りゃん のコメント

学術会議法3条について、あるいは学術会議の独立性については、前回の投稿で説明したのですが、今回孫崎さんが投稿した、どこかからの引用文(以下、引用文と呼称)に即して説明を加えます。

この孫崎さんの引用文は、内閣の長としての内閣総理大臣の「独裁」にいかに制限を加えるかというような観点から書かれた文章ですが、まず、内閣総理大臣は、内閣府を所管する大臣であり、学術会議は内閣府管轄の組織であるので、任命権が(「内閣の長としての内閣総理大臣」ではなく)、「内閣府所管大臣としての内閣総理大臣」にあるのだということに注意しておく必要があるとおもいます。

仮に学術会議が文部科学省管轄の組織であるなら、学術会議法文の「内閣総理大臣」は「文部科学大臣」に言い換えられるわけで、そうだとわかれば、この問題への印象もかなり変わるのではないでしょうか。

さて、学術会議は国の機関であり、かつ、立法権にも司法権にも属しませんから、行政権の一部であることに間違いありません。そして、「行政権は、内閣に属する。」(日本国憲法65条)のであり、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」(同66条3項)というのが日本国憲法のたてつけです。

つまり、学術会議でいえば、「内閣府所管大臣としての内閣総理大臣」が管轄し任命権をもち、その結果については、行政権をもつ内閣が、国会に対して責任を負うことで、最終的に、国民代表機関である国会の民主的統制をうけるということになっているわけです。(学術会議に限らず、どの行政組織も原則同じ構造です)。

ただ、これではまずい場合があります。機構上は行政権の一部でありつつ、内閣からの独立性が高く求められる諸組織があります。独立行政委員会と総称されるもので、会計検査院、人事院、公正取引委員会等々ですね(会計検査院は憲法上に根拠があるので中では例外)。

独立行政委員会の独立性については、日本国憲法65条との関係で違憲論もあり、合憲論も各委員会の職務にグラデーションがある中、一つではなく複雑な様相を呈していますが、代表的な合憲論は、「内閣の統制を受けなくても国民代表機関である国会の民主的統制を受けるから合憲なのだ」というものです。つまり、日本国憲法は国民代表機関である国会が最終的に行政権を統制することを企図しており、65条、66条3項はそのための一つのたてつけであり、ほかのたてつけであっても、最終的に国会の民主的統制をうければよいのだという考え方です。

この考え方に立脚して引用文を再読するに、引用文には、学術会議がどのように統制されるかについて、なんの記載もありません。学術会議の完全独立を目論んでいるようです。しかも、独立行政委員会でもないのに、です。学術会議を独立行政委員会にするというのは、考え方としてはありえますが、その場合でも、人事が完全に独立するというのはむずかしいでしょう。ほかの例からして国会の同意が必要となり、国会の同意が必要なら、今回の問題は結論としては結局同じです。

明治以来の憲法の歴史上、ある行政組織の完全独立を提唱した考え方は戦前に一度ありました。軍部が主唱した「統帥権独立」ですね。いや、統帥権独立は、天皇にはコントロールされるという考え方ですが、引用文では学術会議はどこにもコントロールされないと言っているも同然であり、「統帥権独立」よりもさらに危険な考え方といえましょう。

引用文には、今回の問題において「内閣総理大臣が独裁、学術会議が民主的」という基調的認識があると感じますが、真実は、まったくその逆であったというわけです。

引用文を書いたのは法律家のようですから、本当はこんなことは百も承知なのです。しかし言わないでポジショントークする。そして、憲法の基本書などすぐに読めるのに、大学でも卒業後でもろくに勉強しなかった、かといって、健全な庶民的常識もとうとう身につけなかったヒトビトが、簡単にだまされるというわけです。

No.12 50ヶ月前

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