りゃん のコメント

前回、今回と、広い意味で「心」に関係のある記事を発信しておられるとみえます。

そこで、少し強引な点はおゆるしいただきたいのですが、パレスチナ問題で「心」に注目している
鶴見太郎の文章をみつけていたので、紹介しておきます。

鶴見は、
イスラエルの起源 ロシア・ユダヤ人が作った国 (講談社選書メチエ)
の著者であり、ポグロムに注目している学者ですがが、それだけではなく、
イスラエル人、パレスチナ人の「心」にまで注目していることがご理解いただけるとおもいます。

なお、上掲本の内容は上掲本を読むしかありませんが、著者の問題意識は今回の文章によくあらわれています。

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イスラエルの孤立主義とパレスチナ人のメンタルヘルス:国際社会に心はあるか

(上)孤立を求めるイスラエル
https://gendai.media/articles/-/118742
(下)パレスチナにメンタルヘルスを
https://gendai.media/articles/-/118743

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長くもない文章なので、すぐ読めます。
文章はほとんど全か所にわたり重要だとおもいますが、わたしなりにとくに重要とおもわれる場所を引用しコメントをつけてみました。(下)のほうは、具体的な数字が多かったので引用は少ないですが、数字を含めて、重要と言えば全部重要です。
(【】が鶴見の文章)。

1,上

【イスラエルを作ったユダヤ人の多くの出身地域である旧ロシア帝国】

のっけから需要です。暗記すべきことばです。この点を今まで多くの日本人は意識していなかったのです。


【シオニズムが生まれるまでの過去2000年近くにわたり、ユダヤ人の姿勢は(略)迫害されてもできるだけ波風を立てないように耐え忍んだ。居住する国家の軍隊に入り、結果的に敵国に居住するユダヤ人と戦うことはあっても、ユダヤ人を自衛するために武器を取ることはなかった


もともとユダヤ人はおとなしかったと言っています。ではなにがユダヤ人を攻撃的にしたのでしょうか。


【そうしたユダヤ人が歴史上初めて武器を取って自衛をするようになるきっかけとなったのが、ポグロムだった。1881年にロシア帝国ウクライナ南部で発生したポグロム(略)】

ポグロムがユダヤ人が攻撃的になる契機であったと。


【ウクライナなどでユダヤ人は何世紀も根を張って暮らしてきた土着の民であったが、パレスチナにおいては、平和共存しようとしたシオニストがいたとはいえ、侵略者の色が濃かったのである】

つまり、ユダヤ人は、もともとは旧ロシア帝国領などで根を張って暮らしていた土着の民であった。それがポグロムによって追い出され、パレスチナでは侵略者になったと。


【ポグロムの記憶は、アラブ人からの暴力を、ポグロム同様のものと認識する方向づけをしてしまった。(略)あれだけの凄惨なポグロムを経験したり、その話を知ったりしたあとで、そのような認識に至るのは決して不思議ではなかった】

ユダヤ人は、アラブ人からうける暴力をポグロム同様のものと認識してしまった。
これは誤認識だが、凄惨なポグロム体験のあとでは、その誤認識に至るのも不思議ではないと。
もちろんアラブ人には正当化できる言い分があり、一方ポグロムはまったく正当化できない。

【……今我々はこの目を通して、我々のアラブの役人たちがポグロムと同じ方法をとっているのを目撃している。ユダヤ人に関して、何十年も、東欧の国家〔単数形なのでおそらくロシアのこと〕の諸問題はその方法で処理されてきた。ロシア当局が、そうした方法、ポグロムという方法が、適切で、王国の智慧に合致する国家秩序であると本気で考えていた時期であった。……しかし、この地のアラブの支配者までが、ロシアの人民の下衆な支配者、およびロマノフ家の最近の王〔ツァーリ〕による国家の教義を学ぶことになるとは考えもしなかった】
【アラブ人はここにおいて、ロシアやルーマニアで多くの者が学んだようなことを学んでいる。つまり、ユダヤ人に対してはあらゆることが許される、ということを】

ハアレツの記事を引用していますが、そのなかにこの↑文章があります。まさに当時のユダヤ人の「心」です。


【外交的にはとりわけ1970年前後からアメリカとの緊密な関係を結ぶようにはなった。だが、実際にはアメリカはイスラエルをなだめる役回りをすることがほとんどで、アメリカの言うことをまったく聞かないわけではないにしても、本質的なことについてはアメリカの意向にも構わず、イスラエルは我を通してきたし、結局のところアメリカはそれを許してきた】

今回のガザ攻撃についても、わたしはこの観察がぴったりだとおもいます。少なくとも、米国とイスラエルとが、ともに積極的に、ガザを攻撃しているとはわたしには見えず、むしろ、米国がいなければ、イスラエルのガザ攻撃はもっともっと凄惨な大殺戮になった(これからも、なる)可能性があるとみています。
そして、ロシアが解決に向けてなにかした形跡はありません。
ただし、米国は結局イスラエルを許してきたと。


【ホロコーストに対する補償は西ドイツがある程度まで行っていたが、ポグロムはまるでなかったことにされている。しかるに、その記憶が現在まで息づいていることは、ハマースからの奇襲に対して再び「ポグロム」という言葉が聞かれたことにも表れている。そして、世界がユダヤ人を助けなかった記憶が呼び起こされている】

ことばを慎重に選んでいますが、「ホロコーストに対する補償」ということばが出てきているからには、本来暴力志向でないユダヤ人の、心の領域まで踏み込んで問題を解決するには、ポグロムに対する謝罪と賠償とが必要だと実質的に言っているとみえます。
謝罪と賠償とをするのは、現在存在する国でいえば、もちろん主としてロシアでしょう(※)。
もちろん、イスラエルもパレスチナ人に対する謝罪と賠償とが必要でしょう。

※ しかし、これは絶望的です。ロシアは、たとえば、わたしが時々言及するクリミア・タタール人の強制移住にも、日本人のシベリア抑留にもほっかむりしている国です。どころか、ウクライナの侵略をはじめた国です。


2,下

【政府高官を含めてイスラエル人のなかにはパレスチナ人を獣に喩える者がおり】

典型的な、差別迫害されたものが差別迫害する、という構造があります。


【孤立主義をさらに強めているイスラエルは、パレスチナ人との問題をとにかく自らだけで片づけようとする方針を貫いてきた。パレスチナ人の抵抗にもかかわらず徹底的に抑え込もうというガザに対する策はそれが行きついた先である。だが、その限界は当初から指摘されてきた(略)】

このとおりで、今のガザをみていると、イスラエルにもパレスチナにも未来があるとはまったくおもえません。

といいつつも、イスラエルのひとりあたりGDPはいつのまにか日本を抜いているし(まあ抜かれるのが常態になっていますが)、この面のイスラエルには未来があるようで、ロシアも中共もすりよっています。

そして、イスラエル人(もちろんパレスチナ人も)の「心」の問題はかえりみられないままです。
おそらくはソ連が反米の道具としてアラブ諸国を利用したころの言語空間から出ることのできないヒトビトが、空疎なおしゃべりを続けています。

No.3 12ヶ月前

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