ウオール・ストリート・ジャーナルの検討違い 1: ロシアが軍事的対立を激化させることはない 12月17日ウオール・ストリート・ジャーナルが伝えているように、「今回のロシア経済危機、ルーブル通貨危機によって、ウクライナに対するロシアの軍事的攻勢が強まり軍事的対立が激化する」ことはないし、「プーチンがウクライナに対して好戦的態度をとり、EUに圧力をかけ、西側諸国から譲歩を引き出す」こともあり得ない。 そもそも、ウクライナ問題は、ウクライナの右派勢力、ナチ勢力がネオコン、米国政府の後押しを受けてクーデターを起こし、ウクライナ新政府が東部ロシア地域に、一方的に軍事攻撃を始めたことから始まっている。ウクライナが半戦争状態になれば、惨事に便乗してNATOがウクライナに進駐が可能となり、新自由主義が支配するウクライナに変えることができる。NATOがミサイル群をウクライナ国境に配備すれば、ロシアの軍事力、ミサイル網を無化にできる。 したがって、ロシアにとってはそのような事態への進展をゆるさないために戦闘状態の終結が重要である。実際のところ、プーチンは停戦を一貫して主張し、呼びかけ、実現してきた。戦争を煽ってきたのは、ウクライナ新政府であり、NATOであり、欧米政府である。 仮にロシアが戦闘状態をつくったとしても、EUや米に対し、譲歩をひき出すことにはならない。NATOの軍事駅介入の口実を与えるだけである。 ウクライナが停戦を受け入れたのは、ウクライナ軍の装備は極めて古く、兵士の士気も低く、ロシア系住民の義勇兵に簡単に敗北したからである。現時点においては、停戦がほぼ成立しつつあるが、決して安定的な関係ができているわけではない。ウクライナはすでに破綻国家であり、国家財政は破綻しており、軍事費を準備する余裕はない。にもかかわらず、ポロシェンコ大統領は、米国にそそのかされ対東部地域、対ロシアに対する戦争準備のための軍事力強化方針をいまだおろしていない。 停戦であろうが、戦闘が再び始まろうが、米政府とEUは、ロシアへの経済制裁を解除しない。制裁の機嫌である1年後、どうするかである。 2: ガス供給は相互互恵関係の基礎 「ロシアが欧州対し、供給している天然ガスを止めると脅す」可能性をウオール・ストリート・ジャーナル(12月17日)が伝えているが、これもひどい見当違いである。 ロシアが欧州に天然ガスを供給しはじめたことによって、欧州―ロシア間には密接な相互依存関係がつくりだされた。天然ガス供給は単にエネルギー供給にとどまらず、永続的な友好関係、安全保障体制をすでに形成しているのである。パイプラインが破壊されるような戦争、戦闘行為はEUもロシアも反対するであろうし、そのような事態が起こさない相互互恵関係がすでに成立しているのである。 ロシアが天然ガスを止めることが、「EUに対する脅し」以前に、ロシアにとっては大きな損失を生じさせる。天然ガスは現在のロシアにとって貴重な外貨収入源であるし、ガス供給のためにすでに莫大な資本を投じてパイプラインを施設してもいる。 いったん供給を止めたなら、例えば米国のシェールガスに一部が取って替えられ、ロシアの天然ガスはその販売先とシェアを失うことを意味する。ロシアは莫大な損失を負うことになる。 しかも現在のロシアは、石油価格の下落によって外貨収入を失っているのであり、天然ガスを止めるなら、さらに貴重な外貨収入を失うことになるのであり、そのような選択肢は到底考えられないし、ありえないのである。 EUとロシアのガス供給関係、相互互恵関係を破壊することに利益を持つ存在は、近い将来シェールガス、オイルの輸出先を求めることになる米国である。EU側としては、価格交渉のため、エネルギー供給多様化の一つとしてシェールガスを採用することはあるだろうが、しかし現時点では米国はシェールガス・オイルを輸出する態勢はできていない。まだ数年以上かかる。仮に数年後になっても、ロシアの天然ガスはパイプラインで送られており、船で運ぶLNGと比べ輸送コストは優位にあり、シェールガスに全面的に切り替わることはありえない。 唯一ありうるのは、ウクライナが欧州向けに送る天然ガスを途中で抜き取る事態である。かつてそのようなことはあった。EUにとっては許されないことであり、もしそのようなことが起きれば、ドイツをはじめEUはウクライナを許さないだろう。 「ロシアによるEUへの天然ガス供給」は、ウオール・ストリート・ジャーナルが指摘するEUに対するロシアの脅しの種になるのではなく、逆に対立を防ぐ要因として機能する。
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孫崎享チャンネル
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ウオール・ストリート・ジャーナルの検討違い
1: ロシアが軍事的対立を激化させることはない
12月17日ウオール・ストリート・ジャーナルが伝えているように、「今回のロシア経済危機、ルーブル通貨危機によって、ウクライナに対するロシアの軍事的攻勢が強まり軍事的対立が激化する」ことはないし、「プーチンがウクライナに対して好戦的態度をとり、EUに圧力をかけ、西側諸国から譲歩を引き出す」こともあり得ない。
そもそも、ウクライナ問題は、ウクライナの右派勢力、ナチ勢力がネオコン、米国政府の後押しを受けてクーデターを起こし、ウクライナ新政府が東部ロシア地域に、一方的に軍事攻撃を始めたことから始まっている。ウクライナが半戦争状態になれば、惨事に便乗してNATOがウクライナに進駐が可能となり、新自由主義が支配するウクライナに変えることができる。NATOがミサイル群をウクライナ国境に配備すれば、ロシアの軍事力、ミサイル網を無化にできる。
したがって、ロシアにとってはそのような事態への進展をゆるさないために戦闘状態の終結が重要である。実際のところ、プーチンは停戦を一貫して主張し、呼びかけ、実現してきた。戦争を煽ってきたのは、ウクライナ新政府であり、NATOであり、欧米政府である。
仮にロシアが戦闘状態をつくったとしても、EUや米に対し、譲歩をひき出すことにはならない。NATOの軍事駅介入の口実を与えるだけである。
ウクライナが停戦を受け入れたのは、ウクライナ軍の装備は極めて古く、兵士の士気も低く、ロシア系住民の義勇兵に簡単に敗北したからである。現時点においては、停戦がほぼ成立しつつあるが、決して安定的な関係ができているわけではない。ウクライナはすでに破綻国家であり、国家財政は破綻しており、軍事費を準備する余裕はない。にもかかわらず、ポロシェンコ大統領は、米国にそそのかされ対東部地域、対ロシアに対する戦争準備のための軍事力強化方針をいまだおろしていない。
停戦であろうが、戦闘が再び始まろうが、米政府とEUは、ロシアへの経済制裁を解除しない。制裁の機嫌である1年後、どうするかである。
2: ガス供給は相互互恵関係の基礎
「ロシアが欧州対し、供給している天然ガスを止めると脅す」可能性をウオール・ストリート・ジャーナル(12月17日)が伝えているが、これもひどい見当違いである。
ロシアが欧州に天然ガスを供給しはじめたことによって、欧州―ロシア間には密接な相互依存関係がつくりだされた。天然ガス供給は単にエネルギー供給にとどまらず、永続的な友好関係、安全保障体制をすでに形成しているのである。パイプラインが破壊されるような戦争、戦闘行為はEUもロシアも反対するであろうし、そのような事態が起こさない相互互恵関係がすでに成立しているのである。
ロシアが天然ガスを止めることが、「EUに対する脅し」以前に、ロシアにとっては大きな損失を生じさせる。天然ガスは現在のロシアにとって貴重な外貨収入源であるし、ガス供給のためにすでに莫大な資本を投じてパイプラインを施設してもいる。
いったん供給を止めたなら、例えば米国のシェールガスに一部が取って替えられ、ロシアの天然ガスはその販売先とシェアを失うことを意味する。ロシアは莫大な損失を負うことになる。
しかも現在のロシアは、石油価格の下落によって外貨収入を失っているのであり、天然ガスを止めるなら、さらに貴重な外貨収入を失うことになるのであり、そのような選択肢は到底考えられないし、ありえないのである。
EUとロシアのガス供給関係、相互互恵関係を破壊することに利益を持つ存在は、近い将来シェールガス、オイルの輸出先を求めることになる米国である。EU側としては、価格交渉のため、エネルギー供給多様化の一つとしてシェールガスを採用することはあるだろうが、しかし現時点では米国はシェールガス・オイルを輸出する態勢はできていない。まだ数年以上かかる。仮に数年後になっても、ロシアの天然ガスはパイプラインで送られており、船で運ぶLNGと比べ輸送コストは優位にあり、シェールガスに全面的に切り替わることはありえない。
唯一ありうるのは、ウクライナが欧州向けに送る天然ガスを途中で抜き取る事態である。かつてそのようなことはあった。EUにとっては許されないことであり、もしそのようなことが起きれば、ドイツをはじめEUはウクライナを許さないだろう。
「ロシアによるEUへの天然ガス供給」は、ウオール・ストリート・ジャーナルが指摘するEUに対するロシアの脅しの種になるのではなく、逆に対立を防ぐ要因として機能する。