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マクガイヤーチャンネル 第16号 【補講:若人のための押井守小説ガイド その1】

2015/05/25 07:00 投稿

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  • Dr.マクガイヤー
  • 評論
  • 押井守
  • 小説

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マクガイヤーチャンネル 第16号 2015/5/25
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というわけで、『ニコ生マクガイヤーゼミ 「パトレイバーと押井守実写映画地獄」』はいかがだったでしょうか。

結局2時間半という長丁場になりましたが、話すつもりだったことは大体話せて、満足しております。

「え! まだ第一部だったんですか!?」

……というしまさんのツッコミには少々驚きましたが(笑)。


さて、今回のブロマガでは補講として、押井守の小説について少し紹介したいです。



自分は押井守や黒沢清といった映画監督が書く小説やエッセイが大好きです。映画監督が書く文章はたいてい、映像表現で可能なことと不可能なこと、文章表現で可能なことと不可能なこと、それぞれをきちんと理解した上で書かれています。彼らが作る映画と合わせて楽しむと、何倍も面白くなります。

人生の勝利条件を「死ぬまで映画を作り続けること」と設定し、本業を映画監督と自覚している押井守も例外ではありません。押井守は余技であるはずの小説業について「不労所得を得るために書いている」と嘯いているのですが、それなりに力を入れて書いていることは間違いありません。



○1994『TOKYO WAR - 機動警察パトレイバー』

おそらくそれほど映像の仕事が無い時期に書かれたであろう、押井守の処女小説です。

基本的に『機動警察パトレイバー 2 the Movie』のノベライズであり、映画で使われていた台詞がほぼそのまま出てきたりします。

映画では特徴的――というか、眠くなる人が続出した竹中直人演じる荒川と後藤隊長との長台詞による掛け合いでしたが、小説だとすんなり読めてしまうのが面白いところです。この映画における「神様」とは誰か、「不正義の平和」とは何か……そういったことが、(映画よりも)よく理解できてしまいます。

更に、ごく僅かながら追加されたシーンがあるのですが、どれもストーリーテリングがより納得できるものばかりで、押井監督は基本的にはロジックの人なのだということが理解できる一作です。


自分は中学、高校時代に『パトレイバー』という作品にリアルタイムで触れ、本作を読んだのは大学時代でした。

久しぶりに集まった(一代目)特車二課が鍋を囲みつつ、

「終わってしまったんですよ。

任務に明け暮れて、毎日がそれこそ精一杯で……

昨日を振り返る余裕もないくらい充実していて、まるで子供の夏休みみたいな。

僕らの夏は、もう終わったんですよ」

と口にする場面では、少しじんわりとしてしまったのを覚えています。


約10年後、『TOKYO WAR MOBILE POLICE PATLABOR』と題された改訂版が発売されました。

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現在はこちらの方が入手し易いでしょう。



○2000年『獣たちの夜 BLOOD THE LAST VAMPIRE』

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おさげの女子高生が日本刀で吸血鬼を薙ぎ払うアニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』のノベライズ……と思いきや、押井守のように理屈っぽい男子高校生を主人公にしたスピンオフです。しかも舞台はアニメと同じ学生運動華やかりし60年代日本、そして主人公の名前は「三輪零」です。押井守がタツノコプロの絵コンテバイトをしていた時のペンネームが「丸輪零」であることは有名ですよね。更に、まるで『パトレイバー』の後藤隊長のような「後藤田一」なる男まで登場します。

放送でも説明した通り、押井守の小説は大半が伏線となる薀蓄で占められており、最後のアクションでその伏線が解消されるというシンプルな構成をとっていますが、そのスタイルを確立した作品です。

本書で披露される薀蓄は「自然と人間」や「人間と動物」についての人類史観的考察です。そして、辿りつく結論はなんと「人間の堕落についての論理的根拠」! 女子高生が日本刀を振り回してモンスターをやっつけるアニメの関連小説とは思えませんが、最後にしっかり女子高生が日本刀を振り回し、それに対する情景まで付け加えるあたり、押井守はやはりプロです。



○2000年『Avalon 灰色の貴婦人』

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こちらもショートボブの美女スナイパーが電脳空間内で架空戦車や架空ヘリコプターをガンガン破壊する映画のノベライズ……と思いきや、こちらも押井守のように理屈っぽい独身男性「308」を主人公にしたスピンオフです。しかも、舞台は日本、それも未来の東京らしき都市です。

披露される薀蓄は、当然のように重火器やオンラインゲームに関するあれやこれやで、主人公のライフスタイルや食生活がオンラインゲームのヘビーユーザーのそれ、いわゆる「廃人」なのが面白いところです。

押井監督は『ウィザードリィ』『ドラゴンクエスト』の大ファンであり、自らのゲーム体験を基に『Avalon』を発想したことは有名です。同時に、オンラインゲームは「ゲームの中でアカの他人と出会ったり、旅に出たりしたくない」とプレイしないことを公言していますが、本当の理由は一度プレイしてしまうと「廃人」になるほどハマってしまうことを予想しているからかもしれません(笑)。

題名どおり、本作は途中で「灰色の貴婦人」すなわち映画『Avalon』の主人公が登場し、続編的な作品であることが判明しますが、構成としては『獣たちの夜 BLOOD THE LAST VAMPIRE』と同じなのが興味深いところです。押井守が本当に語りたいのはお話ではなく、世界観だったり薀蓄だったりするのでしょう。



○2004年『立喰師列伝』

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「出された喰いものに何のかんのと難癖をつけ、弁舌爽やかに主人を圧倒し、代金を払わずに去っていく立喰のプロ」それが架空の職業「立喰師」。彼らを通して虚実入り混じった戦後日本史を描くという、民俗学研究本の体裁をとった架空の――というか、大ウソ研究本です。厳密にいえば小説では無いが、フィクションということで入れてみました。

月見の銀二、ケツネコロッケのお銀、哭きの犬丸……彼らは皆、社会からはみ出した野良犬というか、孤軍奮闘する革命家のメタファーであり、劇場版『パトレイバー』の帆場暎一や柘植行人のコメディバージョンです。コメディだから笑えると同時に、アメリカ的外食チェーンに立ち向かう牛丼の牛五郎や、東京ディズニーランドで持込みのフランクフルトを食べることに執着するフランクフルトの辰の姿には、おもしろうてやがてかなしき革命というか、衒学と饒舌による笑いの後に訪れる一抹の悲しさを感じてしまいます。

しかも、石川光久や鈴木敏夫や樋口真嗣といった一癖も二癖もありそうな業界人たちが、その立喰師たちに扮した写真が表紙や挿絵として挿入されているのが面白いところです。「男塾」の民明書房ばりの創作本の引用も笑いどころですね。


本作をほぼそのままの形で映画化したのが映画版『立喰師列伝』になります。

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次回に続く。


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