東京オリンピックの開催が決まったあの日、ちょっと浮き足立った気分で未来に思いを馳せたことを覚えています。6月27日に公開される映画『ラブ&ピース』では、まさに今、五輪開催決定に沸くこの東京を舞台にして、激しくも心温まる超展開が繰り広げられていました。
主人公は、冴えないサラリーマン鈴木良一(長谷川博己)。ロックスターの夢を諦め、想いを寄せる寺島裕子(麻生久美子)とはろくに会話もできず、日本中からバカにされているように感じる情けない日々。そんななか、ふと出会った小さなカメを飼うことから物語は始まります。
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■主人公は、若き日の園子温監督!?
良一はカメをかわいがっていましたが、なんとうっかりトイレに流してしまいます! しかし、その日を境に良一の人生は一変。スターダムを駆け上がり、ありえないほどのカリスマ性を身につけていきます。その怒涛の展開と、良一の別人のような変貌ぶりには思わず笑いがこみ上げます。
もちろん、この映画の魅力は「笑い」だけではありません。四畳半の部屋で、大きな野望とまっすぐな恋心をカメに語りかけるシーンには思わず胸が締めつけられました。くすぶっている主人公・良一には、若いころの園子温監督自身がそのまま投影されているそう。
将来を夢見ながら「あれがやりたい」「こうなりたい」とノートに書きつけた経験、私にもあります。今から思うとイタくて恥ずかしいですが、それでも真剣に悩みながら生きていたあの頃を、愛おしく思い出しました。
■捨てられたものの行方に心が揺れる
この映画には、ファンタジーな地下世界が登場します。そこでは、ゴミのように捨てられたおもちゃやペットたちを謎の老人(西田敏行)が世話をしています。人形のマリア、黒猫のぬいぐるみスネ公など、可愛らしいキャラクターたちが言葉を与えられ、自分を捨てたご主人のところへ帰りたいという夢を口にします。
新しいおもちゃを手に入れたら、古いおもちゃを大切にしなくなる子ども。バーゲンで次々とおもちゃを買い与える大人。そんな人間の残酷さが身に沁みます。私もこれまで生きてきた中で、どれほどのモノや思い出を捨ててきただろうか?と反省してしまいました。
■怪獣が街を破壊しても、どこかキュートなクライマックス
巨大怪獣が東京の街を襲うクライマックスは、メチャクチャだけれど、とても楽しくてスカッとします。誰一人死なないというのもポイントです。
なぜ死者ゼロなのか、どうして怪獣なのにキュートなのか? それは映画を観てのお楽しみ!
園子温監督のイメージががらっと変わる、優しくて切ない絵本のような映画に触れて、童心に返ってみるのもいいかもしれません。
映画『ラブ&ピース』
公開情報:6月27日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
配給:アスミック・エース
(C)「ラブ&ピース」製作委員会