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峯岸みなみの「丸刈り動画」についての対話
田口ランディ 橘川幸夫
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■田口■
AKBのみなみちゃんが、彼氏とお泊まりしたことを週刊誌にすっ
ぱ抜かれて、頭を丸刈りにしてYouTubeで謝罪したんだ。そのこと
が話題になっているんだけどね、この丸刈り謝罪動画が、ナマゆえ
に妙にエロくてグロいんですよ。だって、二十歳の女の子が丸刈り
して、YouTubeだよ。「AKB止めたくない!」って泣いていて、すご
いなあ、そこまでして……と思ったよ。これって、橘川さんはどう
思う?
■橘川■
大騒ぎだね、みいちゃんの丸刈り問題。これは、「本質の橘川」
(笑)から言わせると、自主体罰だとかいうことではなくて、もっ
と根本的な問題がある。それは「コンテンツ労働」という問題。
AKB48がいわゆる通常の仕事で、彼女たちが会社員だとしたら、恋
愛禁止なんてパワハラ以外でなく、会社組織としてブラックだ。会
社法的には、そうなのかも知れない。だけど、それで片付けてしま
うのは、これからの時代を潰してしまう。彼女たちは「仕事」なん
だけど「仕事以上の価値」をアイドルやることで満たされている。
大人は仕事としてか見てないのかも知れないが。
■田口■
「コンテンツ労働」ね、面白いね。土方は「肉体労働」、看護師や
ホステスは「感情労働」、SEは頭脳労働、で、アイドルは「コンテ
ンツ労働」ね。
■橘川■
「コンテンツ労働」の問題って言ったけど、これは、80年代ぐらい
から社会の問題として潜伏していたことなんだ。例えば、テレビ
のADというのは、ものすごい劣悪な条件で仕事している。テレビ局
の社員は高給なのに。それでも仕事を続けるのは、その仕事が面白
いし、タレントに会えるから。アニメーターも同じ。アニメの制作
の仕事に携われるならと、ひどい条件で仕事している。出版なんか
も、昔からそうかも知れない。雇う側は何と言うかというと「文句
あるなら、やめていいんだよ、やりたい人はいくらでもいるから」
と言うんだ。AKB48などのアイドルという仕事も同じような構造な
のではないかと思う。
■田口■
なるほど、コンテンツ労働は、肉体労働でも感情労働でも頭脳労
働でもありえるのね。仕事以上のなんらかの価値を感じて労働する
こと……限りなくボランティアに近いソーシャルビジネスや、儲か
らないけど雰囲気のいい喫茶店のオーナーなんかもそうなのかな?
そう思うと、いまやコンテンツ労働の時代と言えるね。
■橘川■
そうそう、これからの労働のあり方なんだ。「仕事のような遊び、
遊びのような仕事」ね。でも、そうなるためには、コンテンツの当
事者が主体にならなくてはダメで、裏方が権力握るという構造を変
えなければダメだね。コンテンツ労働というのは、「食うための労
働」だけではなく「自分らしく生きるための労働」なんだ。
AKB48が、普通の会社で、会社の規約に「恋愛禁止」なんてあっ
たら、人権問題で訴えることも出来るし、組合作って団交だ(笑)。
だけど、そうではない「労働」なんだな、アイドルって。そこのと
ころを否定してしまうと、これからのコンテンツ・ビジネスのあり
方が見えなくなる。そういう、新しい「労働」が生まれているのに、
それを支える構造が旧態依然の越後獅子の親方みたいなことが問題
なんだと思う。
■田口■
はっはっは、秋元さんが越後獅子の親方ね。言いえて妙。いまじ
ゃ二十歳はまだ子どもだからね……。みなみちゃんは特に幼い感じ
がする。周りに彼女を護る大人がいなかったことが……いまの芸能
界の問題なのかもしれないね。必ずいるものだよ、親方に逆らって
子どもを護ろうとする大人がね……。それがいなかったんだなあ……。
■橘川■
秋元さんは、AKB48作る時に、友人の娘さんとか、片っ端に連絡
とって誘っていたという話がある。実際、あれだけの仕掛けを作る
には、相当なエネルギーと投資が必要だったと思う。単に一方的な
搾取構造ではなく、ある意味、自腹切って賭けたギャンブルに勝っ
たみたいなところがある(笑)。
僕は、今の若い子が、簡単に独裁者に従うほど、弱々しいとは思
えないな。面従腹背というか、もっとしたたかだと思う。みいちゃ
んだって、バレなければ、秋元さんをだまし通せたわけで(笑)。
ていうか、マスコミに出なければ、秋元さんだって見ぬふりしてた
だろう。
■田口■
秋元さんが賭けに出て、 AKBの女の子たちもアキハバラでがんば
ってきた……ってのは、以前にドキュメンタリーで見たよ。そして
大勝利したわけだね。勝つことばかり考えていたから、その後をど
うするか……ってのは、あまり考えていなかったかもしれないよ。
男が組織を作るとどうしても軍隊っぽくなっていくね。支配しコン
トロールするのに都合がいいからだろうか。人が多くなっていけば
当然、統制のための規律も厳しくなる(ちょっと共産圏っぽい感じ
あったよね)。
で、質問、コンテンツ労働を支える構造はどうあればいいの?
そこに必要なのは何だろう。徒弟制度的なものに変わる構造ってな
んだろう?
■橘川■
まず、テレビとか出版社とか、中心が権力握って全体をコントロ
ールする構造を変えなければダメだと思うな。同時に、コンテンツ
やる人間が自分でやれることをやること。インターネットで行われ
ていることは、その構造との戦いみたいなもの。
僕はずっと、若い人からの投稿雑誌をやっていたから、若い子の
カタマリがいると、その中で面白い子がいないかなあ、と見てしま
うんだよ。だから、AKB48がいると、その中にも面白い子がいるは
ずだと思ってしまう。光宗薫という女の子が人間的に良いな、と思
っていたんだけど、ストレスためすぎて辞めてしまった。
■田口■
私はAKBというグループには、そんなに関心はないんだ。同じく
らいの年ごろの娘がいるから「娘たちがんばってるな、親は心配だ
ろうな」くらい(笑)誰だって人から「面白いね」と言われればう
れしいさ。だから冒険したくなる。それが若さってもんだ。自分も
そうだったからね。だけど、みなみちゃんの謝罪会見のあの動画が
出てしまったのは……「そこまでする必要はない」と判断できる大
人がいなかったってことだ。まともな判断力があればあの映像は流
れなかったと思うよ……。橘川さんも言ってたじゃない、「ネット
には残ることが前提で発言しなきゃならない」って。
■橘川■
僕らは、そうだけど、そうではない、もっと刹那的な世代が出て
きているんだろうと思う。AVで、次から次から次に若い子が出てき
た時に、驚いた。この子たち、20年したら、この記録残っちゃうけ
ど、大丈夫なのだろうか、と。でも、そういう発想は、僕の方が親
父として見ているからかも知れない(笑)。どんな恥ずかしい記録
でも、その時は真実なんだから、残っても悔いはない、というのは、
それはそれで、潔い(笑)。
■田口■
AVかあ……。「なんでそこまで?そんなにかわいいのに?」って
子が出てるよね。誰が観るかわかんないのに……って、オバさんは
ドキドキしてしまう。私が焦ってどうすんのって感じだよね。みな
みちゃんもそうなのかな……でも……やっぱ一六歳の娘を育ててい
る親としての自分が出ちゃうね。乗り込んで行って、親方に跳び蹴
り喰らわして、ニ、三発平手打ちして、娘を奪還したい……って、
思うよ……。きっと娘には「止めてよお母さんのバカア!」って嫌
われるだろうけど、やっちゃう。親は嫌われてなんぼだ。
■橘川■
わはは、奪還の光景が目に浮かぶね(笑)
■田口■
「コンテンツ労働」を業界や親方が仕切るのじゃなく、働いてる人
たちが仕切るべき……というのはよくわかる。AKBの混乱を生き抜
いた少女たちが、自分たちで次のコンテンツ労働を創っていったら
いいよね。もっと橘川さんみたいな人がいっぱいいて相談に乗って
あげたらいいのになあ。
「付加価値を求める労働」って、ある特定の組織に所属しているこ
とを「自分の最大の価値」と思い込んでしまう場合もあるから、自
尊心というものを育てにくくなる。「ここに所属している以外の自
分がありえない」みたいな人が従事すると、ますます自分を無価値
に思ってしまったりする。みなみちゃん、自分に自信がなくてあま
り自分を好きになれなかったんじゃないかなあ……そう思うとね、
「コンテンツ労働」にのめり込むのは怖いなあと感じるね。
でも、人は成長していくし、いろんなことを乗り越えて自分と向
き合っていくものだから……。自分の人生は自分しか生きられない
し、自分の苦しみは自分しかわからない。二十歳でしょ、これから
だね……、がんばれー!
■橘川■
若い子は、どんな子でも頑張れと思う(笑)。
みいちゃんの丸刈りビデオ、僕は、回りの大人が誘導したのでは
なく、本人の意思で、スタッフが協力したんだと思う。峯岸と仲の
よいサシコが、同じようなトラブルで、博多にやられたから、彼女
も「バレた時はどうするか」を、あらかじめ考えていたんではない
かな。勘ぐり過ぎかもしれないけど(笑)。だけど、どうせやるな
ら、あの動画を有料課金したら、秋元康を超えられたのに(笑)
■田口■
うわ、そうきますか……。さすが橘川さん。私は相変わらずどっ
ちつかずで複雑な気分だな。
母としては、少女をコンテンツ労働させるなら、もっとちゃん
と護れと越後獅子の親方に言いたい。女としては、男の少女趣味
は好きじゃない。
だけど、だからって「あたし文化リテラシーの高いのよ」って感
じでAKBを批判する気にはなれない。浦河べてるの家みたいに(例
が飛びすぎ?)「じぶんたちで好きなことやって生きていく」って
いう女の子たちが、自分たちで勝手にあんなグループ創って、がん
がん歌ったり踊ったりできたら楽しいのにね。そしたら、好きなよ
うに恋愛もできるし(笑)子どももがんがん産んで、親子で舞台と
かね、なんでもありだ。
若者よ、掟は自分が創れ……!
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○本原稿は、「チタ・グランディ」の登録会員向けに配信された、
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○「チタ・グランディ」は、田口ランディの表現と生き方に関心を
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「チタ・グランディ」事務局 橘川幸夫+淵上周平
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