悲しいのに、涙を流すと心が晴れるのはなぜ?
Q:悲しかったり、モヤモヤしたり。そんなとき、泣くとすっきりするのはなぜなのでしょうか。精神的に、泣くことの効用はあるのでしょうか。
A:涙を流してすっきり。精神的な効用は、研究で証明されています
大人になると「泣く」という行為は「恥ずかしい」「大人げない」とネガティブに受け取られがちです。しかし、「涙を流して泣くこと」の精神的な効用はさまざまな研究で証明されており、ポジティブな側面が注目されています。
そこで今回は、心に蓄積された悲しみやモヤモヤをすっきりと洗い流してくれる「涙」のヒミツについてお話しします。
「涙」が副交感神経を優位にするスイッチに
私たちの心や体は自律神経によってコントロールされています。 自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2つがあり、交感神経は心身の緊張を高める役割を、副交感神経は心身をリラックスさせる役割をそれぞれ担っています。
私たちの心と体は、ストレスを感じると交感神経の働きが強まります。その結果、心身の緊張が過剰になり、不安や恐怖などのネガティブな感情を抱きやすくなります。
このようなストレス状態を緩和する方法が「涙」です。ストレスによって交感神経が優位になっているときに、涙を流すと心身をリラックスさせる副交感神経が強く刺激されます。その結果、交感神経優位の状態から副交感神経優位の状態へと心身のスイッチが切り替わり、ストレス状態が和らぐと同時に、穏やかですっきりとした気持ちになるのです(※1)。
ストレス緩和には「情動性の涙」であることが大事
どんな涙でもストレスを緩和してくれるわけではありません。涙は次の3種類に分類できます。
・基礎分泌としての涙:瞳を潤ませるために持続的に微量が分泌されている涙
・反応性の涙:玉ねぎを切った際に出てくるような、刺激から防御するための涙
・情動性の涙: 自分の中に沸き起こる喜怒哀楽などの感情や、他者への共感などによって大きく心が動いた際に分泌される涙
この3つのうち、ストレスの緩和に役立つのは「情動性の涙」です。
涙の種類によるストレス緩和作用の違いについて調査した研究が2015年に発表されているのでご紹介します(※2)。
この研究では、まず被験者全員に一桁の暗算計算を15分間継続させてストレス負荷をかけます。そして被験者を3つのグループに分けて、以下のように介入しました。
・グループA:何もせず、20分間安静に過ごしてもらう
・グループB:目の前で玉ねぎのみじん切りを20分間継続して、反応性の涙を誘発する
・グループC:悲しみや感動を喚起する「泣ける動画」 を20分間視聴させて、情動性の涙を誘発する
その後、3つのグループに気分に関する質問を実施したところ、情動性の涙を流したCグループの被験者は他の2グループに比べて明らかに疲労度が低いことがわかりました。
また、交感神経と副交感神経のどちらが優位な状態かを調べる心拍変動解析でも、Cグループの人たちは副交感神経が優位に働いていることがわかりました。
このようにストレスを和らげ、心と体をすっきりさせるには「情動性の涙」が非常に効果的なのです。
「最近ストレスが溜まっているなぁ」「気分がモヤモヤして晴れないなぁ」と感じたら、感動できる映画やドラマなどにふれ、心置きなく涙を流す時間を作ってみてもいいかもしれませんね。
お知らせ
MYLOHASでは、年末に「心を動かす映画15選」を紹介する記事を掲載します。「泣ける映画」もたくさん。ぜひご覧ください(12月26日18時公開予定)。
参考資料
※1:有田秀穂(2007)涙とストレス緩和 日薬理誌 129 pp99-103.
※2 :高路奈保・中野友佳理・満居愛実・上利尚子・有安絵理名・吉村耕一(2015)情動性の涙のストレス緩和作用に関する研究 ストレス科学研究 30 pp138-144.
佐藤セイ(さとう・せい)
臨床心理士、公認心理師。精神科・心療内科、神経内科(もの忘れ外来)、リハビリテーション科、児童相談所、療育施設、刑務所などに勤務。現在はスクールカウンセラーをしながら、ライターとしても活動する。
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コメント
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>副交感神経を優位にするスイッチに
体液に乗せて過剰な脳ストレス物質を排出するから(物理的に眼に刺激を受けた際の水っぽい涙とは成分が異なる)、ではないの?