健康のために腸内の微生物の環境を整える、いわゆる「腸活」の重要性を頻繁に耳にするようになりました。ぐっすり眠った翌朝に訪れる、すっきりしたお通じの心地よさは、健康であることの喜びを問答無用で実感させてくれます。

でも、漠然と「ヨーグルトや発酵食品が大切」と意識してはいるけれど、お腹の中で何が起こっているのかについては、あまりよく知らないのではないでしょうか?

『腸と脳 体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授で胃腸病を専門に、腸と脳のつながりについて長年研究している著者エムラン・メイヤー氏による、腸という見えない場所で起きている謎を解明する一冊です。

おしゃべりする腸と脳

数年前ならSFのごとく聞こえただろうが、最新の科学は、腸と腸内微生物と脳が、共通の生物言語を用いて対話していることを明らかにしつつある。(28ページより引用)

脳と腸とマイクロバイオータ(腸内微生物)は、脳の延髄から出て腹部に至る迷走神経を通じてさかんにコミュニケーションをしています。日本にも感情をあらわす「腹が立つ」、「肝が冷える」といった表現がありますが、英語にも似たような表現があり、お腹と感情が密接に結びついているのは同じようです。

たとえばストレスを受けると、心拍は高まり、首や肩に筋肉は緊張する。リラックスしているときには、それとは逆の反応が生じる。しかし、腸とのあいだに固定配線された結合を持つ脳は、腸との結びつきが非常に強い。人はつねに腹部に情動を感じており、その事実は「胃が締め付けられるような感じ」「はらわたが引き裂かれるような経験」「そわそわしておちつかない」など、言葉にも反映されている。このような感覚を引き起こしているのは、情動を形成する脳の神経回路であり、情動と脳と胃腸は、独自の結びつきを形成している。(37ページより引用)

腸の環境が変化すると、行動も変わる!

腸の中には合計100兆を超える微生物(1,000種類以上)が生息しています。そして、全腸内微生物の重量は900グラムから2,700グラムであり、その重さは脳(約1,200グラム)に匹敵するそうです。総称して「マイクロバイオータ」と呼ばれるこれら微生物の構成は、遺伝や食習慣、そして心や脳の働きによって人それぞれ異なります。著者はこの本のなかで、腸内微生物を変えることで行動やメンタルが変わったという興味深い例をいくつも挙げています。

たとえばマウスに腸内微生物を移植する実験結果があります。マウスなどのげっ歯類は、人間と同じく個性があるそうですが、実験結果からは、腸内微生物が変化することで行動パターンにはっきりとした変化が生まれたそうです。

「外交的な」マウスから取り出した、マイクロバイオータを含む糞を移植するだけで、「臆病な」レシピエントマウスが、社交的なドナーマウスに似た振る舞いを示すようになるなどと誰が考えていただろうか? あるいは、貪欲で肥満したマウスの便を微生物と共に移植すると、やせたマウスがエサを食べ過ぎるようになることを示した類似の実験や、プロバイオティクスの豊富なヨーグルトを4週間食べ続けた健康な女性の脳が、負の情動を喚起する刺激に以前より反応しなくなることを示した実験についてはどうか?(33ページより引用)

胃腸に影響を与える子ども時代のトラウマ

胃腸の不調を訴えて著者のもとを訪れた患者の一人に、ジェニファーという35歳の女性がいました。ジェニファーは、腹痛など胃腸の問題だけではなく、10代から不安障害や抑うつなどのメンタルトラブルも抱えていました。精神科医や他の胃腸病の専門医からは、「異常はなく、おそらく気のせい」と診断されたものの病状は回復せず、医療に不信感を抱いていました。

ところが著者が子ども時代の思い出について質問したところ、思いがけずジェニファーの口から過去の辛い記憶が次々と語られ、これがきっかけで治療が大きく進展したのです。

たいていの患者と同じく、ジェニファーは、身体や情動に関する一連の症状が相互に関連している可能性や、幼少時のストレスに満ちた暮らしに結びついている可能性を、まったく考えていなかった。そして、幼少期の経験が、腸と腸内微生物と脳の関係を不健康な方向にプログラミングしたなどとは、彼女には思いもよらなかった。(116ページより引用)

この経験から、著者は「胃腸の症状も、不安障害やうつ病も、その症状の進行には、ほぼまちがいなく幼少期の経験が関係しています」とジェニファーに説明し、腸と腸内微生物と脳の関係の「間違ったプログラミング」を修正(バグをフィックス)するために、マインドフルネスや認知行動療法などのメンタルセラピーを提案します。さらに、発酵食品や乳酸菌などのプロバイオティクスを多く含んだ食べ物を積極的に摂るよう指示しました。

数か月後、著者のもとを訪れたジェニファーは、生活の質が50パーセントほど向上し、腹痛については、ほぼ問題が解消したと語りました。著者はこのような経験から、食事内容を変えることで体の機能を微調整することができると確信します。

発酵食品、乳製品、フルーツジュースに含まれる、必須神経伝達物質セロトニンのレベルを調節するプロバイオティクスを摂取することによって、気分から痛覚感受性や睡眠に至る、生存に必須な機能の実行に重要な役割を果たす、体内にコントロールシステムを微調整できるのだ。(151ページより引用)

腸内環境を改善して、幸せで健康に暮らすための10か条

腸と脳、そしてマイクロバイオータの情報交換は、24時間、生涯を通じて行われます。消化管の働きは、従来考えられてきたように、消化吸収のためだけではなく、心や感情、そして社会的な側面に至るまで広範な影響があることがわかってきました。

では、心や身体のバランスのとれた健康を手に入れるためにはどうすればよいのでしょうか。著者が提案するのは、私たち一人ひとりが、自らの力で体内の生態系を維持する「エンジニア」になることです。

「エンジニア」といっても、特に難しいことをする必要はなく、主に食生活を改善することで、腸内微生物の生態系を改善すればよいそうです。そのためのポイントが、以下の「マイクロバイオームの改善による健康増進の指針」です。いずれも、当たり前とも言えることばかりであり、さらにこれを実践することで、確実に人生を豊かなものにしてくれるはずです。

マイクロバイオームの改善による健康増進の指針

自然で有機的なマイクロバイオームを育成する 動物性脂肪を控える 腸内微生物の多様性を最大化する 大量生産された食品や加工食品は避け、なるべく有機栽培で育てられたものを食べる 発酵食品やプロバイオティクスを摂取する 妊娠時には特に栄養とストレスに留意する 食べすぎない 断食して腸内微生物を飢えさせる ストレスフルなとき、怒っているとき、悲しいときは食べるのを控える 皆で食事を楽しむ

(294ページより引用)

腸と脳 体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか

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