産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
7月号連載記事
■失敗のない人間は何もしてこなかったのである
●過去を変えることはできる
最先端のタイムマシンの研究(ほんの数十年前までは、タイムマシンの研究をしている科学者はマッド・サイエンティスト扱いでしたが、素粒子レベルでの研究は現在学問として認められつつあります)によれば、少なくとも素粒子レベルにおいては「現在から未来への移動」は実現可能とされていますが、「過去への移動」は、「タイムマシンが実際に制作されたときが限界」であるとされます。つまり、まだタイムマシンが制作されていない現在より過去への移動はできないとされています。
また「おじいさんのパラドックス」と呼ばれる問題もあります。
例えば読者の一人が過去にさかのぼって、自分のおじいさんを撃ち殺したとします。するとおじいさんの子孫であるその読者も現在存在しないことになってしまいます・・・もし、最近多くの科学者が主張するような多元宇宙論が正しいとすれば、読者の住んでいる宇宙と撃ち殺したおじいさんの宇宙が異なるということで矛盾が解消されるのですが・・・
いずれにせよ、アインシュタインの相対性理論に基づく「時間と空間」の概念にまで踏み込まないと、「物理的な過去」を変えることはできませんから、現実には不可能です。しかし、我々が通常「過去」と呼んでいるものは「記憶している過去」であり、この過去は我々が思っているほど強固なものでは無く、意外に簡単に変えられるものです。
●過去とは脳の記憶である
一般に記憶というものは、コンピュータに登録した情報のように永遠不変のものだと思われていますが、最近の脳科学の研究では「記憶は呼び出されるたびに、変化していく」ことが明らかになっています。記憶を呼び出したときの状況に対応して、脳の記憶が書き換えられそれが(新たな)過去の記憶として残されるのです。もちろん、意図的に自分の都合のいいように記憶を改ざんするということではなく、脳が(限られた記憶容量を効率的に使用するため)その機能として、過去の記憶と現在の状況を照らし合わせて無意識に「整理統合」を行うことから起こる現象です。
これを確かめるために大規模に行われたのが「9・11テロの記憶の追跡」です。
まず、テロ直後の関係者の証言をビデオに収めます。その後、半年後・1年後・2年後というように、同じ事柄に対する証言を同じ人物に同じ場所でしてもらいます。その証言を時系列に並べると本当に驚くのですが、証言内容が毎回異なるだけではなく、だんだん自分自身が体験しているはずが無いことまで自身の体験として証言するようになるのです。もちろん、証言者が嘘をつく動機はありませんから、テレビや新聞で繰り返し報道する内容などが、事件当時の記憶と融合して自分自身の体験のように感じられるようになったのだと考えられます。
●失敗は失敗ではない
「成功には1000人の父親がいるが、失敗は孤児である」。現実とは厳しいものです・・・私も「俺の人生はもう終わりだ!」と思うような失敗を何回かしましたが、おかげさまで私の人生は(今のところ)終わっていません。
例えば、A君とB君という何から何まで同じのクロ―ン人間のような若者がいたとします。そして同じ会社に同期で入社し、同じ部署に配属され、同じ大失敗をやらかし、同じタイミングで会社を首になります。
ここから二人の人生がわかれます。
A君は一念発起して、ベンチャー企業を起こし、紆余曲折はあったものの一部上場企業にまで上り詰めます。A君の会社紹介では、必ず入社早々の大失敗のことに触れ「あの失敗があったからこそ、今の当社がある」と繰り返し「賞賛」されます。
それに対してB君は、失意のままとりあえず転職したものの、「あの失敗さえなければ」と悶々として仕事に対する情熱も生まれず、転職を繰り返し、晩年には生活保護を受けながら「あの失敗さえなければ」とつぶやき亡くなります・・・。
「過去を書き換える」とはこのようなことなのです。
繰り返しますが、「過去」とは、繰り返し書き換えられる人間の記憶の中に存在するものなのです。
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7月号をご参照ください。
(大原浩)
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