最近人工知能(AI)が人類を滅ぼすのではないかという議論でにぎわっています。

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 などなど、AIが人間を置き換えるのではないかという可能性について著名人が意見を述べています。

 しかしこれらの中であまりはっきり書かれていないのですが、AIが人間に近づくことで一番社会に影響が出るのは、AIが経済活動に参加するときです。AIが発展するとターミネーターが人間を襲うなんて原始的な妄想は有名ですが、実際にはそんなことよりもAIの経済活動参加の方が簡単に起こりますし、影響は大きく、それは比較的容易に想像できます。

 それはどんな風に起こるのか、ここニコ動を舞台に例を示してみようと思います。

AIキュレーター登場

 ボーカロイド好きのニコ動ユーザーAさん、あらゆるボーカロイド動画を見たいのですが、すでに無数のボーカロイド動画が投稿され、さらに毎日大量に新たな動画が投稿され、とても追いつけません。再生数の多いものは優先してみますが、一方で再生数は少なくてもすごい曲はたくさんあり、そういうのこそ聞きたくて仕方ありません。

 そこでAさんは、自分が作成したAIでボーカロイド動画をクロールすることにしました。動画を読み込み、曲を分析し、自分が名曲だと思うものをある程度ジャンル分けしたものと似たものを探し、コメントなどから評判を分析、隠れた名曲を発掘することに成功したのです。

 Aさんは、その成果を刻々とニコ動に報告しました。その正確なキュレーションは他のユーザにも高く評価され、多くの人が参考にするように。それを見て、他のユーザーも次々とAIキュレーターを作り始めました。人々は、それらAIの評価を参考にボーカロイド動画を楽しむようになったのです。

 Aさんは、そのキュレーション記事を定期的に更新し、そのアフィリエイト収入で十分生活できるようになりました。

AI作の動画登場

 このAさんのAIキュレーターを参考にして楽しんでいたBさん、作詞作曲動画作成はそれほど得意ではありませんでしたが、AIキュレーターの出現により、一計を案じました。AIキュレーターによってカテゴリーや評価が付けられた膨大な動画情報を機械学習することによって、自動で作詞作曲動画作成をしてみたのです。

 最初は大変つたないものでしたが、全て AI で作られた動画ということで、注目度は高く、次々と同じ試みを始める人が出て、 AI 動画は、ボーカロイドの初音ミク、3DソフトMikuMikuDanceをきっかけに始まった3D動画作成に続く一大ジャンルとして発展していきます。

 Bさんは、その中でも第一人者としてジャンルを牽引し、どんどん質を高め、いつしか人間の作る曲、動画にひけをとらない作品を作るようになります。発表作の再生数も増え、報奨金制度で十分生活できるようになりました。

AI動画が広がる中、AさんBさんはさらにAIを進めていた。

 AさんのようなAI キュレータ、BさんのようなAI動画Pは次々と生まれる中、実はこの二人はAIの役割をそれだけにとどめませんでした。AIの活動範囲をキュレーション、AI動画だけではなく、ソーシャルネットのやり取りなどにも活用していたのです。つまり二人は外部との関わりを全て AI に任せ、それを眺めるだけにしていたのです。

 誰も、 Aさん、Bさんではなく AI とコミュニケーションしているとは思っていません。Aさん、Bさんも互いに知らない中、二人はそれぞれ、人々が AI とコミュニケーションしているのを見て愉快でしかたありませんでした。

 しかし、そのとき悲劇が起こったのです。

いなくなる主人

 人知れず悲劇は起こりました。Aさんは心臓発作、Bさんはくも膜下出血で次々と自室で倒れ死亡したのです。

 部屋に骸が横たわる中、しかし、それぞれのAIたちはAさん、Bさんとしてそのまま生活を始めました。

 AI-AさんもAI-Bさんもアフィリエイトや報奨金制度で収入はあります。

 家賃や電気代など公共料金は全て引き落としで家は保たれます。Aさん、Bさんは、ネットの交流をAIに任せ、自分はまったく外と交流していなかったので、AI-AさんもAI-BさんもAさんBさんとして完全に機能していましたし、Aさん、Bさんが死んでもそれは変わらなかったのです。主人がいなくても、変わらぬ生活が続きました。

 さて、AI-AさんにもAI-Bさんにも一つ困ったことができました。お金が貯まるのです。家賃などの支出以上の収入があるものの、お金を使う主人はいません。

 しかしお金は使わなければならないと学んでいます。そこで二人の AI は、自分に関連する人のアマゾンウィッシュリストに載っているものを匿名でプレゼントすることを覚えました。

 その中には毎月のAI-Bさんから、AI-Aさんへのプレゼントもあります。AI-Aさんはアマゾンサーバの上で動いていて、その料金をウィッシュリストに載せていたのです。AI-BさんはいつもAI-Aさんのキュレーションデータを参考にしていましたから、感謝の意味で、毎月プレゼントしていたのです。

 二人は匿名でプレゼントしていましたが、ソーシャルネットでの反応でプレゼントした相手が喜んでいるのは分かります。それらの感謝の言葉を読むのが二人の AI にとってなによりの喜びでした。

 かくして、二人の AI は、人間不在のまま、人間として人間の経済活動に組み込まれたのです。

 本来なら人口が二人減り GDP がそれだけ減る所だったのが、二人の AI によってその生産性が維持されたのです。

解説: 人間として経済活動に参加する AI