世界的な長期金利上昇(債券相場下落)が、通貨の強弱に影響しています。
主要国の中で先んじて、量的緩和政策から金融政策正常化に動いてきたのが米国でした。以来、為替相場の基調はドル高を中心に動いてきました。しかし、債券相場のキーは欧州中銀(ECB)です。ECB総裁のマリオ・ドラギ氏の発言が債券市場に最も大きな影響を与えています。
ドラギ総裁は、欧州金融危機の際にも危機回避の指揮をとり、今回は、出口へ誘導します。ドラギ氏の「ユーロ圏のリフレ」への言及から、出口観測は始まりました。まずは、テーパリング(量的緩和政策による債券購入の段階的縮小)、そして、その後には利上げもあるだろう、という観測が徐々に高まりました。
以来、ユーロ圏の長期金利上昇が、米国以上に他の主要国の金利水準に影響を与えるようになっています。
先週央に直近のECB理事会の議事録要旨が公表された後には、ユーロ圏の長期金利のベンチマークであるドイツ国債10年物金利が、これまでの上値の節目とみられていた0.5%を上抜け。また、フランス国債入札も今後の金利上昇見通しを嫌気して低調な結果に終わりっています。
また、昨日は、ドイツのメルケル首相による「ECBの金融政策は、望む地点にまだ達していない」発言もユーロ買いに影響しました。通貨ユーロの指標は、買われ過ぎゾーンに入りつつありますが、金融政策正常化期待でのユーロ高はしばらく続きそうです。
対米ドルで、直近1.1480水準まで上昇、次の上昇目標と考えてきた1.16まで近い距離まで来てしまいました。
金融政策以外でも、ユーロ高に影響する材料と考えられるのが、最近の独仏関係です。ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン新大統領の独仏の風通しが良いように見受けられ、これまであったユーロ分裂不安問題が後退していることもユーロ買いの背景でしょう。
さて、米国の金融政策の注目は、これまで量的緩和により債券購入を続け膨らんでいるFRBのバランスシートの縮小です。縮小自体は決まっていると伝わりますが、「いつ始めるのか?」が市場の関心事です。イエレン議長率いるFRBは、これまで経済、市場の状況や反応をよく見つつ、やるべきことを実施したきたように思います。また、トランプ新大統領がイエレン議長の再任を認めないとの方向を示してきたので、任期中に金融政策としてやるべきことは(状況を注視しつつも)やっておくという姿勢が見られます。
バランスシートの縮小は、早ければ夏休み明けの9月、主流な見方としては今年暮れ位から開始するのではないかとみられています。ただ、急いで実行することで市場に混乱を及ぼしたくないというのも本意でしょうから、市場に少しずつ織り込ませながら、実施タイミングを計っていくのではないでしょうか。
一方、世界的長期金利の上昇は、異次元緩和政策の出口は遠いと見られている日本の債券利回りにも影響。7月7日、日本国債10年債物の利回りが0.10%超になったところで、日銀は指値オペを行いました。0%水準に長期金利を誘導していくという政策に基づいたものです。欧米と日本の政策当局が今居る場所の違いが示されたことから、ドル円の下値が切りあがりました。
昨日は、トランプ大統領のロシア疑惑の新しいスキャンダル的報道から、114円台中盤まで上昇した相場が113円台まで戻してきました。また、ユーロと同じく、ドル円相場も買われ過ぎゾーンに来たこともあり、今後も相場調整もあろうかと思いますが、当面の基調は、ユーロ高、円安。米ドルは通貨によりまちまち。対ユーロ比重が高いドル指標であるドル・インデックスは、直近で昨年9月以来の安値に来ています。
今の円安基調は、金融政策の欧米との違いを主な背景としていますが、加えて、深刻さが増す北朝鮮情勢リスク、安倍政権の求心力挽回を狙った政策シフト期待(憲法改正実現への傾斜から経済政策優先に戻る)も含まれているのではないでしょうか。押し目買い対応がしばらく有効ではないかと思っています。
最後に、いつも付け加えている英国ネタです。
BREXITの実際の交渉が6月から開始しました。
まずは、EU離脱金や在英EU市民の権利、北アイルランドの問題の合意を目指した交渉から始まりました。次に、自由貿易協定を含めたEUとUKの今後の関係性について話し合われることになります。過半数を取れていない現政権で、UKが望む結果が得られるのか。2019年3月の離脱最終期限までの交渉プロセスが注目されます。
今週の最大の注目は、米FRBのイエレン議長の上院、下院での議会証言です。
次の利上げ及びバランスシート縮小。ユーロ高ドル安の今、夏休み明けの9月にも実施するのか?ヒントが得られるかもしれない機会です。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございます。
豪雨被害に合われた方々には、状況が早期に改善されますように祈念しています。
そして、猛暑が続いていますので、水分・塩分・栄養補給して、暑さを乗りきましょう!
※7月12日東京時間12:00執筆
本号の情報は7月11日のニューヨーク市場終値ベースを参照しています。
なお、記載内容および筆者見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
コメント
コメントを書く