書評:「ゆらぎ」と「遅れ」 不確実さの数理学
大平徹 著、新潮社
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「神の方程式」と呼ばれる「すべての事象をたった一つの方程式で表す」ことを目指す、相対性理論や量子論などの対岸にある「不確実さの解明を目指す【現実の科学】」のうち、「ゆらぎ」と「遅れ」にスポットをあてて解説した本です。
「ゆらぎ」と「遅れ」だけではなく、「確率」や「複雑系」などの根本的事象にも触れた、比較的わかりやすい解説書だと思います。
「ゆらぎ」に関しては、「共鳴」が最も興味深い話です。著者や私が学生のころ、短波放送で世界中のラジオ局の放送を聞き、ラジオ局から「ベリカード」というものをもらうことがはやりましたが、その短波放送のチャンネルのベストポジション(ダイヤル式ですから・・・)を見つけるのが一苦労でした。
そのチューニングに「ゆらぎ」やそこから派生する「共鳴」が大きく関係しているわけです。ちなみに電波の「ノイズ」もゆらぎです。
「遅れ」の代表的なものは「フィードバック」です。カラオケのマイクでいわゆるハウリング現象が起こるのは<カラオケのスピーカーから出た音をマイクが拾い、それをまたスピーカーが再生するということを繰り返す>からだということをご存知の方も多いと思います。
個々のエピソードはなかなか面白く、解説も平易なので入門書としてはよくできていると思います。
ただ、その割には経済や金融に関する応用の話が出てきますが、よく言われる「Jカーブ効果」は、そのような現象が本当に存在するのか不明ですし、フラッシュ・トレーディングは、昔から行われている「場立」や「ブローカー」の「鞘抜き」を高速コンピュータで行っているにすぎません。
例えば、場立(ブローカー)が大口顧客から大量の買い注文を受けたとします。場立は、顧客の注文を市場にオープンにする前に、自己勘定で市場から買います。その後大量の買い注文によって市場価格が上がるのは間違いありませんから、場立はその上がった価格で売り抜け確実に儲けるわけです。
銀行のトレーディング部門も、メーカーや商社から大口の売買注文があると同じ手法で儲けていました。私が現役のディーラーであった時には、珍しくありませんでしたが、現在は場立も存在しませんし、取引もコンピュータ化されていますから廃れているかもしれません。その代り、フラッシュ・トレーディングがはやるのかもしれません。
最終章は、著者の個人的な雑感ですが、その視点には共鳴するところがあります。人間の脳の機能においても「ゆらぎ」や「遅れ」(こうもりをはじめとする生物のセンサーなどにもこれらは応用されている)は重要ですから、それらが基本的に存在しないコンピュータがいくら進化しても、「意識」を持つことは無いように思います。
●がん検診で陽性と判断されても本当にがんである確率は4%未満である
本書評でここのところ「確率論」にかかわる書籍をご紹介することが多いのですが、毎日新聞でこれらの書籍によく取り上げられる「教科書的事例」に関する記事が出ていたのでご紹介します。
1000人のうち10人存在するがん患者のうち8人を見つけることができる(つまり80%のがん患者を見つけることができる)検査というと、いかにも精度が高いと思われがちなのですが、「確率論的」に筋道立てて考えると、それが全く違うということがよくわかります。
確率論というのは、直感的に非常にわかりにくいのですが、がん検診をはじめとする医療検診の結果の信頼度が低いのは次の理由によります(確率論の本では必ずと言っていいほど取り上げられる事例)。
1)がんの有病率が1%とします
検診を受けた人のうち、実際にがんである人の割合は1%=10人です。つまりがんではない人は990人です。
2)この検査の「感度」は80%のため、実際にがんである人10人のうち、検査で「がんの疑い」と判定されるのは8人(80%)です。
3)「特異度」も80%のため、がんでない990人のうち、判定が「がんの疑いでない」とされるのは792人(80%)。逆に「がんの疑い」とされるのは198人(20%)です。
4)2)と3)を合わせて216人の陽性判定(がんの疑いがあるとされた人)(=8人+198人)のうち、本当にがんであるのは2)の8人だけですから、8÷216=0.037。
5)つまりがん検診で「あなたはがんの疑いがある」と宣告された人のうち、本当にがんである人は4%未満であり96%以上の人ががんとは無縁であるということです。
私の友人にも「がんの陽性判定」を受けて衝撃を受けている人が少なからずいますが、この事実を知ればかなり安心でしょう。
多くの確率論の本を読むと、この事実を確率論的に理解している医師は全体の1割をはるかに下回ります。ほとんど無意味ながん検診が広く行われている理由の一つです。
ちなみに「感度」を80%以上に上げればよいと考える方もいるかと思いますが、感度を上げればそれだけ「がんではないのに陽性判定される人の比率」が増えいわゆる「疑陽性」の数が増大します。上記の例で言えば、真の陽性比率が4%未満からさらに低下するということです。
逆に感度を下げれば、「がんであるのに検査で陰性(がんではない)と判定される比率」が高まり、がん検診の意味がますます薄れます。したがって、通常の検査ではできる限り「感度」を高めるようにします。
つまり、がん検診におけるいわゆる「疑陽性の問題」は少なくとも現在解決不能ということで、「検診のジレンマ」と呼んでもよいかもしれません。
「確率」は人間が直感的に理解しにくい理論であるため、医療以外でもこのような「誤解」の事例はたくさんあります。特に投資においてはこのよう「誤った直感による確率の解釈」を避けることが成功の一つです(ほとんどの投資家は誤った直感的確率に従って取引を行っている)。
<毎日新聞の記事>
https://mainichi.jp/articles/20180506/ddm/016/040/002000c
(大原浩)
*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/
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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関し
ては御自身の責任と判断で願います。)
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