誰ひとりとして携帯を持たない「グリーン・バンク」
それはウェストバージニアにある、「グリーン・バンク」。143人の住む小さな街で、ワシントンD.C.から約4時間離れたところに存在します。田舎だから近代テクノロジーにはるか劣っているのかというと、実はまったくの逆。最先端のGBT(Robert C. Byrd Green Bank Telescope=グリーン・バンク電波望遠鏡)を設置しており、方向転換できるもので世界一の大きさを誇ります。
そんな最先端の機械は巨大にして非常に繊細なため、テレビ、携帯、デジタルカメラやインターネットのルーターなど、ほんのわずかな電波やインターフェースにさえも大きく反応。そんな理由から、この地域では法律によりそれらの使用が認められておらず、携帯を持つ人は一人としていません。地域住民もそれを当たり前として受け入れ、のどかな人間本来の生活を楽しんでいるかのようです。
便利なはずのデジタル製品がストレスに
仕事上、あるいは生活上から、デジタル製品がまったく姿を消してしまうという事態は想像しかねます。連絡も取れず、まるで外の世界から孤立したようで戸惑うはず。しかしそんな法律を逆手に、エレクトロ・スモッグだらけの日常に嫌気がさし、できるだけエコな本来の人間として生活をしたい、身軽になりたいという人がグリーンバンクに引っ越してくるという傾向が、近年みられるといいます。
例えば仕事でストレスを多く抱える人。また電磁波に健康障害が出る人、あるいは耳鳴症に悩む人たちにとってみれば、国から「電磁気フリー区内・National Radio Quiet Zone」と指定される13000㎡のこの辺りは、駆け込み寺のような存在。電話などなくとも、用がある時にはその人のところへ出向いて、要件を伝えるだけ。
よく考えれば、昔はそんなこともあたり前のことでした。便利さを求めれば求めるほど、どこかでかならず支障や問題も起きてくるもの。グリーンバンクで文句を言う人は一人としておらず、なぜかとても穏やかで、幸せそうです。
「グリーン・バンクで働いている人たちは、みんなこういう暮らしがしたかった人たちばかりだ」
―GBTのオペレーター、ミカエル・ホルスティン氏のコメントより引用
世の中には必要な「不便」があってもいいのではないか、そして他人とのかかわり方についても深く考えさせられました。
[グリーン・バンク,Robert C. Byrd Green Bank Telescope,National Geographic]
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