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マクガイヤーチャンネル 第17号 2015/6/1
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お楽しみ頂いているマクガイヤーチャンネル、次回の放送は6/4(木)20時~です。

「最近のマクガイヤー6月号」として、最近面白かった映画、漫画、出来事についてまったりと一人喋りで紹介する予定です。

具体的には、『チャッピー』 『百日紅』 『駆込み女と駆出し男』 『ムシヌユン』 「電撃ホビーマガジン休刊」……等々について語る予定です。お楽しみに!



さて、前回の続きになります。


○2006年『雷轟 rolling thunder PAX JAPONICA』

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「もし日本が太平洋戦争に勝利したら?」という架空小説は数多くあります。それらの大半は「日本が太平洋戦争に勝利していて欲しい」という夢を形にしたドリーム戦記小説です。

本書も同じような世界を舞台とし、同じように戦記小説のスタイルで書かれていますが、その理由は「太平洋に勝利し、覇権国家となった日本に、勝者として苦労して欲しい。現実の覇権国家であり勝者であるアメリカがそうであるように」という、かなり捻くれた欲望に基づくものです。その為に、架空の南北戦争について語る章を最初に置くという手間までかけています。

本書の眼目は第二章、これまでの小説と同じく、まるで押井守のように理屈っぽい爆撃機搭乗員を主人公とした章です。舞台はベトナム戦争で、「ローリングサンダー」とルビを振られた雷轟作戦を舞台に、薀蓄が語られまくられます。

しかも数十ページにわたって語りまくるその薀蓄は「近代戦争における勝利とか何か?」という問題だったりします。「戦争における勝利」とは「正義の正当性の証明である」という主張を経て、「これまで日本という国が自前の正義を掲げた戦争を経験したことは歴史上ただの一度も無かった」、「だから俺達はベトナムでこんなにも苦労しているんだ!」というベトナム戦争の本質に日本の立場から迫る、恐るべき薀蓄です。

そして、その薀蓄が現実の日本、決して覇権国家ではなく、勝利者としての責任も、敗者としての自覚も無い日本を照射します。

押井監督の力の入れ込み具合が分かる一冊です。


力を入れこみ過ぎたのか、本書に収められているのは上記した中短編二章のみ。それも三年有余かかったそうです。ハードカバーの単行本約1/3は企画書や企画経緯や軍事評論家 岡部いさくとの対談が収められており、なるべく早く世に出したいと書いてあった続編も、未だ発表されていません。



○2009年『ASSAULT GIRLS AVALON(f)』

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今をときめく黒木メイサやハリウッド女優である菊地凛子がオタク好みしそうな衣装に身を包み、背後にはカッチョ良いクリーチャーやらロボットやらがいる――映画『アサルトガールズ』のDVDジャケットに騙され、TSUTAYAでレンタルしてみると、菊地凛子が光の玉でお手玉したり、佐伯日菜子がスナイパーライフルを抱えてだらだらしたり、ガタイの良いおっさん(藤木義勝)が大島の裏砂漠で目玉焼きを食べているだけでガッカリしたという人が沢山いるのではないかと思います。しかも、クライマックスは黒木メイサと佐伯日菜子の口ゲンカです。

ですが、おそらく初期プロットに基づいて書かれたと思われる本書では、なぜ菊地凛子がお手玉するのか、なぜ佐伯日菜子がスナイパーライフルを抱えて物思いにふけり、最後にロボットに乗るのか、なぜ藤木義勝が食を楽しんでいるのか、そしてなぜクライマックスが口ゲンカでなくてはならないのか――等々がきっちりと理解できる物語になっています。

このまま映画化すれば観客の反応も随分と違ったものになったと思いますが、そうしなかったのは、おそらくアニメとは異なる実写映画の魅力――目の前にオタク好みする衣装に身を包んだ女優がいて、背後には幻想的な大島の裏砂漠の風景があり、それらを用いて実写映画でしかできないことをしようと苦心した結果なのではないかと思います。

言い換えれば、それは「地獄」でしかなかったのですが、それはともかくとして、本書は「地獄」どころか、いつものように薀蓄とクライマックスとオチがきちんと用意されているエンターテインメントになっています。

いつもはシンプルな物語しか作らない押井守ですが、本書はストーリーラインが複数あるのも特筆すべき点でしょう。