筋肉を増強するためには「良質なタンパク質+運動」が欠かせません。

スポーツ健康科学部教授の藤田聡先生(立命館大学)に、運動による筋肉の分解を防ぐ方法や、筋トレが苦手な人でもできる筋力アップのコツをうかがいました。

筋肉の合成量をより多くするためのタンパク質

人間の筋肉は、数ヶ月ですべてが新陳代謝によって入れ替わっているのをご存じでしょうか。筋肉を構成するタンパク質は、他のタンパク質と比べて寿命が短め。個人差はあるものの、一日に約1%の筋肉が分解され、新しく合成されています。

「筋肉を増やしたいなら、筋肉の合成量を、分解量より多くしないといけません。とくに運動をする人は、運動の前後にタンパク質を摂取すること。運動などでエネルギー消費が盛んになると、筋肉の分解が進むためです」(藤田先生)

運動前後に「BCAA」を補給するふたつのメリット

タンパク質に含まれる必須アミノ酸のなかでも、筋肉づくりに極めて大きな役割を果たすのがBCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)。BCAAが筋肉を構成する割合は、およそ35%に達しています。

「筋トレなどのレジスタンス運動をすると、BCAAが筋肉を動かすためのエネルギー源としても使われ、筋肉の分解が進みます。運動前やトレーニング中にBCAAを補給すれば、血液中のBCAA濃度が高まり、筋肉の分解を抑制できると考えられます」(藤田先生)

さらにBCAAは、他の必須アミノ酸と違って肝臓ではなく、素早く筋肉で代謝されます。摂取した際に肝臓に負担をかけずに、筋肉に素早く届くという利点もあるのです。

「ロイシントリガー」を活用しよう

BCAAのなかでも、とくに注目されているのがロイシン。他のBCAAと比べてより強く筋合成を刺激することから、 「筋肉を合成するスイッチ(ロイシントリガー)」とも呼ばれているそう。

「そのメカニズムは最近まで分かっていませんでしたが、近年、筋タンパク質の合成を促進するシグナル物質、mTOR(エム・トール)のはたらきをロイシンが直接コントロールしていることが、分子レベルで明らかになりました」(藤田先生)

ロイシンは大豆タンパク質や卵のタンパク質と比べ、ホエイやカゼインなど乳タンパク質(ミルクプロテイン)により多く含まれているとのこと。ミルクプロテインの粉末はもちろんのこと、タンパク質豊富なグリークヨーグルトや牛乳を摂取するのもよさそうです。

「軽い運動+タンパク質」で無理なく健康に

筋トレが苦手な人も、あきらめることはありません。必ずしも高強度の運動でなくても、その後の食事でタンパク質をとれば筋肉合成が高まると藤田先生。まずは「疲労感を感じる程度のスクワット+運動後のタンパク質摂取」というように、自分にあった運動からはじめるのがおすすめです。

筋トレでなく、ウォーキングなどの有酸素性運動でもかまいません。有酸素性運動は筋トレに比べて筋合成の持続時間は短いものの、ある程度の効果はあります。

平地のウォーキングではなく、歩幅を広めにとって上り坂を歩いたり、エスカレーターではなく階段を使うだけでも、その後の食事でタンパク質をとれば筋肉の合成が高まります」(藤田先生)

身体を動かすことと、良質なタンパク質の摂取をセットで行えば、筋肉の強化は着実に進んでいきます。藤田先生に聞くタンパク質の基礎知識、次回はタンパク質の摂取量とタイミングについて深掘りしていきます。

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藤田聡(ふじた・さとし)先生
立命館大学スポーツ健康科学部教授。1993年ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。1996年フロリダ州立大学大学院運動科学部運動生理学専攻修士課程修了。2002年南カリフォルニア大学大学院博士号(運動生理学)取得。同大学医学部内分泌科ポストドクター。2004年テキサス大学医 学部加齢研究所研究員。2006年テキサス大学医学部内科講師。2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻特任助教を経て、2009年から現職。

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