岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/02/21
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この記事は、KADOKAWAから発売された岡田斗司夫の『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』から、一部抜粋してお届けします。
『君の名は。』は二十一世紀の『ローマの休日』
2016年に公開された映画『君の名は。』は、最終的な興行収入が250億円を突破し、歴代の邦画興行収入ランキングでも『千と千尋の神隠し』に次ぐ二位となりました。中国をはじめとする海外でも好成績を収め、全世界の興行収入では『千と千尋の神隠し』を上回っています。
映画の画的な個性のことを「ルック」といいますが、これまでの邦画は洋画に比べて、ルックで大きく後れをとっていたと僕は思います。
たとえば、『スター・ウォーズ』シリーズは、ものすごく画が本格的です。一つの カットをバンと見せられただけでも観客は圧倒され、その世界に引き込まれてしまう。
『スター・ウォーズ』の第一作目で、巨大な戦艦、スター・デストロイヤーが画面のほとんどを覆い尽くす様子。惑星タトゥイーンに沈む二重太陽の美しさと異世界感。邦画はなかなかああいう本格的な画がつくれなかったんですね、せいぜい珍しい風景を映す程度。新海誠は世界に通じるルックをもっている、日本では稀有な作家です。
『君の名は。』は、21世紀の『ローマの休日』(1953年)になったのかもしれません。『ローマの休日』は、恋愛ドラマの原型のなかの原型といえるハリウッド映画です。みんなが憧れる観光地ローマを舞台にして、お姫様と新聞記者が恋をする。
あの当時はそれが世界の恋愛映画だったわけですが、『君の名は。』はそういうワールドスタンダードになりえるし、それが日本のアニメから出てきたのはとても嬉しい。黒澤明監督『七人の侍』以来、久しぶりに日本映画が世界の映画にショックを与えること になるでしょう。
事実、新『スター・ウォーズ』の監督も務めるJ.J.エイブラムスが監督して、実写版の『君の名は。』の製作がハリウッドで進んでいます。
ハリウッドにも『君の名は。』が評価された理由は、大きく二つ、いまお話しした「ルック」、そしてもう一つは、物語の大きな「構造」だと僕は考えています。
倉本聰の心を動かしたあまりにも美しい風景
まず、「ルック」から見ていきましょう。
『君の名は。』の新しい点は、普通の風景をものすごくきれいに撮ったことにあります。たんにきれいというだけでなく、映画やドラマの業界に影響を与えるほどのインパクトがありました。
2017年1月8日、「北の国から35周年 倉本聰が語る秘められた真実」という番組をフジテレビが放映しました。ご存じのとおり、倉本聰は『北の国から』などの脚本家で、彼の主宰する富良野塾は演技派の俳優を輩出しています。
番組のなかで、インタビュアが倉本に「『君の名は。』を観ましたか?」と尋ねたところ、その途端、倉本は「観たよ、すごいね!」と答えて、『君の名は。』を絶賛しはじめました。「むしろそっちの世界に行くべきなのかな」と言い出して、アニメにも意欲を 見せたので驚きました。
なぜ倉本がアニメ『君の名は。』をそこまで意識しているのか。
『北の国から』のシリーズはずっとつくられ続けるものだとみんな思っていたけれど、 いろいろな事情があってそうできなくなってしまった。でも僕が思うに、そのいちばんの理由は、富良野の美しい景色を実写のテレビドラマとして見せることに、倉本が限界を感じていたからではないでしょうか。
この記事は、KADOKAWAから発売された岡田斗司夫の『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』からお届けしました。
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