何十年もの研究の結果、「ベータアミロイド」という有害なたんぱく質が脳に蓄積すると、アルツハイマー病につながってくるとわかってきました。なぜこのたんぱく質がたまってくるのかはよくわかっていません。最近の研究によると、どのように蓄積されてくるのかプロセスが見えてきており、アルツハイマー病の原因には「遺伝」と「不健康な生活習慣」を超える事柄もあることが明らかになりつつあります(もちろん、その2つも重要な原因ですよ!)。
では、新しい科学が指摘している実に意外な(そして怖い!)原因を次にご紹介しましょう。
抗不安薬を服用している
「ベンゾジアゼピン」という種類の医薬品には、ロラゼパム(日本の商品名ワイパックス)、アルプラゾラム(同コンスタン、ソラナックス)、クロナゼパム(同リボトリール、ランドセン)などの一般的な薬が含まれ、不安症や不眠症の治療によく使われます(クロナゼパムは日本ではてんかんに使われています)。これらの薬の安全性と有効性を調べた研究としては、短期間の効果を調べたものばかりなのですが(概して3カ月ほど)、これらの薬を飲んでいる人は長期間にわたって服用している場合が多くなっています。『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌に報告された研究によると、アルツハイマー病のカナダ人1796人と健康な7184人を6年間追跡調査したところ、3カ月間を超えてベンゾジアゼピンを服用していた人ではアルツハイマー病になる人が最大51%増えるとわかりました。
この研究結果の教訓は何? それは「時折ベンゾジアゼピンを服用する分には、おそらく安全。でも不安症と不眠症が日常的になっているとすれば、薬の有害な副作用を心配することのなく、不安症や不眠症に効果的とわかっている『認知行動療法』を検討すること」といったところでしょう。
一度ならず頭を打った
アメリカでは毎年、推定300万人もの人が、何らかのスポーツで脳しんとうを起こしています。これはピッツバーグ大学が中枢神経・脳・脊髄のけがを調べるために取り組んでいる「脳・脊椎外傷プログラム」の中で集められたデータによるもの。それだけ多くの人が頭のけがについて心配しているわけです。たいていは問題ないのですが、脳の組織が治っていくときに起こる炎症がいつまでも続く人がいます。そのことがアルツハイマー病につながる可能性があると、南フロリダ大学の准教授で精神科医・神経科学者のブライアン・ジウンタさんは言います。
「ミクログリア」という細胞は、脳の中で炎症が起きているときに働くのですが、「いつまでも炎症が続いていると、脳からアミロイドベータを取り除くというミクログリアの働きがおろそかになってしまいます」とジウンタさん。異常なたんぱく質であるアミロイドベータは、ミクログリアによって取り除かれないと、脳にたまっていき、このために神経が死んでしまう可能性があるのです。「炎症がいつまでも続く人はどうしてそうなるのか、またアルツハイマー病のうちどれくらいの部分が脳(頭部)のけがに関係しているかはわかっていない」とジウンタさんは説明しています。
いつも睡眠不足
仕事に、子育て、結婚生活、さらに趣味と忙しい毎日を送っていると、睡眠不足はもはや当たり前。何かを犠牲にするとしたら何かといえば、多くの人が睡眠を犠牲にしているのです。運転中に眠くなってきますし、深夜の食事も増えてしまう。そのうえに、『ニューロバイオロジー・オブ・エイジング』誌によると、睡眠不足はアルツハイマー病にもつながるとのこと。
「アルツハイマー病になった人は、睡眠の問題を抱えている場合も多いのですが、原因なのか結果なのかはよくわかっていません」とフィラデルフィアのテンプル大学の薬理学者で免疫学者の医師、ドメニコ・プラティコさんは言います。プラティコさんのグループは、アルツハイマー病のマウスを使った研究に取り組み、夜間の睡眠時間を4時間に制限すると、アルツハイマー病の特徴として見られる脳内の「タウたんぱく質」が増えることを発見しました。学習能力や記憶能力も変化し、神経と神経の間の伝達能力にも影響が現れました。いつまでも睡眠不足が続くと、脳にも身体にもストレスはかかり続け、アルツハイマー病への道を開いてしまいます。「身体にかかる慢性的なストレスのひとつとして、睡眠不足は位置づけられます。(過剰なアミロイドベータたんぱく質のように)脳から良くないものが取り除かれるのは睡眠の間なのです」(プラティコさん)
孤独
友だちや社会と関わっていると、よい生活だなと思えますし、このことはある意味で薬にもなります。『ジャーナル・オブ・ニューロロジー・ニューロサージェリー・アンド・サイカイアトリー』誌に報告された研究によると、孤独と認知症には関係がありました。3年間の研究のなかで、孤独感のあった高齢者は認知症になる確率が1.63倍だったのです。その関連についてのメカニズムは研究者にも突き止められていないのですが、意味するところは明らかです──だれかとつながっていることは有益ということです。
脳内に糖尿病を抱えている
ブラウン大学の神経科学者、スザンヌ・ド・ラ・モンテさんは、アルツハイマー病のことを新陳代謝に関わる病気ととらえています。脳に影響を及ぼすタイプのものです。まるでメタボリックシンドロームのようなつながりから、ド・ラ・モンテさんはアルツハイマー病を「3型糖尿病」と呼び始めたくらいです(糖尿病には、自分の免疫によって起こる1型と、生活習慣の問題から起こる2型が一般的に知られています)。
脳細胞のエネルギー源はブドウ糖なのですが、細胞に対してブドウ糖を血液から吸い上げるよう指令するのはインスリンというホルモンです。ド・ラ・モンテさんが考えたのは、身体の他の細胞と同じように脳細胞もインスリンの指令が届きにくくなる「インスリン抵抗性」になるとの説でした。
「身体のどの部分であってもインスリン抵抗性になる可能性はある」と、ド・ラ・モンテさん。「肝臓の場合ならば、非アルコール性脂肪肝。腎臓ならば腎臓病。脳で起こったならばアルツハイマー病という具合なのです」。
過去数年にわたる研究によると、インスリン抵抗性の状態が続くと、脳にとって有毒な環境が作られるようになるとわかりました。結果として、有害なたんぱく質がたまり、神経が死んでいき、アルツハイマー病につながっていくようなのです。
健康的な食事と運動を続けていると、アルツハイマー病を予防できるかもしれません。しかも治療につながる可能性さえあります。初期の研究段階ではありますが、インスリンを吸入すると、アルツハイマー病の症状を軽くする可能性が証明されてきているほどです。
Carrie Arnold/5 Surprising Causes Of Alzheimer's Disease