料理家・松本日奈さんが、台所を中心にまわる日常や「おいしい」に関わるモノやコト、台所仕事の負担を軽くして楽しいものにかえる“ひと工夫”をつづる連載「テーブルに ひと工夫」。

今回は、苦手、億劫と感じる人が多いであろう「せん切り」に向き合うヒントです。

淡々とした作業と心地よい音で、瞑想のような感覚に

料理の仕事をしていますが、私はきれいなせん切りが苦手です。みじん切りも。

億劫に感じていたのは、きれいに切り揃えようとがんばっていたからかもしれません。あるとき「うまく揃ってなくてもいい。だってできないんだから」と割り切ってからは、せん切りをすることがラクに感じられるようになりました。

切って塩をまとわせて置いておけば、お夕飯にはちょうど食べごろ。そんなタイミングで「よし、やろう」となるわけですが、切り始めると、その淡々とした作業の繰り返しと、トントンという心地いい音にすーっと入り込んで、知らないうちに無心になっています。ちょっと瞑想に近い感覚です。

そして切り終わると小さな達成感で頭がすっきりと、心も整うように感じられます。せん切りが苦手だからといって嫌いというわけではなく、むしろ楽しんでいるともいえます。

家庭料理は、作り手の負担にならないことが大切

「せん切りキャベツと砂肝のコンフィ」
切り込みを入れた砂肝は塩、ペッパー、ビネガー、ハーブでマリネしておき、にんにくのスライスと一緒に鍋に入れ、ひたひたにオリーブオイルを注いで柔らかくなるまで火を通す。

細く丁寧に切り揃えられた野菜たちは、空気を含んでふわっとしていて見た目も美しいですが、細いところや太いところがあっても、食感の違いがあってそれはそれでおいしい。家庭料理ですから、できる範囲で無理なくやればいいと思っています。

毎日のおうちごはんは、作り手がつらくならないことを優先していいと思っています。作る側も、食べる側も、食事はおたがいを楽しませ、満たすものですから。ごはんを用意しようとするその行為自体がすでに、愛情たっぷりなのです。

せん切りのポイント

写真上:キャベツは繊維を断つように切ると食感よく仕上がる。繊維が左右になる向きでキャベツをまな板に置き、包丁を縦にあてる。
写真下:厚さがないほうが切りやすい。キャベツやレタスなどの広がりやすい葉野菜は、巻いたり上から優しく抑えたりしてまとめながら切っていく。

松本日奈(まつもと・ひな)
料理家。北イタリア留学中に現地の料理人やマンマから料理を学ぶ。オリーブオイルや白バルサミコなどの調味料を使い、シンプルで素材を生かした家庭料理を提案。レシピ開発やケータリング、ひな弁と活動の幅を広げる。料理教室は毎回キャンセル待ちになるほどの人気ぶり。目黒区鷹番にある食材店「ラ・プティット・エピスリー」を営む夫、ふたりの娘、愛犬と暮らす。インスタグラム

写真・文/松本日奈

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