長期にわたる療養生活が終わって、工場に復帰予定の主人公のサンドラは、会社から「職場復帰には、同僚の半数以上がボーナスをあきらめることが条件」と言い渡されます。しかも決定は週明けで、彼女に残されたのは週末の2日間だけ。「どうせ辞めさせられるんだ」と自暴自棄になるサンドラを励まして、同僚のところに説得に行くように勧めたのは、職場の親友と夫。そこからサンドラのツラい2日間が始まります。
連絡先も知らない同僚たちの住所を、ひとりひとり調べて訪ねるサンドラ。ある男性は、サンドラに同情はするけれど、奥さんも最近解雇され、子どもの学費が払えないから、と申し訳なさそうに断る。仲がいいと思っていた同僚はあからさまに居留守を使う。
「みんなの生活も大変なんだから、大金をあきらめろとは言えない」「まるで物乞いの気分だ」「もし職場に戻れたとしても、どんな顔で働いたらいいのか」と泣くサンドラ。どれももっともな意見です。ただ普通に職場復帰したいだけなのに、突然、同僚を敵に回すようなポジションにされてしまった彼女の戸惑いが痛いほど伝わってきて、ツラくなります。
それでも人生は捨てたもんじゃない遠くの小さな町で起こる2日間のできごとが、他人事とは思えないリアルさで胸に迫ります。ある日突然、理不尽だと思える理由で、仕事を失うかもしれない。そんな不安は、おそらく、いまの日本にいても同じようにあるものです。悪いのは社会であり、会社のはずなのに、同僚どうし、弱いものどうしを対立させるやり方には憤りを感じますが、こういうことも現実にありそう。「もしサンドラだったら」「もし同僚だったら」と考えると、簡単には答えの出せない問いかけに、頭が混乱してきます。
でも、よわよわしく続ける説得行脚のなかで、人生捨てたもんじゃない、と思える瞬間もありました。ボーナスを受け取るか諦めるか。答えは二つにひとつですが、ひとりひとり会って話すと、答えの後ろにはその人の揺れ動く「思い」がある。面倒に思えても、1対1で会って話す。人を動かす力の本質について考えさせられました。
監督はダルデンヌ兄弟。親から育児放棄された子ども、勢いで子どもを持ってしまった若いカップル、国籍をもらうために偽装結婚する女性など、彼らの作品に登場するのは社会的に弱い立場のひとたち。偽善的なやさしさや説教めいたメッセージを加えずに、彼らをリアルに描くことで、観客に、自分自身でその問題について考えることを求めているような気がします。
家族や同僚の大切さについて、仕事について。自分に引き寄せて考えたくなるテーマが詰まった作品です。
[サンドラの週末]
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:マリオン・コティヤール
5月23日(土)よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次ロードショー
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