

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 書評:二宮金次郎とは何だったのか 臣民の手本から民主主義者へ
 小澤祥司 著、西日本出版社
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●二宮金次郎の虚像

 今、二宮といえば、嵐(ジャニーズ)の二宮和也氏をさすのであろうが、二宮金次郎もたぶん日本人なら誰でも知っている有名人である。

 ただ、「いったい何をやった人なのか?」ということについて、明確に答えることができる人は少ないのではないだろうか?


 二宮金次郎は、江戸時代の後期、相模の国(現在の神奈川県)小田原藩の貧しい農家に生まれた。洪水で田畑を失い没落した家の再興を若くして果たし、その再興手腕を藩の重臣の家の再興でも活用。最後には幕臣にも取り立てられた立志伝中の人物である。

 その活躍は、主に現在の栃木県で行われたが、その名声は近隣にも鳴り響いた。

 その中でも、静岡県の掛川市は傍流とも言えるが、後の明治期に至るまで、二宮金次郎の始めた<報徳運動>が綿々と受け継がれ、明治以降の日本政府に<報徳運動>の影響を強く与える礎となった。修身の教科書に天皇の次に二宮金次郎が多く登場するものも、このような流れを受け継いだからである。

 私は、小学校3年生まで、掛川市にほど近い浜松市の小学校に通っていた。

 当時の私は<活字中毒>で、授業が終わるとすぐに図書室に駆け込み、さらに下校を促す「蛍の光」が流れると、家に帰る時間が惜しく、読みかけの本読みながら下校した。当時、家までの10分ほどの道は信号も無く、自動車が通ることもめったになかったので危険では無かった・・・

 そのため、校庭にあった「薪を背負いながら本を読む」二宮金次郎にはとても親近感を持っていた。

 しかし実際は、江戸時代の貧しい農民の子であった金次郎が当時とても高価であった本など買えるはずが無いわけだから、これはたぶん作り話である。

 実際、一般に流布している金次郎にまつわる話は、「虚像」に基づくものが多い。


●二宮金次郎の手法と哲学

 それでは、二宮金次郎の実像とは何なのか。手法面からまとめてみれば次のようになる。

1)「分度」を定める。
  分度器の分度と同じ意味だが、その家(藩)の収入に見合った支出の上限(分度)を定めることが二宮流「財政再建」の一歩である。二宮は、この時に「過去データ」を重要視した。例えば過去10年間の年貢がどのくらいなのかを調べて平均値を出し、その平均値を分度としたのである。これにより、凶作・豊作などの不確定要因に大きく左右されずに、長期的視野で財政再建を行うことができた。

  分度を定めるのは簡単だが、それを守らせるのは困難だ。
  例えば、日本の国家財政は、かなり前から借金だらけで破たん寸前だと騒がれている。ところが日本政府の「分度」はまったく守られていない。
  税収から考えれば50兆円が日本の分度だと考えられるが、実際には国債を発行し続けてその倍の約100兆円を使い続けている。

  誰もが総論賛成で、各論反対だから、実際に分度を守らせるのは並大抵のことでは無い。百姓のせがれの二宮が、上級武士たちを管理監督したのは画期的なことであり、彼が常に不退転の決意で財政再建に取り組んだことが気迫を生み、堕落した武士たちを動かしたのであろう。

  逆に、武士では無いということがしがらみから彼を解放ししただろうし、農民に武士が指導を仰ぐこと自体、武士が相当な危機感を持っていたことの現れである。

2)再投資する。
  二宮の功績は、単に節約したことだけでは無い。その節約して溜めた資金を再投資したことが大きな利益を生み、再建がスムーズに行われたのである。

  二宮自身の家の再興が顕著な例だが、彼は丁稚奉公で小金をためた。そして、なんとか溜めた資金で、猫の額ほどの土地を買い戻した。しかし、彼はそれを自分で耕さずに地主として小作人に耕させたのである。

  それからも、丁稚奉公で溜めた資金と小作料で土地を買い戻しては小作に出すということを繰り返す。最初はちっぽけであった所有地が、少しずつ大きくなり小作料がべき乗的に増大することによって、急速に所有地も増えていくようになる。

  つまり二宮が短期間で家を再興できたのは、巷に流布する「ブラックな長時間労働」のお蔭では無く、知恵をはたらかせた資本家としての行動のおかげなのである。

  現在で言えば、ちっぽけなワンルームマンション投資からスタートして、その家賃や自分の勤労収入で何十棟ものアパートオーナーになるようなものである。

3)利息は後払い。
  また、二宮が主導した「報徳仕法」の活動の中では基本的に無利息で資金を貸し付けた。例えば、5年間無利息で貸し、再建(あるいは事業が成功)した5年後に「お礼」を支払う。

  再建途上で元利を払うのは負担が大きいし、再建の可能性を低めることにもなる。だから成功してから「出世払い」する方式は合理的だ(お礼は任意だが概ねの基準があった)。

  現在で言えば、ベンチャー事業に出資して、上場などの際に利益を得るベンチャーキャピタルと同じ考えである。

  もちろん千三つといわれるベンチャー事業に対して、農業などははるかに成功の確率が高いが、それでも「ニワトリに金の卵を産むまで餌を与える」というのは、同じ考え方である。

4)信用を大事にする。
  前述の「利息後払い」のベンチャーキャピタル的方式は、貸し付けた相手が誠実であるということが大前提である。

  現在のベンチャー企業によく見られるように、「出資金を受けとった途端に遁走」ではシステムが維持できない。「報徳」という思想に導かれ、人間関係が濃密な村社会であるからこそ、無担保で資金を貸せるし、回収も確実だ。

  また、次にだれに貸すのかは合議で決められるのだから、貸してもらう側の人選も日頃の行いなどから、きっちりと行われる。

  金融では「信用の創造」によって、資金流通が潤滑に行われるが、「信用」の源泉は、結局長期間にわたる人間同士の濃密な付き合いの中で生まれるのである。

  ちなみに、日本最初の信用組合とされる掛川信用組合(勧業資金積立組合が前身、現在掛川信用金庫として営業)が報徳運動の中心地掛川で二宮尊徳の教えを受け継ぐ岡田良一郎の手によって生まれたのは偶然では無い。

5)資本主義と共産社会の融合
  二宮が活動したのは、黒船が浦賀に来航するころまでの、江戸幕府が崩壊ヘと向かう混とんとした時代である。

  だからそ、農民出身でありながら幕臣にまで上り詰めたのだが、江戸時代の村を中心とした「共存社会」と「再投資」、「信用の創造」など極めて資本主義的な経済政策との橋渡しを行った人物とも言える。


 資本主義の閉塞感がある現代に、「人間同士の絆を基礎にした報徳運動」を基礎にした「人間資本主義」とでも呼ぶべき卓越した思想を生み出し普及・啓蒙した二宮金次郎の功績は、改めて評価されるべきだと考える。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
(毎週木曜日連載)


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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)

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