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マクガイヤーチャンネル 第133号 2017/8/23
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おはようございます。マクガイヤーです。

この前『ベイビー・ドライバー』を観たのですが、あまりの面白さにびっくりしました。2017年度のオレ映画ベスト暫定一位です。


それにしても、今年は『ローガン』といい『ホームカミング』といい、ジャンルを飛び出そうとする気合の入った映画が多いですね。



マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


8月26日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年8月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

・最近のポケモンGOとポケモンGOパーク

『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

『トランスフォーマー/最後の騎士王』

『スパイダーマン:ホームカミング』

『ベイビー・ドライバー』

『新感染』

『そしてボクは外道マンになる』

『寿司 虚空編』

その他、気になった映画や漫画や時事ネタなどについてお話しする予定です。



○9月2日(土)20時~

「諸星大二郎、その魅力(仮)」

手塚治虫に「きみの絵だけは描けない」と言われ、宮崎駿に「大好きです」とリスペクトされ、エヴァやハルヒやもののけ姫や諸星あたるの元ネタにもなった唯一無二の漫画家、諸星大二郎。

民俗学や考古学からクトゥルフ神話までを自在に扱いこなし、怪奇・SF・ファンタジー漫画の名作を何作も描いてきた諸星大二郎の魅力を、2時間たっぷりと語りつくします! 

アシスタントとして、久しぶりに編集者のしまさんが参加してくれます。


みんなぱらいそさいくだ!



○9月23日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年9月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定



○10月前半(詳細日時未定)

「がんと免疫療法とがんサバイバー」

現在、日本人の死因第一位は悪性新生物――すなわちがんです。

がんの治療法としては、これまで手術、放射線療法、化学療法が3本柱とされてきました。

近年、新たな柱として注目されているのががん免疫療法です。免疫療法といえば、怪しい治療法がまかり通っていましたが、免疫チェックポイント阻害剤の劇的な効果がイメージを一身しました。

そこで、がんと免疫療法の歴史とメカニズムについて2時間じっくり解説する放送を行ないます。

渡辺謙、宮迫博之といったがんサバイバーはなぜ不倫するのか問題にも触れたいところです。




さて、今回のブロマガですが、科学で映画を楽しむ法 第5回として書いている「『大長編ドラえもん』と科学」その3……というか、『のび太の宇宙小戦争』の解説になります。

この時期の『大長編ドラえもん』は初期にも増して傑作ぞろいなので、語り甲斐がありますね!

(基本的に、藤子・F・不二雄が100%コントロールしてると思しき原作漫画版についての解説になります)。




●『のび太の宇宙小戦争』:『ガリヴァー旅行記』

「宇宙小戦争」と書いて「リトルスターウォーズ」と読ませる本作のタイトルは、『宇宙大戦争』『スター・ウォーズ』からとられています。

しかし、本作の内容はまったく『宇宙大戦争』に似ていませんし、『スター・ウォーズ』のパロディやオマージュもわずかです(どちらかといえば本作の基になった短編『天井裏の宇宙戦争』の方が『スター・ウォーズ』ネタは多いです)。


本作の下敷きとなったものは二つあります。

一つは『ガリヴァー旅行記』です。

『ガリヴァー旅行記』は四篇から成るのですが、その第一篇リリパット国渡航記――いわゆる「小人の国」への旅行記です。

映画化作品や児童向けにリライトされたものの印象が強いせいか、『ガリヴァー旅行記』といえば児童向け文学というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際は泣く子も黙る風刺小説です。著者のジョナサン・スウィフトはアイルランドの風刺作家なのですが、当時のアイルランドは最も近い植民地としてイギリスから徹底的に搾取される土地でした。

だから『ガリヴァー旅行記』には、「架空の国への旅行記」という一見それとは分からない形(当時の読者にとっては露骨なのですが)で、上梓された18世紀当時のイギリス帝国主義や階級社会に対する風刺を通り越した批判や皮肉が満載されているのです。出版当時は、あまりに過激な部分が削除改竄されたりしました。現代では、出版当時の政治状況を超えて、国家観や道徳観に関わる諸問題を痛烈に風刺した文学作品と評価されています。


この「一見それとは分からない形で込められている痛烈な風刺」というのが、藤子・F・不二雄にとってのSF(スコシフシギ)的風刺に通じるのでしょう。続く『アニマル惑星』でも『ねじ巻き都市冒険記』でも『ガリヴァー旅行記』のオマージュを入れています。


●藤子・F・不二雄のオマージュの上手さ:『超兵器ガ壱号』

最もあからさま、というか優れたオマージュとなっているのがSF短編の一つである『超兵器ガ壱号』です。

ガリヴァーが訪れるリリパット国は隣国のブレフスキュ国と長年の間戦争状態にあるのですが、これはイギリスが隣国フランスと長年争ってきたことを風刺しています。戦争の原因は「卵の殻の正しいむき方」という些細な違いなのですが、イングランド国教会とカトリック教徒の間の争いの隠喩でもあります。卵は復活祭のシンボルなのですが、「宗教的な対立なんて原因は些細な違いにすぎない」と風刺しているわけです。ガリヴァーは一宿一飯の義理からリリパット国を防衛し、ブレフスキュ国の艦隊を拿捕したりするのですが、リリパット国皇帝から依頼されたブレフスキュの国民殺戮は拒絶します。宮殿の火事をおしっこで消したという不敬行為も重なって、リリパット国皇帝はガリヴァーに餓死か毒殺の刑罰に科そうと企てますが、ガリヴァーは英国に帰国する……というのがだいたいのお話です。リリパット国皇帝は当時のイギリス王室やイギリス内閣、初代首相とみなされるウォルポールが属していたホイッグ党(旧自由党)への皮肉や風刺がたっぷりなわけですね。


一方、『超兵器ガ壱号』にて「ガリバ」を自称する宇宙人が訪れるのは、なんと太平洋戦争末期の日本です。

『超兵器ガ壱号』の語り手となるのは、大学で言語学を専攻していた海堂少尉です。海堂少尉はガリバの使う言語を解読し、コミュニケーションをとることに成功します。ガリバは大東亜共栄圏の理想に共感し、日本兵にして超兵器ガ一号として戦争に参加します。異星の先進技術で作られた宇宙服に光線銃、なによりも米軍を圧倒する巨体により大活躍。米軍の沖縄上陸を阻止し、広島・長崎へ飛来したB29を撃墜し、搭載されていた「新型爆弾」をサンフランシスコとロサンゼルスに投げ返します。

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きちんと描かれるキノコ雲がたまりません。

ガ一号の活躍により、日本は太平洋戦争に逆転勝利します。ガ一号は大将へ昇進し、「帝国最大の軍人」と讃えられます。感激したガ一号は日本へ帰化しようとしますが、ここで風向きが変わります。戦時中は超兵器であったガ一号ですが、平時では強すぎる力を持った個人となるのです。万が一にも裏切ることがあったらどうする? 軍本部はガ一号を毒殺しようと計画します。実行役に命じられたのはガ一号と最も親しい海堂でした。


ここまで、小人国への渡航→戦争での活躍→毒殺と、原典である『ガリヴァー旅行記』を綺麗に踏襲しています。

おそろしいのは、ここからです。


土壇場で毒殺を思いとどまった海堂は、日本と陸軍の不義理と無礼をガ一号に詫びます。そして、どうか母星に帰って欲しいと懇願します。

ですが、ガ一号は不名誉な追放よりも名誉ある死を選ぶというのです。

「武士ノ死ニザマヲ見トドケテクダサイ」

ガ一号は心の中まですっかり帝国軍人となってしまったかのようでした。

……ですが、ガ一号がいままさに青酸カリを飲もうとするその時、ガ一号を探す母星から宇宙船が飛来し、驚愕のオチがつくのでした!


どういうオチかは実際に読んで貰った方が良いでしょう。

藤子・F・不二雄が短編の名手であると唸ってしまうと共に、オマージュ作品で原典を越えるシニカルさを発揮する名短編です。

朝日新聞的リベラルさや、生臭い政治・思想的な主張を垂れ流すのではなく、作中に寓意や風刺として巧妙に隠し、シニカルさと普遍性を発揮するのが50~60年代のSFで育った藤子・F・不二雄のやり方なわけです(後の『大長編』にて環境保護を題材にした場合を除く)。


ちょっと前に新作アニメとしてリメイクされたドラえもんの一編『ぞうとおじさん』がSNS上で話題になりましたが。

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「戦争なら大丈夫、もうすぐ終わるから」「日本が負けるの!」

……と笑顔で話すのび太とドラえもんに「印象操作か?」と不快感を表していたネトウヨの人は、『超兵器ガ壱号』を読んだらどんなふうに思うのか、大いに気になるところです。



●『のび太の宇宙小戦争』:チリ・クーデター

もう一つ『宇宙小戦争』が下敷きにしているのは1973年にチリの首都サンティアゴ・デ・チレで発生したクーデター、いわゆるチリ・クーデターです。

60年代にはトルコでもインドネシアでも軍事クーデターが起こっていましたが、自由選挙によって合法的に選出されたアジェンデ大統領による(社会主義)政権を、ピノチェト将軍率いる軍部が軍事クーデターにより覆し、軍人出身の政治家がそのまま独裁体制を敷いた事件として有名です。

国民主権の立場からすれば、クーデターによって追い落とされたアジェンデ大統領が「正義」、ピノチェト将軍が「悪」となります。アジェンデが進めた社会主義的な経済改革がインフレと物不足を引き起こしたこともあり、そう単純なものではありませんが、当時は冷戦真っ最中であり、ピノチェトは社会主義勢力の影響力拡大を懸念したアメリカ政府の支援を受けていたこと、ベトナム戦争に対する反戦運動が世界的に盛り上がっていたこと、国民の意思を無視した「悪」と「正義」の図式が分かりやすかったことなどから、様々な映画や小説の題材になりました。


軍事クーデターが起こっても、アジェンデ大統領は辞任や大統領官邸であるモネダ宮殿からの退去を拒否し、チリ空軍による爆撃の中、自ら自動小銃を握って反乱軍と交戦したといわれています(その後、アジェンデはキューバのカストロ首相から送られた自動小銃で自殺したことが判明しています)。


『宇宙小戦争』の冒頭で描かれる、ピリカ星にて民主選挙で選ばれたパピ大統領が軍事クーデターで政権を転覆されること、大統領府に籠城して最後の抵抗を試みようとすること、クーデター後に軍人出身の政治家が独裁政治体制を敷くことなどは、チリ・クーデターとその後のチリをモデルにしています。

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また、敵役であるPCIA(ピリアCIA)はナチス新衛隊や黒シャツ隊のようなドキドキするコスチュームなのですが、ピリカ星人はオバQみたいな簡略化された手足で描かれているのが漫画の持つ寓意性や風刺性をいや増していて良いですね。絶対に実写では再現できない、漫画ならではの味わいです。



●『のび太の宇宙小戦争』:最強の敵ドラコルル

ロケットで宇宙に逃亡した少年大統領パピは、漂流の末地球に辿り着き、のび太たちと知り合います(ここら辺は数少ない『スター・ウォーズ』オマージュですね)。

これを追って地球にやってくるのが、『大長編ドラえもん』における最弱にして最強の敵ドラコルル長官です。

リリパット国民をモデルにしたピリカ星人の身長は約10センチメートル、肉体的には最弱です。ドラコルル長官が乗るクジラ型宇宙戦闘艦も、熱線こそ出すものの、子供であるジャイアン一人に壊されてしまうほど脆弱です。恒星間旅行もできるピリカ星のテクノロジーは現在の地球より進んでいますが、ドラえもんが使う22世紀の未来のテクノロジーほどではありません。スモールライトやどこでもドアは、ピリカ星人にとって未知の領域であり、技術的にはドラえもんに負けているのです。


ですが、ドラコルル長官はドラえもんたちを徹底的に追い詰めます。

ドラコルル長官の強さは下記二つに集約されるでしょう。

・PCIA長官として部下の進言や技術的説明を信用し、手足のように使いこなす統率力

・科学的エビデンスから推論を行い、ドラえもんの未来テクノロジーを解き明かす知力

・相手のうっかりミスや子供っぽい素人考えを見逃さない大人の知力と忍耐力



●『のび太の宇宙小戦争』:ドローン戦争

具体例を挙げていきましょう。

ジャイアンに戦闘艦を壊されそうになったドラコルル長官は地球人を甘く見ていたことを反省し、無数の探査球(調査用ドローン)を駆使します。のび太たちはドローンを警戒して家に入れないよう注意しますが、ジャイアンのポケットにドローンを忍び込ませるという部下の機転でとうとうパピをみつけだします。この描写、公開された1984年当時は完全にSFの描写でしたが、『アイ・イン・ザ・スカイ』などで描かれたドローン戦争が現実のものとなった今、うすら寒くなる描写です。

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この時、ドラコルルは「ジャイアンのポケットにドローンを忍び込ませる」戦法を発想・実行した部下の昇進を約束しています。この後、ドラコルルはパピに「きみが一度でも約束を守ったことがあるか?」などと言われているのですが、部下との約束は守っているのでしょう。そうでなければ、部下がこのように能動的に動くはずはありません。


入れ違いでパピを捕まえることはできませんでしたが、代わりにしずかちゃんを捕らえたドラコルル。未知のテクノロジーであるスモールライトの機能まで看破し、持ち去ります。元の大きさに戻れなくなったドラえもんたちは大ピンチに陥ります。ドローンで得た情報こそ最大の武器というわけです。


パピとの交渉では、しずかちゃんを解放せずにパピを捕まえる計画でしたが、部下の「しげみが多くて……こりゃあ かんたんにはみつかりませんよ」という言葉を信用し、即座に捕虜交換に切り替えます。

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このシーン、ドラコルルと部下との信頼関係が異常です。安いアニメや特撮だと、失敗した部下を粛清したり、殺したりするシーンがあるものですが、本当にそんなことをしていては組織維持なんてできないのですね。おそらくドラコルルはPCIA内で有能な部下を取り立てつつ、駄目な部下も排斥することなくそれなりに処遇しているのでしょう。



●『のび太の宇宙小戦争』:小型発信機のデータ解析

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無人戦闘艇には爆薬のほかに無数の小型発信機が仕込んであり、そのおかげで反乱軍である自由同盟の秘密基地を発見することができた――という描写は、コストを考えると割りに合わない作戦のようにみえます。無数の小型発信機から生み出される無数のデータを解析するには、無数のマンパワーが必要であり、無数のコストがかかるからです……と、84年当時は思われていました。

しかし、現在はディープラーニング技術があります。ディープラーニングで開発したAIを用いれば、この無数のデータ――ビッグデータを低コストで解析することが可能です。おそらくドラコルル長官はPCIA技術部に諜報用のAIを開発させ、特定の単語を含む会話や通信を低コストで拾い上げているのです。

これは完全に後付けであり、藤子・F・不二雄がAIの進化を予測してこのようなシーンを描いたわけではありません。

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どちらかというと本作は、『1984』で描かれた肖像画の目に監視カメラが仕込まれているような、テクノロジーと独裁体制が合わさった徹底的な管理社会をモデルとしています。

そして、ビッグデータとディープラーニングは『1984』的ビッグブラザーを低コストで実現できる組み合わせなのです。またうすら寒くなってしまいます。



●『のび太の宇宙小戦争』:科学的エビデンスとうっかりミス

ドラえもんたちは小惑星帯からピリカ星に潜入するにあたり、流星を偽装してPCIAのレーダーを偽装することを思いつきます。

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ところがドラコルル長官は「地震計が流星(が地表に激突する際のデータ)を記録していない」という科学的エビデンスから、ドラえもんたちの偽装を即座に見破るのです。