橘川幸夫放送局通信

ディープ・パープルへの想いめぐらし(ロッキングオン31号 1977年)

1977/11/01 21:57 投稿

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標題=ディープ・パープルへの想いめぐらし・ロックは地震計であるという話
掲載媒体=ロッキングオン31号
発行会社=ロッキングオン社
執筆日=1977/11/01
テキスト入力者=深谷健一 20110109
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 朝起きて食事して仕事して休んで寝て……一日中ディープ・パープルばっかし聞いていた事があったような気がする。一日中ハード・ロックが必要だったなんて、ありゃまあ、あまり健康的な生活ではなかったようだ。どろどろした肉体をさしおいて、一気かせいに突走っていくものが僕の内部にあった。まるで、ジェットコースターをはらんでいたようだった。しかし、あれは、キイタナー。

 でも、疾走していたのは、リッチーのギターでもなくギランのシャウトでもなく、僕自身だった。疾走していたのは僕そのものだった。ディープ・パープルは短距離永久走者の僕がはいていた白いスニーカー。でも、

 でも、それは逆かな。ハイウエーを疾走していたのは僕ではなくて、あの、深紫色のジュラルミン製のスーパーカーの方だったのか。僕はちょこんと乗っていただけ、スピーカーの前で。

 ディープ・パープルというのは僕の前に現われた瞬間(とき)から、もう既に、その全体を現わしていた訳で、だからこそ気持ち良かったといえばいえるのだろう。だから、例えば、自分の背中を見ようとして、鏡の前に立ったり、身をよじらせ身をくねらせたりして(……フェリーのように)前へ進んで行くタイプではないのだから、「ライブ・イン・ジャパン」以降の第三期、第四期、なども、それぞれの部分ではなく、その時その時、ディープ・パープルとしての全体を、出会った人達の視界に現わしていたのだろう。

 ハード・ロックの原則というものがあるなら、僕は<それはケチであってはならない>という事を第一に挙げたい。もったいぶってはならない、自分を出しおしみしてはならない、余計なものを大事にしてはならない、シャウトをコントロールしてはならない、表現するのではなくさらけ出すのでなくてはならない……という意味で僕にとって、ハード・ロックとは30%のディープ・パープルと40%のジャニス・ジョップリンと、あとの30%は何でしょうか。

 (ジミー・ペイジという人は、最近のは全然聞いてないし映画も観なかったけど、僕はあの人がケチだったとは思ってません。ケチというのはそういう意味ではありません。何か、ペイジについての冗談とかマンガは、どれもこれも彼の金銭的潔白感[ナント!]をヤユしたものばかりで、全く芸がないというか、ワンパターンというか)

 と、ここまで書いて、ROの3号あたりでか、岩谷宏に「おまえの文章はケチだ」と言われたのを思い出した。思い出したついでに、あれは、70年の夏だったかしらん、青山のナントカという喫茶店でブルース・クリエイションのライヴを渋谷陽一(御年18か19才)らが企画して、行ったら、渋谷が何んか新譜のレコードを見せてくれて、それが<イン・ロック>だった。あの岩石生活のジャケット。

 気づかなかった人もいたかも知れないが、70年初期に、全世界を一瞬にして崩壊させた人類史上最大の地殻の変動があった。ロックとはその時の、極度に精巧に出来た地震計だ。ディープ・パープルは、倒壊して行くビル街を、まるでパイプラインを鮮やかに突破して行くサーファーのように、突き抜けて行った。ELPは、壊して行く爽快感であり、イエスには、壊れて行く爽快感があった。

 それにしても、ハード・ロックとプログレッシヴ・ロックという、冷静に考えてみれば、同一の軸で語れるはずのないものが「チャイルド・イン・タイム」というのは、その時、充分にハード・ロックであったし、また充分にプログレッシヴ・ロックでもありました。

 それで、ケチ、という事ですが、「ハード・ロックはケチであってはならない」という事は、つまり、ケチをしてまでしまいこんじゃう<財産>も<自分>もない、いつも裸で無防備な人間の音楽なのです。僕はディープ・パープルが、自家用飛行機かなんかでドサ回りをはじめた頃から聞かなくなりました。勿論、ジミー・ペイジの話と同じですが、単に何億円もうけたからハード・ロックじゃないとか、ケチだ、とかいうんじゃなくっていわゆる「モノを持つのではなくモノに持たれる自分」を持った人間がケチという事です。

 ディープ・パープルを昔聞いてて今はもう聞かない、という人は、今は別のタイプの音楽に乗り移ったり、何か違うモノを持っちゃって、それに忙しい、とか(ケッコンするとハード・ロックを聞かなくなる、という説があるらしい)いろいろあるでしょう。空白を別の空白で埋めるというのも本質的な解決ではないでしょう。勿論、いつまでも、自分の空白をそのままないがしろにしておいてハード・ロックでごまかしてる、というのも全然、不正解のようです。

 我身をふりかえりましても、ディープ・パープルを聞いてました頃は、ものの見事に何もなく、何もない上に更に悪酔いして吐いて吐いて吐き出してしまったようにカラッポになって、音を容れる事が出来ました。ハード・ロックが好きな人って、どこか(まるで、お酒を全然飲めない人が必死になって痛飲しているような)マゾヒスティックなところがあるようです。吐き出す、というのは疲れる作業だが、吐き出した以後は爽快な事に違いない。しかし、今となってはお酒だって<吐くために飲む>ものでは決してない。イアン・ギランは、あの爽快感を未だに忘れられないようだが……。

 今ではROも6年の歴史を持ってしまった訳だし、僕も子持ちという事です。みんなだってあの時よりは、はるかにレコードの種類も枚数も増えたでしょう。でも時々本当に、ひらめきのように、あるいは、くしゃみをしたくなるように、思うよ。ここからだ、ここからが問題なんだ、って。最初から何も持ってない人が、ただその衝動にまかせてガンバルヨ! 何かしなくっちゃ! って叫んだって、カラ元気に終ってしまう。問題は、社会とか対人関係の中で基盤みたいなのが出来てからでしょう。あの頃16才だった子だって、もう20才過ぎだ。もう僕だって、崩壊感覚を楽しんだり、マゾヒズムに溺れたりするような余裕は全然ない。そんな事やってたら死んでしまう。でも、やっぱり、本当に、ここからが問題なんだ。ディープ・パープルの一番最後も、確か(遺言のように)キープ・オン・ムービング!

 


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