おはようございますマクガイヤーです。
前回の放送「最近のマクガイヤー 2017年8月号」は如何だったでしょうか?
虹野ういろうさんも出演して下さり、後半はまたもやおっさんのイチャイチャ話になってしまいましたが、夏休みの大作映画のほとんどを話題にすることができ、満足しております。
マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。
○9月2日(土)20時~
「諸星大二郎作品大バトル 怪奇と幻想とお笑いの魅力」
手塚治虫に「きみの絵だけは描けない」と言われ、宮崎駿に「大好きです」とリスペクトされ、エヴァやハルヒやもののけ姫や諸星あたるの元ネタにもなった唯一無二の漫画家、諸星大二郎。
民俗学や考古学からクトゥルフ神話までを自在に扱いこなし、怪奇・SF・ファンタジー漫画の名作を何作も描いてきた諸星大二郎の魅力を、2時間たっぷりと語りつくします!
アシスタントとして、久しぶりに編集者のしまさんが参加してくれます。
みんなぱらいそさいくだ!
○9月23日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年9月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定
○10月7日(土)20時~
「がんと免疫療法とがんサバイバー」
現在、日本人の死因第一位は悪性新生物――すなわちがんです。
がんの治療法としては、これまで手術、放射線療法、化学療法が3本柱とされてきました。
近年、新たな柱として注目されているのががん免疫療法です。免疫療法といえば、怪しい治療法がまかり通っていましたが、免疫チェックポイント阻害剤の劇的な効果がイメージを一身しました。
そこで、がんと免疫療法の歴史とメカニズムについて2時間じっくり解説する放送を行ないます。
渡辺謙、宮迫博之といったがんサバイバーはなぜ不倫するのか問題にも触れたいところです。
○10月28日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年10月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定
さて、今回のブロマガですが、前回の放送でも少し話題にしたアニメ版『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』について書かせて下さい。SNSではものすごく評判が悪いのですが、そんなに悪い映画じゃないと思うのですよ。
●オリジナル版について
本作は93年に放映された岩井俊二監督のテレビドラマのアニメ版リメイク作です。
レギュラー放送版の『世にも奇妙な物語』の後番組として『if もしも』というオムニバスドラマシリーズがありまして、その一編として放送されたものです。
話の途中で分岐が発生し、そこから枝分かれした2種類の物語を描くという一話完結ドラマの連作でした。「もしもあの時ああしていたら……」という意味での『if もしも』というタイトルなわけですね。かなり特殊なドラマでしたが、『世にも奇妙な物語』と同じくタモリがストーリーテラーという形で番組冒頭と終わりに出演し、スピンオフのような趣きもありましたので、わりあい自然に受け止めていた印象があります。
岩井俊二はこの作品でテレビドラマにも関わらず日本映画監督協会新人賞を受賞し、A級映画監督に成り上がりました。その後劇場公開され、現在もHuluや愛蔵版ブルーレイでみることができます。『if もしも』で放映された他のエピソードは劇場公開もソフト化もアニメ化もされていないことを鑑みると、いかにこの作品が皆から愛されているかがわかろうというものです。
自分は当時から岩井俊二作品があまりピンときていないのですが、ヒロインなずなを演じた奥菜恵が14歳にも関わらず異様な色気を発していたこと、その後奥菜恵がIT会社社長のトロフィーワイフとなったこと(すぐ離婚しましたが)を強烈に覚えていて、世の中の無情を感じておりました。おれもIT会社社長になって子役出身美人女優を嫁にしてえなあ。
原典の公開から約四半世紀経つ現在、本作を長編アニメ化する理由は分かりすぎるほど良く分かります。
・『if もしも』の構造が90年代エロゲー文化圏から続くタイムリープ・パラレルワールドアニメに合致すること
・思春期の男女を主人公としたセカイ系だけど一般向けアニメ映画がここ数年大ヒットしていること
・『君の名は。』の川村元気がプロデュースし、『化物語』のシャフトが製作し、『まどマギ』の新房昭之が(総)監督を務め、『モテキ』や『バクマン。』や『SCOOP!』の大根仁が脚本を書くこと。
もし自分がテレビ局や広告代理店の社員だったら、企画書にこの座組みをみただけでカネ出しますね。
ここまで読んだ皆さんなら、何故「もしも玉」というガジェットが本作に登場するのかなんとなく分かったのではないかと思います。そうです。「もしも玉」はフジテレビのプロデューサーが素材を作り、90年代エロゲー文化圏的により「玉」として練成され、セカイを変えるためにあの海に置かれたわけです。
●不評で溢れるSNS
アニメ版『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』は先々週の金曜日(8/18)に公開されたわけですが、SNSを覗くと、まあ評判が悪いわけです。
曰く、男も女もキャラクターの考えが一貫しておらず、どうしてこんな行動をとるのか意味がわからない。
曰く、タイムリープがなぜ起こるのか説明不足だし、誰が作ったのか何故そこにあるのか分からない「もしも玉」が唐突すぎる。
曰く、ラストが劇場が静まり返るほど意味不明で、カネを返せと言いたくなる。
……というような感想で溢れかえっているわけですよ。
ただ、本作は、映画の文脈(と90年代エロゲー文化源流アニメ)としてはわりとありふれた手法をとっているのですが、これが現在、本作を観るためにシネコンにかけつけた中高生には通用しないので、このような事態になっているのではないかと思います。
●説明台詞をなるべく使わず、観客に想像を促すのが「良い映画」
まずですね、最近のシネコンで映画を観る中高生には信じられないかもしれませんが、登場人物の感情や考えを直接的な台詞で説明しないのが「映画」であるわけです。
映画が他のメディアと一番異なる点は、映像で物語を説明することが重視される点にあります。悪人が「おれ、悪人なんだよね」なんて言ったり、「なんだかイライラする」とか、「今この瞬間おまえに惚れた」とかいったことを台詞で言ったら、その映画は終わりなわけです。
代わりに、悪人は悪いことをするシーンをみせたり示唆することで、イライラはタバコを吸ったりすることで、恋愛が発生する瞬間は表情やカット割りで描くことで、観客に想像を促すのが「いい映画」であるとされます。
しかし近年、この風潮が変わろうとしています。年に一、二本しか映画を観ない観客が増えた結果、台詞ですべてを説明しようとする映画が増えました。
特徴的なのは、夏のアニメ大作映画です。『バケモノの子』をプロデュースするにあたり、川村元気は細田守に、台詞だけで物語のすべてが理解できるように脚本を書くことを指示したのは有名な話です。つまり、いちいちシーンの内容を説明する、男塾でいう富樫や虎丸みたいなキャラがいるわけです。『君の名は。』も同じような脚本になっています。
しかし本作は、さすが実写映画で活躍する大根仁が脚本を書いただけあって、『バケモノの子』や『君の名は。』とは違います。
まず、本作の主人公である典道も、その友人たちも中学一年生という設定なのですが、女子に興味はあるけれど、男の友人たちとのホモソーシャル関係を破ってまで本気の恋愛関係を紡ごうとはしない微妙な心情を、台詞なしで凄く上手く描写しています。
映画の冒頭、典道が自転車で中学に登校しようとしたら、後ろから自転車やスケボーで同じ制服を来た同じような男子たちが無言で取り囲むのですが、ここでアイコンタクトだけで通じる間柄であること、一緒に中学生活を送る(疾走する)仲間であることを描いています。で、通学途中に典道だけが海で物思いにふけっているなずなに目をやるのは、このホモソーシャル関係から一歩抜け出ることを予感させるのですが、自転車の荷台を握られて引き戻されるのも上手いです。
●なぜ祐介はうんこに行きたがるのか
典道は一番の親友である祐介と、「なずなに告白しようと考えている」のだけれど「嘘だ」と否定する会話を繰り返しています。これは、なずなに告白して恋愛関係になるとホモソーシャル関係が壊れることを自覚しているからです。
告白して、彼女ができたら、嫉妬されるでしょう。それどころか、拒否される可能性の方が高いです。典道となずなの身長差で示唆されるように、この年代は男子よりも女子の方が数倍精神年齢が高いのですから。告白して拒否されたら、自身の小さな小さな精神が傷つくどころか、プライドもホモソーシャル社会での立ち位置も喪われてしまうことを、彼らは自覚しています。
一言でまとめてしまえば、彼らは童貞で、童貞のプライドがあるから、このようなことを繰り返しているわけですね。
このような関係性は彼らが成長するまで、勇気を出して女性と向き合って恋愛関係になっても、男の友人間での関係性が壊れなくなるほど「オトナ」になるまで続くのでしょう。それは来年か再来年かもしれないし、十年二十年経っても同じかもしれません。三十で童貞なら魔法が使えますし、四十で童貞だと日本を滅ぼせるそうです。
ちなみに童貞にとって「エロい先生」はAV女優やグラビアアイドルと同じ扱いです。エロいいたずらをして怒られても、仲間から賞賛されることはあれ、傷つくことはありません。
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マクガイヤーチャンネル 第133号 【科学で映画を楽しむ法 第5回「『大長編ドラえもん』と科学 藤子・F・不二雄とSF その3 『のび太の宇宙小戦争』」】
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【再掲】マクガイヤーチャンネル 第135号 【諸星大二郎と異形のモノのエロス】