同じビルの別の階に事務所を構える男友だちとすれ違いざま「ちょっと」、と呼びとめられた。部屋の入口で手招きするので近づいてみると、彼は手のひらに不思議なものをのせている。よーく目を凝らしてみてみると、三角おにぎりの上にスズメがのった人形。
「なんですかこれ、かわいい!」感嘆しながら指でつまむと、拍子抜けするほど軽い。
「ハトパン」は、食パンの上に、ハトがこしかけているように見える。現実的にはありえないけれど、組み合わせと表情の妙に、きゅっと胸をつかまれる。
一見するとつるんとツヤのある焼きものにも見えたそれが、竹や木の型に和紙を貼り合わせてつくる張子であると分かった。なんでも彼は、ついさっき立ち寄った百貨店の沖縄物産展で一目惚れをして、迷わず求めたのだという。
他にパンにハトがのったのもあったり、男心にもそこに並ぶ張子の人形を愛らしく思えたと嬉々として話してくれた。それが4~5年前のことで、私が豊永盛人さんを知るきっかけとなった。
「おにぎりスズメ」も見た通り、おにぎりにスズメがちょこんとのっている。スズメの表情に、思わず笑みがこぼれてしまう。
日本各地に「郷土玩具」と呼ばれる玩具があるけれど、制作をおこなう後継者が育たず姿を消してしまったものもたくさんある。郷土玩具は、玩具といいながらその土地ならではの信仰や風習にもとづくものがほとんどで、子どものおもちゃを越えて、観賞用に蒐集するおとなも多い。
「ちんちん馬」は、琉球張子の代表的なモチーフ。琉球王朝時代、競馬の場場へ向かう王さまの馬の晴れ姿をうつしたもの。
かつて沖縄には「イーリムン」という玩具市がたち、おとなも子どももみな楽しみにしていたそうだ。しかしそこで人気だった琉球張子も作り手が減り、みやげもの屋で見かける機会も少なくなった。
そんな琉球張子を復刻させ、さらに新たな創作をはじめたのが豊永盛人さん。私と同じ1976年生まれというから親しみが湧く。
「アートちんすこう」は、「沖縄の風」が沖縄で活躍するアーティストとコラボレーションした商品。豊永盛人さんの絵がプリントされたまるい箱に、「福祉作業所いずみ」がつくる、紅芋、黒ゴマ、黒糖、珈琲味のちんすこうが入っている。
沖縄帰りの男ともだちから、おみやげにもらった「ちんすこう」の箱にも、豊永盛人さんの絵があった。どうやら豊永さんの作品は、男性が「かわいい」と思うツボをくすぐるようだ。彼は豊永さんが那覇市で営む「玩具 Road Works」に立ち寄り、ご本人と話してきたという。ちょうど豊永さんはおやつの時間で、自分もお菓子をわけてもらったと喜んでいた。
3つの張子は全て、手のひらにのるほどの小さなサイズ。
私も豊永さんの張子作品が欲しくなって、その後、何度か東京都内の沖縄物産展に赴いた。けれどもいつも、これと決めていた豊永さんの作品は完売で、なかなか出会えない。そこでとうとう、沖縄に住まう作家の作品を扱う店の通信販売で、豊永さんの作品を求めた。
さっそく部屋に飾っているのだけれど、3体の張子と目が合うたび、気持ちのとげとげが削られて、さらに沖縄へと旅に出たくなる。
沖縄だけではない。子どもや土地の人々の気持ちを鎮め、祈りや願いを背負っていた日本各地の郷土玩具に触れる旅に出たい。今年の夏休みには、きっとどこかの郷土玩具に会いに行こう。