橘川幸夫放送局通信

ボウイ ロンドンライブ盤(ロッキングオン28号 1977年)

1977/07/02 22:37 投稿

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標題=ボウイ ロンドンライブ盤
掲載媒体=ロッキングオン28号
発行会社=ロッキングオン社
執筆日=1977/07/02
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みんなで一斉にいっちゃいたい


 ボウイの息づかい、まばたき、体温、指先のしな……う、う、う、これは、すすすすごい。今世紀最大にして最強の思想者であり実践者であるデビッド氏のロンドン・ライブです。彼の仕事は、これまでも<やるべき事はさっさとやる>という態度で一貫され、しかも、自分のやった事によって新たになった自分が束縛される事がない、という点において、素晴しくスッキリ、キビキビ、快い。それにしても、ライブアルバムとはこういうものなのであったのか!

 普通、ライブアルバムというと、ステージに行けない人にステージの興奮を伝えるため、とか一度ステージを観た人にもう一度興奮をとかいった、その程度の目的意識が働いているが、しかし、ロックの興奮なるものがステージとかレコードとかの限定的な空間にしかありようもないものだったら、そんなのは暇つぶしや気まぐれにはなるにしろ、僕らの生の根本に触れるようなものにはならんでしょう。パチンコ屋へ行ったって、それはそれで興奮する訳で、だけどパチンコやったって、その人の生の意味が変るなんて事はないですよね。

 だからこのライブのライブという意味は、ロンドンのどこそこのコンサートのライブ、とかいったものじゃなくて、ボウイの生(ライブ)の、まったきそのものの興奮という事です。そのようなものとして聞かない限り、ボウイも憐れな着せ替え人形となるであろうし、あなただって、うつろなあやつられ人形です。(自慢したいが、僕は日本に来たロック・ミュージシャンのステージを観たのは、ボウイだけです。ミック・ロンソンってやっぱり、凄い)

 でも、思い出したりなんかしないよ。
 それは野球だっていい、スターのうわさ話でもいい、人間には何にだって興奮できるものです。それは、心の外側をおおっている感情が絶えず現実世界と触れあって揺れているからだ。でもハート・ツー・ハートで僕たちが結ばれあう、という事は、決してそんな感情のシーソーゲームの結果なんかじゃない。感情でしか音楽を聴けない人が(=世界を見れない人が)自分勝手にフラフラ揺れて、感情の言葉であれが良いこれはイモだ、なんていったって、薄っぺらなものだ。

 過去も未来も今の一点に急速に流れこんで来る。世界中が私という一点に激しく流れこんでくる。ホワッチャーネイム? アイアムザマン。ぎゅうっと掌を握りしめて僕はステージのボウイを視る。そしてゆっくりと拡げた掌(てのひら)の白い荒野にボウイのキリッとした笑顔が還って来てくれた。ステージの上で何度も何度も殺されたボウイが、レコードの中で何度も何度も犯されたボウイが、ほら笑っているよ。わあっー、嬉しい。僕ひとりで、いっちゃうのも空しいので、みんなで一斉に、いっちゃいたい、と願うのでした。

(このレコードは海賊盤ですが、今までのボウイのどの海賊盤よりも、音質は最高です。最初の方でノイズが入りますが、それもまるで計算されたように、ボウイの誘惑の罠。ボウイは、何故か日本では出せば出すほど売れなくなってくる、らしいですが……)

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