【ポイント】
1.垣内威彦新社長のもと、新たな中計を推進。業界トップ級の経営資源の活性化により、強固な収益基盤の再構築が期待できる。
2.16/3期に大口の減損損失を計上したことで、中期的な償却負担の減少が見込まれる。
3.17/3期第1四半期(1Q)の連結業績は順調な滑り出し。会社側通期純利益見通し(2500億円)に対する進捗率は40%。
4.配当には下限(1株当たり60円)を設定し、持続的な利益成長に合わせて増配していく方針。
5.グローバルな人口増に伴う将来的な資源・エネルギー、食糧などの需給逼迫、市況上昇を視野に入れ、中長期的な投資対象となる。
【特徴・概要】
三菱グループの中核企業。戦前から総合商社として活躍。
現在は、新産業金融事業、エネルギー事業、金属、機械、化学品、生活産業、地球環境・インフラ事業の7事業部門を擁し、資源分野、非資源分野双方に強みを持つ、最も「総合商社らしい総合商社」。
資源分野では、上流権益の保有に加えてトレーディングにも強く、国内向け総輸入量(同社がトレーディングにのみ関与しているものも含む)における同社の シェアは(15年暦年実績)、LNG(液化天然ガス)34%、石炭(原料炭)31%、銅12%、石炭(一般炭)16%、アルミ17%、鉄鉱石4%。
非資源分野では、機械で自動車、生活産業で食糧・食品、化学品など幅広い収益基盤が特徴で、新産業金融事業(リース、投資ファンド等)、地球環境・インフラ事業などの分野でも同業他社をリードする。
【垣内新社長のもとで新たな中期経営計画を推進】
同社は17/3期より、垣内威彦新社長のもと新たな「中期経営戦略2018」を推進する。従来から強みを持つ非資源分野のさらなる成長、資源分野での積極的な資産の入替えなどにより、収益水準の回復を図る考え。
垣内社長は畜産などの食糧や食品部門が長く、13年に生活産業グループ(食糧、食品、小売・流通、衣料品など)のCEOに就任。生活産業の収益を大きく拡大した実績を持つ。
新たな中期経営計画の「目指す企業像」は、「創意工夫により新たなビジネスモデルを構築し、自らの意思で社会に役立つ事業価値を追求していくことで、経営能力の高い人材が育つ会社」。
また、「向こう3カ年の経営の考え方」として、
1)「資源」と「非資源」のバランスの見直し
2)キャッシュフロー重視の経営
3)「事業投資」から「事業経営」へのシフト
4)「事業のライフスタイル」を踏まえた入替の加速
を挙げている。
これらは、一見すると、何の新鮮味も感じられないが、垣内社長は、投資規律、資産入替えなどのルールを厳格化し、社員が「自らの責任のもと、自ら考え、自ら実践する」ことを徹底して求める方針。
特に、4)は、「事業のライフスタイル」の見極めが非常に難しく、また思うようなタイミング、価格で売却できるのか、買収できるのかも未知数。
社員の評価に関しては信賞必罰を徹底するものと思われ、同社の総合商社トップクラスの人材が上記の方針により「精鋭部隊」と化すことは、着実な収益力向上につながるものと期待される。
また、資源分野については、「優良資産への投資を継続しながら、入替を通じて投融資残高を一定に保ち、質の向上を図る」としており、もはや市況の大幅な回復が期待薄であるなか、「投融資残高を一定に保つ」ことで、自ずと野放図な新規投融資は手控えられるだろう。
従来同社は、豪州の原料炭事業をはじめコスト競争力の高い優良資産を多く保有している。大口の減損損失を計上したことで、償却負担は軽減される見込みであり、上記方針を徹底することで、今後は資源市況が伸び悩むなかでも一定の利益計上が可能となるだろう。
【業績動向~16/3期連結業績】
16/3期の連結業績は、純損益が1494億円の大幅な赤字となった(15/3期は4006億円の黒字)。
低迷する資源市況を踏まえて保有資産を入念に精査した結果、資源分野(金属、エネルギー事業)を中心に総額4260億円の減損損失が発生したことが主因。
大口損失の主な案件は、資源分野で、チリ銅事業の2710億円、西豪州ブラウズLNG(液化天然ガス)事業の400億円、豪州鉄鉱石事業の290億円、南アフリカフェロクロム事業の170億円。非資源分野でも海外発電事業、船舶関連などで410億円の損失が発生した。
セグメント別では、金属、エネルギー事業が上記要因により最終赤字に。
非資源分野では、地球環境・インフラ事業(北海油田案件における債務保証損失引当金の振り戻し益を計上したことが大きく寄与)、新産業金融事業(リース事業などが好調に推移)が増益。
一方、機械、化学品、生活産業は減益だった。
機械はタイ、インドネシアなどの自動車関連事業の減速、船舶事業における一過性の損失などが影響。
生活産業は、15/3期に計上した減損振り戻し益の反動が大きかった。
【業績動向~17/3期1Q連結業績】
17/3期第1四半期(1Q)の連結業績は、純利益が前年同期比35%増の1008億円となった。一過性利益320億円(資源分野230億円、非資源分野90億円)が大幅増益に寄与。
内訳は、一過性利益がシェールガスや食肉関連事業再編に関する利益など370億円。一方、一過性損失は船舶関連の減損損失など50億円であった。
一過性利益を除くと、資源価格の下落がマイナスに働いたが、豪州石炭事業におけるコスト改善やチリ、ノルウェーの鮭鱒養殖事業における市況回復で補った。
会社側は17/3期通期の連結純利益計画2500億円を据え置いた。1Qの純利益実績の進捗率は40%に達している。
会社側は2Q以降、さらに一過性利益200億円を見込んでおり、同社の収益力を勘案すれば、増額修正は必至といえる。
同社の利益計上は通常、下期に偏る傾向があり、今1Q決算は順調な滑り出しと評価できるだろう。
豪州石炭事業における販売量増加や生産コストの改善が確認できたことに加え、タイの自動車事業が回復傾向にあること、16/3期に大きく足を引っ張った鮭鱒養殖事業の回復などは、17/3期以降の業績を見通すうえでのプラス材料といえる。
【業績動向~18/3期以降】
原油市況、鉄鋼原料(鉄鉱石、原料炭)の市況は底打ちしたものの、需給バランスが大きく改善したとはいえず、市況の回復はあっても、極めて緩やかになるものと予想する。
こうしたなかにあって、同社の連結業績は増益基調を維持するだろう。
資源分野はコスト削減の徹底、資産の入替えなどの効果で小幅ながら利益は増加に向かうと予想。また、英国の欧州連合(EU)離脱問題、欧米での難民問題など「アンチ・グローバリゼーション」が世界を席巻しつつあり、主要国では「内需拡大」に景気対策が傾きつつある。
長期金利が先進国中心に過去最低水準まで低下するなか、金融機能の提供を含むインフラ投資ニーズが拡大しており、これらの恩恵もあり、同社の地球環境・インフラ事業、新産業金融事業は着実に利益が増加するだろう。
機械、化学品、生活産業など、伝統的に強みを持つ非資源分野も利益拡大が見込まれる。
また、長期的には、資源市況の需給バランスが改善し、市況上昇が同社の連結業績の拡大に貢献する局面が再び訪れるものと予想する。
【株主還元は配当を基本に】
新たな中計で同社は、株主還元については「配当を基本とする」としており、年配当60円を下限に、持続的な利益成長に合わせて増配していく累進配当を基 本方針としている。「増配額は柔軟に決定する」としているが、60円を下限としたことは、業績動向によっての減配を懸念する市場の安心感につながるだろ う。
世界の主要中銀が軒並み「非伝統的な金融緩和政策」を推進するなかでは、将来のインフレの萌芽は育ちつつあるものと考えていいだろう。
同業他社との比較では、年配当利回りはさほど高くはないが、「配当を享受しつつ、将来的な資源・エネルギー、食糧などの需給逼迫、市況上昇に備える」には最適な投資対象と考える。
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆 様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、当該情報は執筆時点での取材及び調査に基づいております。配信時点と状況が変化して いる可能性があります。)
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