女性が発症する可能性は、男性の約3倍。
咽頭の下にあり、羽を広げたチョウのような形をした甲状腺の一部に悪性の腫瘍ができる「甲状腺がん」。
前回は、甲状腺がんの基礎知識や、おこりやすい年齢、種類などを紹介しました。今回も引き続き、甲状腺がんについて専門家に教えてもらいましょう。
甲状腺がんの症状は?
「ここが一番難しいところで、甲状腺がんの患者のほとんどは無症状」と、メモリアルスローンケタリングがんセンターで甲状腺がんを専門とする内分泌学者であるR・マイケル・タットル医師は説明します。なので、他の検査を受けている時に、たまたま甲状腺がんがみつかるといった場合がほとんどです。
しかし、悪性度が高く、進行の早い種類の甲状腺がんの場合、いくつか注意すべき症状はあります。これらの症状が出ることはとてもまれですが、もしひとつでも当てはまるものがあれば、直ちに医師の診察を受けてください。
1. 声が変わる
「声帯をコントロールする神経など、周囲の臓器に局所浸潤することで、甲状腺がんの症状があらわれます」とジョンズ・ホプキンズ大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の教授であるラルフ・P・ツファーノ医師。そのような神経ががんに侵されると、声が枯れたり、声がかわったりすることがあります。
2. 吐血する
「同様に、甲状腺は気管や食道と密接しているため、ごく稀にですが吐血することがあります」とツファーノ医師。
3. 飲み込みづらくなる・息がしづらくなる
「悪性度の高い甲状腺がんによって気管や食道など、首の構造が圧迫され、飲み込みづらくなったり、息がしづらくなったりすることがあります」と内分泌外科医でUCLA Health病院外科の准教授であるカイル・ザノッコ医師。
4. 激しい下痢
この症状は髄様甲状腺がんで起こります。髄様甲状腺がんが作り出すタンパク質が原因です。
「慢性的な下痢を相談にきた患者さんに対し、消化器の専門医が診察を行うことがあり、そのせいで髄様甲状腺がんと診断されるまでに、数か月あるいは数年かかってしまう場合もあります」とMDアンダーソンがんセンター内分泌腺腫・内分泌疾患学部の学部長であるスティーブン・I・シャーマン医師。髄様甲状腺がんの患者は、1日に10~20回もトイレへかけ込むのだそう。
5. 首の付け根に大きなしこりがある
タットル医師によると、このような甲状腺のしこりには痛みはほとんどなく、健康診断を受けた際に偶然、医師によって発見されるケースが多いのだそう。
「特に、首に放射線治療を受けたことがあれば、甲状腺がんの発症リスクが高まることを頭に入れておいてください」とシャーマン医師は注意を呼びかけます。なので、首のしこりががんの塊でないことを確認するために医師の検査を受けましょう。
6. リンパ節が腫れる
「甲状腺がんが大きくなってくると、首の横のリンパ節も腫れてきます」とシャーマン医師(ただしリンパ節はあらゆる他の病気でも腫れるので、リンパ節が腫れるだけではがんである可能性はまず低いそう)。
甲状腺がんの治療法は?
image via shutterstock甲状腺がんには様々な種類があり、がんの進行の程度も異なってくることから、その治療方法は、個人でかなり違ってきます。
「分化型甲状腺がんと髄様甲状腺がんの主な治療法は、甲状腺の全体もしくは一部、そして必要な場合には甲状腺のまわりのリンパ節を取り除く手術が行われます」(シャーマン医師)
患者によっては、手術後の補助療法として放射性ヨード内用療法が実施される場合があります。この治療法は、放射性ヨードのカプセル内服し、放射性ヨードを甲状腺細胞に取り込ませ、がん細胞を破壊させるものです。
甲状腺切除の手術後の補助療法として、甲状腺ホルモンを補充するための薬物療法が用いられることもあり、「分化型甲状腺がんの場合、手術、放射性ヨード内用療法、そして甲状腺ホルモン治療の三つ組み合わせた治療が従来行われています。しかし現在では、どの患者さんがどの治療を受けるか、より慎重に治療法が選ばれるようになってきています」(シャーマン医師)
実際に、分化型甲状腺がんで、がんが甲状腺内にとどまっており、サイズも小さいと治療そのものが不要な場合もあります。「治療ではなく、がんが発見されてから最初の1、2年は4~6か月ごと、それ以降は半年から一年に一回の超音波検査によってがんの進行をモニタリングする、積極的監視療法を行います」とシャーマン医師。
「我々のデータから示されるのは、がんのサイズが3mmになるまで介入をしなかった場合でも、ほとんどの患者さんが変わらずに元気に生活できているということです」とツファーノ医師。
しかし未分化甲状腺がんの治療法は、その進行の速さから、他とは多少異なってきます。以前はこの種類のがんに対して治療法はありませんでしたが、現在では放射線外照射や抗がん剤による化学療法があります。「この治療法によって、患者の生活の質を維持しながら1~2年延命させることが可能です」とシャーマン医師。
もしも「甲状腺がん」を告知されたら?
image via shutterstock最も重要なのは、自分が診断された種類の甲状腺がんを専門とする医師に診てもらうことです。特に進行がゆっくりなものほど、それが大切になってきます。
「医師から不安を煽るようなことを言われたからといって、すぐに切除手術に走らなくてよいのです。医師によっては、あなたの種類の甲状腺がんを取り扱った経験が少ないことがあります」とツファーノ医師。
「とにかく慌てて結論に走らないことです。あまり不安になり過ぎず、まずはその分野の経験が豊かな医師をみつけ、正しい情報を得て下さい。医師はあなたに一番合った治療法をみつけてくれるはずです」(ツファーノ医師)
もし自分ががんになったら?
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