今回の訴訟の目的は、裁判を通じた反安保条約闘争でしょ。まさか、ほんとうに国家賠償が認められると原告がおもってるとでもおもうんですか? ですから、わたしは、最高裁判決の法理をあなたレベルでもわかるように書いた上で、 「ある意味国政選挙のたびに国民投票をしているようなものでもあるから、民主主義の原則にかなった考え方である。そして現実は、何十年もの間、ただの一度も安保条約が違憲だとする議員が国会で過半数を占めることはなかった」 「安保条約を廃棄したければ、国会でそういう考えの議員をひとり、もうひとりと増やしていくしかない」 と書き添えてるんですよ。つまり、最初になんらかの瑕疵があったとしても、そんなものはその後の国民の支持により治癒されていると。 国家賠償の点について書いておくと、時の最高裁長官が米大使と密談していたという事実と、「公平な裁判を受ける権利が侵害された」という主張とのあいだは、原告側にはなかなか埋められないと思います。密談と裁判官全員一致とのあいだの関係も証明できないだろうし、全員一致でなくても多数決という観点からは判決はかわらないし、判決の法理自体はなにもおかしくないしね。まあ、「公平な裁判」の意味については判例がありますが、今回の訴訟でその点に新たに踏み込みがあるかどうかは法律家に興味がもたれているとおもいますが。 なお、あなたがどれだけ意識しているか知りませんが、田中長官は、米大使館側に「裁判所の審議は、世論を『揺るがす』ような少数意見を避け、実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行われることを希望する旨述べた」、つまり田中が米大使館側に自分の希望を述べたのであり、米大使館側が田中に、「実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行」うよう命令したのではありません。これは当時の日本の支配層のひとりである田中の希望のことばなんですよ。 その背景には、当時の世界的な状況を重ねて考えてみると、日本で朝鮮戦争のような内戦をおこしてはならない、日本を(あるいは日本の一部を)社会主義の国にしてはいけない、60年安保改定が滞りなくおこなわれ、日本を安定させ、米国の影響下で民生を向上させる道が正しい、という信念をわたしは感じます。 そして実際に、1960年池田勇人内閣は所得倍増計画を閣議決定していますね。高度成長には公害問題などの大問題がありますが、それでも日本が豊かになったことを多くの国民が歓迎している。その根源には、田中長官のような政策選択があったということです。安保条約と高度成長とは不可分であり、その道を選んだというわけですね。その恩恵をたとえばあなたも受けている。中共で共産党である程度でものしあがるには、門閥か学力か最低どっちかはないと無理でしょ。「反米」するにしたって中共政府・中共共産党から結果が厳しく問われるでしょう。あなたが沖縄に遠足にいくようなことは、中共では無理だということです。 こういうことがわからないヒトビトを、わたしは「パックスアメリカーナのもとで、踊りまくったヒトビト」と呼ぶことがあります。 一方で、米国は「対価」として、日本国内での自由な活動だけでなく、自衛隊を海外で自由に用いるという圧力をかけてきたでしょう。しかし、この点は今までの自民党はギリギリ踏みとどまっている。自民党はよく努力したとおもっていますよ。 念のため書いておきますが、わたしは、米国を批難してはならないとか、ましてや感謝しろとか言ってるのではないですからね。
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孫崎享チャンネル
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今回の訴訟の目的は、裁判を通じた反安保条約闘争でしょ。まさか、ほんとうに国家賠償が認められると原告がおもってるとでもおもうんですか?
ですから、わたしは、最高裁判決の法理をあなたレベルでもわかるように書いた上で、
「ある意味国政選挙のたびに国民投票をしているようなものでもあるから、民主主義の原則にかなった考え方である。そして現実は、何十年もの間、ただの一度も安保条約が違憲だとする議員が国会で過半数を占めることはなかった」
「安保条約を廃棄したければ、国会でそういう考えの議員をひとり、もうひとりと増やしていくしかない」
と書き添えてるんですよ。つまり、最初になんらかの瑕疵があったとしても、そんなものはその後の国民の支持により治癒されていると。
国家賠償の点について書いておくと、時の最高裁長官が米大使と密談していたという事実と、「公平な裁判を受ける権利が侵害された」という主張とのあいだは、原告側にはなかなか埋められないと思います。密談と裁判官全員一致とのあいだの関係も証明できないだろうし、全員一致でなくても多数決という観点からは判決はかわらないし、判決の法理自体はなにもおかしくないしね。まあ、「公平な裁判」の意味については判例がありますが、今回の訴訟でその点に新たに踏み込みがあるかどうかは法律家に興味がもたれているとおもいますが。
なお、あなたがどれだけ意識しているか知りませんが、田中長官は、米大使館側に「裁判所の審議は、世論を『揺るがす』ような少数意見を避け、実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行われることを希望する旨述べた」、つまり田中が米大使館側に自分の希望を述べたのであり、米大使館側が田中に、「実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行」うよう命令したのではありません。これは当時の日本の支配層のひとりである田中の希望のことばなんですよ。
その背景には、当時の世界的な状況を重ねて考えてみると、日本で朝鮮戦争のような内戦をおこしてはならない、日本を(あるいは日本の一部を)社会主義の国にしてはいけない、60年安保改定が滞りなくおこなわれ、日本を安定させ、米国の影響下で民生を向上させる道が正しい、という信念をわたしは感じます。
そして実際に、1960年池田勇人内閣は所得倍増計画を閣議決定していますね。高度成長には公害問題などの大問題がありますが、それでも日本が豊かになったことを多くの国民が歓迎している。その根源には、田中長官のような政策選択があったということです。安保条約と高度成長とは不可分であり、その道を選んだというわけですね。その恩恵をたとえばあなたも受けている。中共で共産党である程度でものしあがるには、門閥か学力か最低どっちかはないと無理でしょ。「反米」するにしたって中共政府・中共共産党から結果が厳しく問われるでしょう。あなたが沖縄に遠足にいくようなことは、中共では無理だということです。
こういうことがわからないヒトビトを、わたしは「パックスアメリカーナのもとで、踊りまくったヒトビト」と呼ぶことがあります。
一方で、米国は「対価」として、日本国内での自由な活動だけでなく、自衛隊を海外で自由に用いるという圧力をかけてきたでしょう。しかし、この点は今までの自民党はギリギリ踏みとどまっている。自民党はよく努力したとおもっていますよ。
念のため書いておきますが、わたしは、米国を批難してはならないとか、ましてや感謝しろとか言ってるのではないですからね。