底辺亭底辺の「今日も底辺!」

番町皿蕎麦屋敷  作・底辺亭底辺

2017/06/23 14:33 投稿

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  • 番町皿屋敷
お菊噺は原話が特定できない程に類話が多い。
(然程珍しくない事例だったのだろう。)
殺害者の姓が青山であること、揃いの家宝が欠損・紛失することが主な共通項であり、例外なくお菊が死に、殺した側の家運も大きく傾いている。

皿蕎麦屋敷を執筆するにあたっては、原話のモデルになったであろう数多のお菊婦人の供養のみを心掛けた。


アニメ版は下記URLリンクにて公開。 
http://www.nicovideo.jp/watch/1498204094





脚本 底辺亭底辺


花のお江戸は豊かで平和。
食べ物や娯楽の種類も星の数ほどあります。
いやあ素晴らしい、アタシはずっとお江戸で暮らしたい!
でもねえ、こんな住みよいお江戸にも…
たったの一つだけ欠点があります。

いやあね、とにかく女性が少ない。
うーん、野郎が多すぎるのかな。
とにかく男女比に偏りがありすぎるんですよ。
一人の女に無数の男が殺到する。

で、当たり前ですけど
女性は当たりの男を選ぶ。
金持ちだったり男前だったりね。

で、割を喰うのがアタシらみたいなむさ苦しい貧乏人。
本当に女に縁がない。

いや、本当の本当に縁がないんですって!
え?
お江戸だったら、いっぱい女が居るだろうって?

だーかーらー
男がもっといっぱい居るの!
女の人も馬鹿じゃないから、いっぱいの男の中からわざわざアタシらなんかを選ばないの!

はあはあ。

失礼。
ついつい興奮してしまいました。
そう憐みの目で見ないで下さいよ。
それくらい切実なんですって。

アタシの周りの不細工共はみんな言ってますよ。
「もうこの際女だったら何でもいい!
化け物でも幽霊でもいいから、嫁に来てくれ!」
ってね。

ふふふ。
笑う気持ちは解ります。
いや、ここはまだオチじゃあありませんがね。

確かに江戸で暮らした経験のない方にとっちゃあ笑い話ですな。
アタシもこういう話を冗談半分ではしてるんですよ。
でも、残りの半分が切実だから…
女の噂を聞いちゃあ、駆け付けております。

で、最近話題になったのが…
皆様も噂には聞いてるんじゃありませんか?

番町皿屋敷。

あ、やっぱりお江戸以外じゃ怪談扱いなんですね。

ん?
いやいや~
お江戸の男共は鼻の下を伸ばしておりましたよ。
何せ幽霊のお菊さんはとびっきりの美人って噂でしたからね。

え?
幽霊は怖いからいやだ?

ははは。
それは御縁に恵まれた方の考え方だww
アタシら江戸っ子、美人と会えるのなら地獄にだって喜んで行きますよ!

え?
幽霊屋敷なんて怖い?

怖い事なんてありますかww
江戸中からむさ苦しい男が見物に来るんだから。
もうね、屋敷前で団子屋まで出ちゃった位ですから♪

いや、普通に出ましたよ、お菊さん。
日が暮れてくるとね?
井戸の奥から「いちま~い、にまい~」ってね。

その声色がまた堪らないんだ。
色っぽい中にも上品さがあってねえ…
居並ぶ男共が一斉に騒ぐんですよ。

そりゃあもう、女に縁のない奴ばっかりだからww
必死必死www
男共の悲壮な叫びが響き渡るんですよ。


「お菊さーん、結婚してくれー!」

「貴女は浮世絵より美しい!」

「俺っちは腕のいい大工でーす! 日当700文稼いでまーす!」


いやいや。
茶化してるわけじゃないですから。
みんな、大真面目。
それくらい、江戸には男があぶれてるんです。

でね、勿論アタシも毎日通ってました。
いや、だってお菊さん綺麗でしたし…
何というか、いい意味で古風な佇まいがあってね…
ははは、そりゃあ本気ですよ。
本気で懸想しておりました。

そりゃ最初は…
まあ美人絵を眺めにいく程度の気持ちでしたけど。
でもね、毎日通ってると…
やっぱり情が生まれます。
…本気でね、この人の力になりたいと思うようになる。

そりゃそうでしょ。
いつも皿を九枚まで数えて…
結局、いつも足りなくて…
哀しそうな顔で消えていく…

これで何も感じない奴は男を名乗る資格はありませんよ。

そうです。
最初は好奇心。
それが色恋になって
最後は男の使命感になった。

アタシだって男だ。
惚れた女を救ってやりたいですよ。

でもね。
相手は幽霊だ。
救ってやりたくとも、どうしようもない。

ええ、恋敵には神主も居れば坊主も居ました。
そいつらは手段を持ってるみたいで、あれこれと準備をしておりましたね。
連中、御札やら念仏やらを悪用してお菊さんを物にしようと企んでやがった。

その点アタシは、しがない落語屋だ。
歯ぎしりしながら奴らを睨みつけてましたね。
でも睨んでも仕方ない。
連中は日々準備を整えていく。

アタシは焦りましたねえ。
そしてある日賭けに出た。
男にはやらなくちゃあならない時があるんです。

「いちまーい、にーまい、さんまーい、よんまーい、ごまーい…」

ここだあああ!!!!!って思って
アタシは全力で叫びました!!

『お菊さーん!  今なんどきだーい!!!!』

「え? 六つですが…  ななまーい、はちまーい、きゅうまーい。
…じゅ、じゅう!!」

へへへ、アタシに出来るのはこんな事しかなかったんです。
何せ、下手糞な落語以外に何の能もない男ですからww

勿論、お菊さんの手元の皿は九枚しか無かった。
…お菊さんはね。
時そば紛いで騙されてくれる程、馬鹿なお人じゃあありません。
お菊さんは教養ある聡明な方ですよ。

でもね。
聡明な方だからこそ、洒落を汲み取ってくれたんだと思うんです。
最期に消える時のお菊さんは…
少し笑ってくれたような気がしますから。

その後、アタシは男共から袋叩きにされました。
流石に死ぬかと思いましたよwww

え?
オマエのことなんてどうだっていい?
お菊さんがどうなったかって?

ははは。
きっと成仏出来たんでしょう。
あれ以来、番町の皿屋敷にはお菊さんが出なくなりました。
最初に団子屋が店じまいして、あれだけ沸いていた見物人は一人も居なくなって…
今じゃあ静かなもんですよ、まるで幽霊屋敷みたいになりました。
いいんですよ、お菊さんが救われたのなら、それで万々歳じゃあ御座いませんか。
こんなにめでたい話はありません。

アタシ?
アタシに救いはないのかって?
ははは、相変わらずモテないですなーwww

でもね、最近新しい希望が出来た!
今度こそは結婚出来ますって!

…いや、四谷の方にお岩って方が居られるんですけどね。

お後がよろしいようで。






江戸は全国各地から軍人と労働者を集めて人工的に創設した街なので、人口の男女比に極めて大きな偏りがあった。
享保年間の調査では、男女比1:2となっている。


お菊・お岩の境遇は勿論悲惨なのだが、女に縁のない独身男性の存在はもっと同情されるべきであると考えて、この構成にした。

主人公のキャラクター造形に関しては、モテないながらも健全な侠気を持った好男子とした。
人間の苦悩に纏わる問題への責任は、個人の在り方ではなく環境に起因すると信じたいからである。

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