ビオホテルとはなんぞや? といいますと、おもにドイツ、オーストリア、スイスなどドイツ語圏にあるビオホテル協会に加盟するホテルで、その数約100軒。
ホテル内のレストランの食事の素材はもちろん、コスメ、リネン、洗剤もオーガニック認証のある安心できるもの、建物は地元の持続可能な建材を使用、さらには電力も100%再生可能なエコ電力認証を得たものと、すべてにおいて体と心に優しい宿なのです。
ボーデン南のほとりの村、ハンガウにあるブルグンダーホーフ
しかし、どのビオホテルも、ストイックな「道場」的雰囲気は全くありません。ほとんどが家族経営の温かい雰囲気です。お客さんたちも、「思想」で集まってくるのではなく、ファッショナブルでハイエンドな感じです。
4年ほど前に、オーストリアで一番古いビオホテルである、チロル地方の〈グラフェナースト〉に泊まったときに知り合った30代のドイツ人のカップルは、旦那さんがアパレル・ブランドの社長、奥さんがグラフィク・デザイナー。「オーガニックを求めてビオホテルに来たのではない。クオリティを求めたらオーガニックが付いてきた」と言っていました。オーガニックは信頼できるクオリティの証なのですね。
時間がゆるやかに流れる場所前置きが長くなってしまってスミマセン。今回は、南ドイツのお宿を連載で3軒ご紹介いたします。
第1回目の今回は、スイスとの国境近く、ボーデン湖を見下ろすハンガウ村にある〈ブルグンダーホーフ〉。ここはドイツでも最近注目の赤ワイン品種・シュペートブルグンダー(フランス語ではピノ・ノワール)の産地としても名高く、オーナーのハイナー・レンさん(写真)のひいおじいさんの時代からワイン造りで生計を立てていました。
敷地のなかに小さな宿泊施設を作ろうと提案したのは、妻のアンドレア。栄養士という職業柄、健康によい料理が得意で、「人生は楽しいことをするには短すぎる。新しいアイディアが次々浮かぶタイプなの」というエネルギッシュな女性。約40年前のオープン当初から、食事、ベッドリネン、建材とケミカルなものはほとんど使っていませんでしたが、1年ほど前にビオホテル協会から直接働きかけがあってメンバーになりました。
12室すべての部屋にテーマがあり、私が泊まったコチラのお部屋は「ロマンチック」。カメラマンの山下さんのお部屋は、ワイナリーにちなみ「葡萄」でした。湖に面した部屋は、窓を開け放つと、湖とその手前に植えられた葡萄畑が一望でき、時間がゆるやかに流れていきます。テレビもなく、Wifiはつながりにくいけれど、自分と向き合うには絶好の場所。
人間も天然素材(?)ですから、自然に造られたものとなじみがよいのでしょうか、ここにいるだけで細胞が活性化するような心地よさが味わえます。
スタッフ総出で作る、夢のような朝ごはん〈ブルグンダーホーフ〉は、「ハンガウの村にはおいしいレストランがいろいろあるから」と、ディナーのサービスはありません。プロのシェフを雇わなければ宿泊費を抑えることができますもんね。
代わりに、スタッフ総出で作る朝ごはんは、まるで夢のよう。すいか、メロン、オレンジなどあらゆる種類のジュース、フルーツ、ヨーグルトがいわば前菜? シリアルはスペルト小麦や麻の実などニュートリシャスなものばかり。パンも全粒粉、ライ麦、オーガニック小麦と山のよう。レバーヴルスト(レバーソーセージ)、ブルートヴルスト(血のソーセージ)、シンケン(ハム)などの加工肉は、がっつり系に見えてするりとおなかに収まるのはやっぱり育ちのよいお肉だから?
メインの卵料理は、ハイナーの担当です。なんでもボランティアで地元の消防団に所属し、行事には料理を担当しているそうな。卵もビオディナミ(自然農法の一種)の認証団体デメーター加盟の生産者から仕入れており、12室しかないのに、毎日50〜60個を消費するそうです。この朝ごはんをいただいたら、もう夜まで食べなくてもいいかも......。すごい満足感です。
ホリスティックなマッサージで心も開放スパルームでは、通常のエステのほかに、北ドイツのハンブルク出身のインストラクターのイムカが、ホリスティックなセラピーを組み合わせたマッサージをしてくれます。
体の声を聞きたいとヨガを始めた彼女は、まずカナダ、そしてインドで研修を受け、「体と心は密接につながっているので、体の治療をすると心も開放される」。そこで、アンドレアが、あるエピソードを話してくれました。
数年前に、肩をけがして何年も不自由な思いをしていた人が、ここに来て数日、施術を受けながら滞在するうちに、肩が上がるようになったそう。これにいたく感動した彼は、22年間一緒に暮らしながら結婚しなかったパートナーにこの場でプロポーズをしたそうです! たしかにそんな不思議なことも起こりそうな独特の空気がここにはあります。イムカの施術を受けているアンドレアの肌の美しさもスゴイです。
ハイナー渾身のワインももちろんここで買えます。葡萄畑は、殺虫剤を撒くと、働いているみんなの体の調子が悪くなることから、ずっとオーガニック。もちろん作業は大変で、最初は、まわりの栽培家たちから変人扱いされましたが、彼のワインがさまざまな賞を獲り、認められ始めたことから、近隣にもオーガニックに切り替える人が増えているそうです。
こんなふうに、宿の人たちと話しているだけで一日が過ぎ、心地よい疲労とともに眠りに就くと、ふしぎと朝日と共に目が覚めました。こんなにぐっすり眠ったのは何年ぶり? あれ、私ったら自然のリズムに戻ってる?
さて、次のお宿ではどんな癒やしが待っているでしょうか?
Am Sonnenbühl 70
88709 Hangau am Bodensee, Deutschland
+44 (0) 7532 807 680
文/中濱潤子
協力/ビオホテル協会