中学生の頃から祖母の影響で、竹久夢二が好きでした。10代の頃は画集や展覧会で、どこか憂いある表情の美人画ばかりを眺めていたのですが、20代で本郷にある「竹久夢二美術館」を訪れたのをきっかけに、夢二にはグラフィックデザイナーとしての一面もあることを知りました。

大正時代に開店した「港屋絵草紙店」という小間物店で、千代紙や封筒、便箋などの図案をデザインして販売し、女学生の間で大変な人気を集めたそうです。夢二が描いた図案は、今見ても新鮮でモダンなものばかり。最近でもハンカチやノートのような雑貨類、浴衣などにもあしらわれ、発売されています。

はじめて竹久夢二美術館で夢二の図案に触れたあと、その足で向かったのが、美術館から歩いて向かえる千駄木の「いせ辰」。

「いせ辰」は下町の風景が残る団子坂の途中にあります。

江戸時代創業の老舗で、江戸千代紙や紙雑貨、江戸犬張子がぎっしりと並んでいます。そこで、1枚300円~800円ほどする木版手摺の夢二の千代紙を色違いでまとめて買って帰り、毎日取り出してはうっとり見惚れる日々がはじまりました。

夢二図案で「いせ辰」が版権を所有する「マッチ」柄。

夢二図案で「いせ辰」が版権を所有する「ツバメ」柄。
一筆箋も「いせ辰」で購入。

夢二図案で「いせ辰」が版権を所有する「ヒガサ」柄。

夢二図案で「いせ辰」が版権を所有するゴンドラの柄。

夢二図案で「いせ辰」が版権を所有する十字架の柄。

「いせ辰」で販売される夢二の千代紙は、「いせ辰」 が版権を持っているので、流行関係なくいつでもそこに行けば求めることができます。そのため、最初は紙のまま大切にしていたのですが、気に入ったのはまた買いに行けばいいと、手元にあるものを、ブックカバーや封筒に作りかえ、夢二好きの祖母へのプレゼントに贈りました。

12年ほど前に「いせ辰」でオーダーメイドした紙の箱。
夢二デザインの図案の中でももっとも好きなマッチ柄の千代紙を選びました。

祖母は数年前に亡くなってしまったけれど、50歳以上年齢の離れた祖母と孫ふたりで、夢二の図案を前に少女時代の気持ちに戻って、きゃっきゃとときめきあったのは、楽しく忘れがたい思い出です。

(甲斐みのり)

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