RT 8 Sep, 2023 米国経済が好調なのに、なぜ多くの米国人はそれを実感できないのか? https://www.rt.com/news/582593-biden-us-citizens-despair/ ジョー・バイデンの政策は、少なくとも紙の上では成功しているが、多くの一般市民は絶望しか見ていない- 米国人ジャーナリスト、コラムニスト、政治評論家|ブラッドリー・ブランケンシップ記 最近米国では、ジョー・バイデン大統領の経済政策で見込まれる成功と、明らかに起こっている「バイブセッション」(金融インフルエンサーのカイラ・スキャンロンによる造語で、経済に対する悲観的な見通しに基づく不況の認識=景気後退)に関する議論が巻き起こっている。それは、ウィル・スタンシルという名前の X (旧ツイッター) ユーザーが主導しているものだ。 ウィルは、バイデノミクス(現政権の経済戦略の総称で、表向きは労働者階級の支援、所得格差の是正、社会的セーフティネットの強化に向けられている)が機能していると主張している。米国経済は絶好調で、歴史的な低失業率を背景に、労働者はようやく賃上げと公正な契約を求める力を手に入れた。 しかし、いつもそうであるように、インターネット上では意見が対立し、人々の生活体験は具体的な数字とは矛盾する。X世代は、不動産価格が高騰しており、Z世代は持ち家を持つことなど想像すらできないだろうとスタンシルを罵倒した。また、殆どの米国人はまだ給料日前の生活をしており、何か大きな金融危機が起これば、路頭に迷うことになるという事実を指摘する人もいる。 これらは正しい指摘だ。持ち家は、人々が世代を超えて富を築くための主要な方法である。高金利と膨れ上がる不動産価格のせいで、まだ市場に参入していない米国の若者が、決して市場に参入できない可能性があるのは事実だ。これは大きな要因であり、物事が上手くいっていないという感覚が蔓延していることに繋がる。しかし、もう少し大きな問題がある。 同時に、更に掘り下げる前に、ウィルの言っていることは正しいと言わなければならない。バイデノミクスはどうやら上手くいっているようだ。少なくとも、最近の就職活動はかなり楽になっている。最近の調査によれば、仕事の満足度は歴史的な高水準にあり、賃金は上昇し、インフレ率は大幅に下がっている。しかし、人々はそう感じていない。別の、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の最近の世論調査では、登録有権者の58%が過去2年間で景気が悪化したと考えており、明らかに事実ではないにも拘わらず、その中の74%がインフレが間違った方向に進んでいると考えていることが判明した。 では何が原因なのか?これほど素晴らしい状況なのに、なぜ人々はこれほど悲観的なのだろうか?スタンシル氏は、今日の世界は過去とは違うと言うだろう。特に、ソーシャルメディアの出現と(恐らく)メディアの二極化によって、人々の不満を誇張するような大きな物語が存在する。彼は、古代の哲学者たちと同じように、私たちは物語によって構築された世界に生きており、私たちの生活体験は先入観に大きく影響されていると言うだろう。 ドナルド・トランプ前米大統領の経済政策が紙面上では同様に良好に見えたにも拘わらず、人々の意見は二分されたことからも明らかなように、これには一定のメリットがあるかもしれない。しかし、この7年ほどで本当に大きく変わったのは、米国人(特に若い米国人)が世界を見る際に比較政治を適用し始めていること、つまり、米国が他の国々と比べてどのように機能しているか、その違いを見抜いていることだ。 他のどの国であろうと、ほんの少し理解すれば、米国の制度が非常に容赦のないものであることが分かるだろう: 米国人には、国民皆保険制度も、国民皆高等教育も、利用しやすい公共交通機関も、政府指定の休暇も、他の多くの国で見られるような手厚い社会保障もない。これだけで、私たちは騙されている、私たちの生活は非常に不安定だという感覚を抱く。 今日、法外な住宅費が益々多くの荒廃と目に見える貧困を生み出している。米国人にとって、これは本質的な恐怖を生み出す。というのも、私たちは暗黙のうちに、自分もまた路上生活者になる可能性があることを理解しているからだ。そのため、たとえ現在の経済が米国の基準からすればかなり好調であったとしても、何か一つでも問題が起これば、経済的な破滅が直ぐそこまで来ていると感じてしまうのだ。 だからこそ、「バイブセッション」の議論には、数字だけでなく生活体験も考慮に入れた、より広範で体系的な視点からアプローチすることが重要なのだ。例えば、景気がかつてないほど良くなっているのが事実だとしたら、あるいは少なくともここ数十年間はそうではなかったと主張する人もいるかもしれないが、では何故これほど多くの人々がイライラしているのだろうか?米国の社会経済システムがそうなるように設計されているからだ。 メディケア・フォー・オール(万人のための医療保障制度)」や「授業料無料の大学」のようなものが主流の議論に入り、2016年のバーニー・サンダースのキャンペーンを背景に「民主社会主義」や左派政治全般が若返ったとき、米国人はこのことに気付き始めた。この運動は、このような制度的な問題を前面に押し出し、米国人が基本的なニーズを満たすという点で、私たちのやり方が最善ではないことに気付くのを助けるために今日まで続いてきた。 このことに関して、私はフリードリヒ・エンゲルスが史的唯物論の概念について記した「空想から科学へ」の中の一節を思い出す。彼は次のように書いている。「既存の社会制度が不合理で不公正であり、理性が愚かさとなり、恩恵が呪いとなったという現実に目覚めたなら、それは、生産方法と交換様式にひそかに変化が起こり、以前の経済状況に適合した社会体制がもはや適合しなくなったことを示すものにすぎない。(引用元:https://ja.wikisource.org/wiki/空想から科学へ)」 平均的な米国人が正真正銘の共産主義者でないことは明らかだが、それでもこの指摘は重要である。米国人の生活が質的に不安定なままであれば、いくら雇用が創出され、賃金が量的に伸びても意味がない。それこそが、多くの人々が「おかしい」と感じる理由の核心なのだろう。
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RT 8 Sep, 2023
米国経済が好調なのに、なぜ多くの米国人はそれを実感できないのか?
https://www.rt.com/news/582593-biden-us-citizens-despair/
ジョー・バイデンの政策は、少なくとも紙の上では成功しているが、多くの一般市民は絶望しか見ていない-
米国人ジャーナリスト、コラムニスト、政治評論家|ブラッドリー・ブランケンシップ記
最近米国では、ジョー・バイデン大統領の経済政策で見込まれる成功と、明らかに起こっている「バイブセッション」(金融インフルエンサーのカイラ・スキャンロンによる造語で、経済に対する悲観的な見通しに基づく不況の認識=景気後退)に関する議論が巻き起こっている。それは、ウィル・スタンシルという名前の X (旧ツイッター) ユーザーが主導しているものだ。
ウィルは、バイデノミクス(現政権の経済戦略の総称で、表向きは労働者階級の支援、所得格差の是正、社会的セーフティネットの強化に向けられている)が機能していると主張している。米国経済は絶好調で、歴史的な低失業率を背景に、労働者はようやく賃上げと公正な契約を求める力を手に入れた。
しかし、いつもそうであるように、インターネット上では意見が対立し、人々の生活体験は具体的な数字とは矛盾する。X世代は、不動産価格が高騰しており、Z世代は持ち家を持つことなど想像すらできないだろうとスタンシルを罵倒した。また、殆どの米国人はまだ給料日前の生活をしており、何か大きな金融危機が起これば、路頭に迷うことになるという事実を指摘する人もいる。
これらは正しい指摘だ。持ち家は、人々が世代を超えて富を築くための主要な方法である。高金利と膨れ上がる不動産価格のせいで、まだ市場に参入していない米国の若者が、決して市場に参入できない可能性があるのは事実だ。これは大きな要因であり、物事が上手くいっていないという感覚が蔓延していることに繋がる。しかし、もう少し大きな問題がある。
同時に、更に掘り下げる前に、ウィルの言っていることは正しいと言わなければならない。バイデノミクスはどうやら上手くいっているようだ。少なくとも、最近の就職活動はかなり楽になっている。最近の調査によれば、仕事の満足度は歴史的な高水準にあり、賃金は上昇し、インフレ率は大幅に下がっている。しかし、人々はそう感じていない。別の、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の最近の世論調査では、登録有権者の58%が過去2年間で景気が悪化したと考えており、明らかに事実ではないにも拘わらず、その中の74%がインフレが間違った方向に進んでいると考えていることが判明した。
では何が原因なのか?これほど素晴らしい状況なのに、なぜ人々はこれほど悲観的なのだろうか?スタンシル氏は、今日の世界は過去とは違うと言うだろう。特に、ソーシャルメディアの出現と(恐らく)メディアの二極化によって、人々の不満を誇張するような大きな物語が存在する。彼は、古代の哲学者たちと同じように、私たちは物語によって構築された世界に生きており、私たちの生活体験は先入観に大きく影響されていると言うだろう。
ドナルド・トランプ前米大統領の経済政策が紙面上では同様に良好に見えたにも拘わらず、人々の意見は二分されたことからも明らかなように、これには一定のメリットがあるかもしれない。しかし、この7年ほどで本当に大きく変わったのは、米国人(特に若い米国人)が世界を見る際に比較政治を適用し始めていること、つまり、米国が他の国々と比べてどのように機能しているか、その違いを見抜いていることだ。
他のどの国であろうと、ほんの少し理解すれば、米国の制度が非常に容赦のないものであることが分かるだろう: 米国人には、国民皆保険制度も、国民皆高等教育も、利用しやすい公共交通機関も、政府指定の休暇も、他の多くの国で見られるような手厚い社会保障もない。これだけで、私たちは騙されている、私たちの生活は非常に不安定だという感覚を抱く。
今日、法外な住宅費が益々多くの荒廃と目に見える貧困を生み出している。米国人にとって、これは本質的な恐怖を生み出す。というのも、私たちは暗黙のうちに、自分もまた路上生活者になる可能性があることを理解しているからだ。そのため、たとえ現在の経済が米国の基準からすればかなり好調であったとしても、何か一つでも問題が起これば、経済的な破滅が直ぐそこまで来ていると感じてしまうのだ。
だからこそ、「バイブセッション」の議論には、数字だけでなく生活体験も考慮に入れた、より広範で体系的な視点からアプローチすることが重要なのだ。例えば、景気がかつてないほど良くなっているのが事実だとしたら、あるいは少なくともここ数十年間はそうではなかったと主張する人もいるかもしれないが、では何故これほど多くの人々がイライラしているのだろうか?米国の社会経済システムがそうなるように設計されているからだ。
メディケア・フォー・オール(万人のための医療保障制度)」や「授業料無料の大学」のようなものが主流の議論に入り、2016年のバーニー・サンダースのキャンペーンを背景に「民主社会主義」や左派政治全般が若返ったとき、米国人はこのことに気付き始めた。この運動は、このような制度的な問題を前面に押し出し、米国人が基本的なニーズを満たすという点で、私たちのやり方が最善ではないことに気付くのを助けるために今日まで続いてきた。
このことに関して、私はフリードリヒ・エンゲルスが史的唯物論の概念について記した「空想から科学へ」の中の一節を思い出す。彼は次のように書いている。「既存の社会制度が不合理で不公正であり、理性が愚かさとなり、恩恵が呪いとなったという現実に目覚めたなら、それは、生産方法と交換様式にひそかに変化が起こり、以前の経済状況に適合した社会体制がもはや適合しなくなったことを示すものにすぎない。(引用元:https://ja.wikisource.org/wiki/空想から科学へ)」
平均的な米国人が正真正銘の共産主義者でないことは明らかだが、それでもこの指摘は重要である。米国人の生活が質的に不安定なままであれば、いくら雇用が創出され、賃金が量的に伸びても意味がない。それこそが、多くの人々が「おかしい」と感じる理由の核心なのだろう。