腟や外陰部周辺の違和感は更年期世代から増えてきます
腟や外陰部が乾燥して、不快感や痛み、かゆみ、灼熱感、おりものに悩む声は、更年期から増えてきます。特に、閉経してしばらく経つと、腟が萎縮します。出血しやすくなり、性交痛をともなう女性が増えます。
なかには、乾燥、かゆみ、黄色いおりもの、悪臭、頻尿、尿意切迫感…といった症状をともなう場合もあります。外陰部は、腟の外性器領域なので、腟だけでなく、外陰部も同様の症状がよく起こります。
このような違和感は、“萎縮性腟外陰炎(老人性腟外陰炎)”と言われ、次のような症状があてはまります。
腟の乾燥 腟のかゆみ 性交痛 頻尿 尿意切迫感 茶色いおりものや出血(参考文献/産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2017 Q421)
このような症状があると、腟萎縮がすでに始まっているかもしれません。
更年期以降、健康な女性でも日常的によく起こる症状です
なぜ、これらの症状は更年期以降、起こりやすいのでしょうか?
女性ホルモンのエストロゲンは、生殖器や泌尿器の粘膜の増殖や機能に、重要な役割をもっています。皮膚の上皮層の厚さや弾力、分泌機能にもエストロゲンは影響します。
更年期になると、エストロゲンの分泌が急激に減少し、特に閉経後はほぼゼロに。そのため、腟の粘膜や外陰部の上皮、尿道にも、先ほどあげたようなさまざまな症状が起こるのです。
婦人科では、“萎縮性腟外陰炎(老人性腟外陰炎)”と診断されます。
また、更年期には、腟内の乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)が減少するため、腟内のPH値が上昇します。細菌叢が変化して、粘膜が傷つきやすく、雑菌が増殖しやすくなり、腟炎、外陰炎や尿路感染症が起こりやすくなるのです。
更年期を過ぎた60歳以上の女性には、健康な女性でもその約半数に、なんらかの腟萎縮が見られると言われています(*1)。また、閉経していなくても、病気などで卵巣を摘出した人にも起こりやすい症状です。このように、日常的に悩む人が多いのに、治療しているのはわずか25%以下という症状なのです(*2)。
(*1) Sucking J,Lethaby A,Kennedy R:Locai oestrogen for vaginal atrophy in postmenopausal women,Cochrane Data Syst Rev,2006:4PMID:17054136(1)
(*2) Palacios S:Managing urogenital atrophy.Maturitas 2009;63:315-318(review)PMID:19493638(Ⅲ)
更年期世代は茶色いおりものや出血があったら子宮体がん検査を
「“萎縮性腟外陰炎(老人性腟外陰炎)”かしら?」と思っても、茶色いおりものや出血がある場合は、すぐに婦人科で検査をしてください。子宮体がんの可能性もあるのです。
子宮体がんは、萎縮性腟炎と同じく不正出血があり、初期は特にほかの症状がないという特徴があるからです。婦人科では、不正出血や茶色いおりものがみられる場合、子宮頸がんや子宮体がんでないかを慎重に確認します。
内診、経腟超音波検査を行います。内診で、腟の粘膜に、萎縮や点状の出血などが見られれば、萎縮性腟炎の特徴的症状と言われていますから、わかります。
それに加えて、子宮頸がんが疑われる場合は、子宮頸部細胞診を行います。子宮体がんが疑われる場合は、子宮内部の細胞を採取する子宮内膜細胞診を行います。
腟や外陰部に腟錠を入れると、粘膜にふっくらと厚みが出てきます
腟や外陰部、尿道などが萎縮することで起こる症状も婦人科で治療できます。
治療では、腟や外陰部にエストロゲンを補う“エストリオール腟錠”という腟に入れる薬が、婦人科のガイドラインでの第一選択。ファーストチョイスの治療法です。体内でエストロゲンに変換され、エストロゲンを局所に補う治療法です。
全身にエストロゲンを使うHRT(ホルモン補充療法)とは異なり、局所だけに作用します。ただし、乳がんや子宮体がんの経験のある人には使えません。腟錠は1日1回、寝る前に腟に挿入します。7日~10日ほど使うと、薄くなった粘膜に厚みが出てきます。
1~2週たって症状が軽くなったら調子の悪いときだけ使用したり、治療開始2~4週間後からは、週2回程度に間隔をあけて使用します。
全身にエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)もあります
もしも、腟の萎縮が進んでいて、腟錠を入れるのが痛くて難しい場合や、更年期障害のほかの症状がある場合には、エストロゲンを全身に使うHRT(ホルモン補充療法)を選択してもいいでしょう。
体内でエストロゲンの量が増えると、腟の血流量が増え、上皮細胞の増殖と代謝が活発になります。腟内の自浄作用が回復し、細菌感染も抑えられるというメリットがあります。
膣や外陰部の違和感にはほかにもいろいろな対策が!
ほかには、かゆみ止めの薬、保湿のための非ステロイド塗り薬などを処方されることもあります。性交痛には、性交時に使う潤滑ゼリーなどもあります。
多くはないですが、なかには、更年期のうつによるメンタルの不調から痛みを強く感じることもあります。その場合は、抗うつ剤などが効果的なこともあります。
また、腟や外陰部にCO2(炭酸ガス)レーザーを当てて、コラーゲンの増殖を促して、乾燥、弾力性、水分量を改善するという新しい治療も、一部の婦人科で行われています。
腟の自浄作用の低下や腟からの細菌感染は、エストロゲンの不足が大きな原因ですが、疲労、ストレス、体調不良による免疫力の低下などがきっかけになることもあります。
日ごろから、体調管理に気をつけましょう。また、体を締めつけず、風通しの良い下着を身につけて、デリケートゾーンの通気性を良くし、雑菌が繁殖しにくい状態を保つことも大切です。
増田美加・女性医療ジャーナリスト予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ http://office-mikamasuda.com/