年末年始は飲み会三昧! という人も多いのではないでしょうか。先日マイロハスで実施したアンケート結果から、12月はとくに飲み会も増え、太ってしまう人が85%、また楽しすぎると食べすぎ、飲みすぎる人が55%以上もいることがわかりました。

今回、脳をコントロールして食べすぎ飲みすぎを防ぐ方法を、脳のエキスパート・脳神経外科医の菅原道仁先生に伺いました

食欲はじつは2種類ある!?

──先生、年末年始はどうしても食べすぎてしまうのですが、なぜなんでしょう?

菅原先生 :

飲み会、楽しいですもんね。テーブルに並ぶご馳走は、食欲をそそりますよね。
そもそも食欲というのは、人間の本能に直結した欲求です。
食べなければ死んでしまいますから、人間のDNAには「生きるために食べる」というミッションが組み込まれています。脳は本能に近いものを優先しますので、食欲はかなり優先度が高い欲求なんです。

──そうなんですね。では心おきなく食べてよいのでしょうか。

菅原先生  :

そうではありません。現代人は、あきらかに食べすぎ
食欲には「ピュアな食欲」と「フェイクな食欲」があり、本当に空腹を感じたときに食べ物を欲するのが「ピュアな食欲」です。
一方、空腹でもないのに「おいしそうだから食べよう」「話題のスイーツだから食べておいた方がいい」といった食欲は「フェイクの食欲」。
24時間365日食べ物の情報にさらされ、またいつでも食べ物が手に入る環境で生きる私たちは、フェイクの食欲に支配されているんです。

食べないともったいない! そう思ったことありますか?

──あ、このスイーツ日本初上陸の人気のお店で買ってきたんですけど、おひとつどうですか?

菅原先生  :

いえ、けっこうです。お気持ちだけいただきます。私は「フェイクの食欲」をコントロールできるのです。食べすぎを気にしていながら、なぜそのスイーツを買ったのですか?

──話題のお店のものだったので、食べなきゃ! と思って……。

菅原先生  :

その行動は、脳の特性からみるといくつかのポイントがあります。
まず、話題の店のスイーツを買ったことで「ドーパミン」が出たはずです。「ドーパミン」とは快楽物質で、何かを成し遂げたときや、成功体験を得たときに分泌される神経伝達物質です。

入手困難な話題の店のスイーツを手に入れた!」という成功体験によりドーパミンが出て、興奮を感じたでしょう。だからこれからも、話題の店のものが欲しくなります。

そして食べたらおいしかった! そこでもドーパミンが出ます。ドーパミンには依存性がありますから、脳はその行為を繰り返すようになります。つまり、おいしいものを食べてドーパミンがでると、どんどんおいしいものを欲してしまうんです。

もうひとつのポイントは、「損失回避性」という人間のクセ。得をするよりも損をしないほうを優先する心理です。さきほどのスイーツを「食べたことの喜び(得)」よりも「食べなかったことの後悔(損)」の方が心理的インパクトが大きいんです。だから飲み会に参加したら「食べなきゃもったいない」と思ってしまうんですね。

──確かに思います。それに、今年1年頑張ったんだし、年末ぐらい楽しく食べてもいいよね、って思います。

菅原先生  :

人間には「正常化バイアス」というクセがあります

たとえば、家族や友人が不摂生から大病を患ったとします。あなたはすぐに自分事化して、生活を見直しますか? 多くの人は「私は大丈夫」と、危険をスルーしてしまいます。この心理を「正常化バイアス」といいます。

人は予期しない事態に遭遇したときに「この出来事は正常の範囲内である」と自動的に認識するクセがあるのです。なぜなら、脳はいちいち反応していると疲れてしまうので、「心の平安を守ろう」と働くからです。

脳は基本的に怠け者なので、エネルギーを使うことを嫌います。だから「年末に食べすぎるのは、まあ許される範囲」と思ってしまうのでしょう。でも、食べすぎが健康にいいわけありませんよね。食べすぎは「正常の範囲内」ではありませんよ

食欲をコントロールする方法とは?

──(ショック……)先生はどうやって食欲をコントロールしているんですか?

菅原先生  :

方法はいろいろあります。脳をうまく使えば、誰でもできるようになりますよ

まずひとつは、「摂食中枢と満腹中枢」を正常に戻すこと

摂食中枢とは空腹感を生み出すもの、満腹中枢は「お腹いっぱいになったのでもう食べるのをやめよ」という指令を出すもの。この2つを司る注目のホルモンがあります。グレリン(食欲増進ホルモン)とレプチン(食欲抑制ホルモン)です。
さきほども言いましたが、人間は生きるために食べなければなりませんから、グレリンは「お腹がすいたので何かを食べよ」と指令を出します。しかし、食欲を増してしまうので、食べすぎさんには厄介な存在ですね。

実はこのグレリンは、運動することで分泌が抑えられるといわれています。つまり、食欲を増進させるホルモンを減らせるのです。

次にレプチンですが、こちらは良質な睡眠により、増やすことができるといわれています。食欲抑制ホルモンはたっぷり出てほしいですよね。睡眠時間が短いと、グレリンも増えるので、夜更かしは食べすぎさんには何もいいことありません。

──運動をして食欲増進を抑え、よく眠って食欲を減らすということですね。

菅原先生  :

その通りです。現代人は運動をしない、睡眠時間が短いという人が多く、それにより食欲中枢コントロールが乱れているので、余計に過食になりがちなのです。

もうひとつ、脳は「選択に迷う」ことが嫌いです。エネルギーを余計に消費するからです。

ビジネスの成功者は、いつも同じデザインの服を着ている人が少なくありません。それは、余計な選択をしないことで、脳のリソースを本業に使うためです。
みなさんはおそらく、仕事や恋愛、SNS、ファッションや食事など、毎日ものすごい数の「選択」をしているでしょう。食欲コントロール、つまり食べ方のクオリティを上げるには、生活の中の選択肢を減らすこと

「もう疲れたし、お腹すいたから今日のご飯は何でもいいや」という状態は、脳が疲れている証拠です。

──ではどうしたらいいのでしょう?

菅原先生 :

それは「選択肢を減らし、迷わずに決める」こと。私は物事を常にシンプルに考え、服もパターンを決めています。
食事も体にいいものを10くらい決めておき、それをローテーションして食べています。そうすると、自分の体調などを考えながら、きちんと選択できる余裕が生まれるのです。

脳が大嫌いなことを逆手にとる

──選択すること、確かに多すぎます。毎日「今日のランチ何にしようかな」と迷いまくっています。

菅原先生  :

行く店や食べるメニューをある程度固定化するといいですよ。物事がスパッと決まると、脳は喜んでいますから。

それから、脳は面倒くさいことが大嫌いです。それを逆手に取りましょう。こまめに歯を磨いたり、女性だったら食後すぐにリップを塗りなおす。そうすると、また直すのが面倒なので食事を控えますよね。

ほかにも左手で食べるとか、飲み会のときは食べものが取りにくい席に座るなど、「もう面倒くさいから食べなくていいや」と思えます。

ここで、先ほどの「損失回避性」がむくむくと湧き上がってくるかもしれませんが、食べないことは損ではありませんのでご注意を

──なるほど。でも飲み会は楽しくて、つい羽目を外しそう……。

菅原先生  :

飲み会が悪いのではありません。楽しい会にはぜひ参加してください

どう食べるか、どう飲むか」がコントロールできればいいのです。野菜や食物繊維を先に食べるとか、油物や炭水化物は控えるとか、頭を使って食べましょう。
正常化バイアスも外してくださいね。楽しいことと自分の健康を、しっかり天秤にかけてください。

ストレスで食べすぎないようにするには?

──先生はストレスでつい食べちゃうことってないんですか?

菅原先生  :

ないですよ。それにはいい方法があります。

「メタ認知」という方法です。メタ認知とは、神様のような視点で自分自身を監視し、コントロールしていく力。

目の前のビールと唐揚げから、視点をずっと高く引き上げてください。自分の人生を俯瞰してみましょう。ビール片手に唐揚げをほおばる自分は、理想の自分でしょうか? 

「ストレス解消は食べるのが一番」という人がいますが、解消されるのは一瞬だけ。そのあとは長く続く後悔だけが残ります。食べることでストレスは解消されないのです。

メタ認知力を発動させるのも食欲コントロールのひとつの方法です。

──なんかむずかしそうですね。

菅原先生 :

ではちょっと発想を変えてみましょうか。電車に乗るときに、「何両目に乗るとエスカレーターが近いか」と考えませんか? そして、もっとも近い車両に乗り込みますよね。これもメタ認知のひとつです。
自分が移動するルートを俯瞰して、行動を決定しています。

食事も同じ。理想の自分を想定し、そこから逆算して今の行動を選択すればいいのです

食欲に打ち勝つ「いい呪文」

──なるほど。わかりやすいですね。今日から食欲に打ち勝てるかしら……。

菅原先生  :

いい呪文がありますよ!

食欲が暴走しそうになったら「この食事、本当に私の人生に役に立つか」と自問してください
理想の自分に目の前の一口は本当に必要なのか、自分に語り掛けてください。

そしてもうひとつ。食事以外の楽しいことを見つけましょう。食事以外でドーパミンが出るようになると、徐々に欲求がそちらに移っていきますから。

──そうですね! さっきのスイーツ、もういらない気がしてきました!

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目の前の一口は本当に必要?
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菅原道仁(すがわら・みちひと)先生
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック院長。1970年生まれ。杏林大学医学部卒業後、国立国際医療研究センターに勤務。2000年より脳神経外科専門の北原国際病院(東京・八王子市)に15年間勤務。毎月1,500人以上の診療をおこなう。2015年に菅原脳神経外科クリニック(東京都・八王子市)、2019年に菅原クリニック 東京脳ドック(港区・赤坂)を開院。著書に『死ぬまで健康でいられる5つの週刊』(講談社)など。

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