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マクガイヤーチャンネル 第109号 2017/3/6
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おはようございます。毎日ヨーグルトと納豆とキムチを摂取するようにしたら、花粉症が落ち着いてきたマクガイヤーです。

それでも外に出るとくしゃみがでますが、なんとかなるものですね。




マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


○3月11日(土)20時~

「今だから観返したい『キング・コング(2005)』と『闇の奥』とポストコロニアリズム」

3月25日より期待の新作怪獣映画『キングコング:髑髏島の巨神』が公開されます。

キングコングといえば、これまで何度も映画化されてきた、ゴジラと並ぶ怪獣王です。特に2005年に公開されたピーター・ジャクソン監督版『キング・コング(2005)』は名作でした。

さて、『キングコング:髑髏島の巨神』は『地獄の黙示録』を彷彿とさせる映画になるという噂ですが、そういえばピージャク版『キング・コング(2005)』は『地獄の黙示録』の原作である『闇の奥』にオマージュを捧げた映画になっていました。

そこで、過去のキングコング映画を振り返りつつ、主にピージャク版『キング・コング(2005)』について解説し、『キングコング:髑髏島の巨神』に備える……という放送を致します。

是非とも、『キング・コング(2005)』をご覧の上ご視聴下さい。



なんとゲストとして、『ケンガンアシュラ』を連載中のだろめおん先生がいらっしゃいます!



○3月25日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年3月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定



○4月1日(土)20時~

「実録SFヤクザ映画としての『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』」

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』が4/2に最終回を迎えます。

この『オルフェンズ』、当初は『機動戦士ガンダム』の元ネタの一つだった『十五少年漂流記(あるいは『蝿の王』)』のアップデート版かと思われていましたが、どんどん東映実録ヤクザ映画のような趣となっていきました。ヤクザ映画もガンダムも大好きな自分としては見逃せない、そしてだからこそ一言も二言も言いたいガンダムになっております。『ガンダムAGE』とはえらい違いです!

そこで、実録SFヤクザ映画としての『オルフェンズ』について2時間みっちりお話するという放送を致します。是非ともAmazonプライムなどで最終回直前まで視聴した上でお楽しみください。



○4月後半(日時未定)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年4月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定



お楽しみに!



さて、今回のブロマガですが、科学で映画を楽しむ法 第3回「『静かなる決闘』と梅毒」の続きになります。



●黒澤映画と女

黒澤明といえば、「女を描くのが不得意」などと言われた時期がありました。黒澤の過去作を観るのが難しかった時代です。

しかし、『我が青春に悔いなし』の原節子や、『素晴らしき日曜日』の中北千枝子などをみると、そんなことは全くないというのが分かります。この原節子も中北千枝子も、ヒロインとして魅力たっぷりです(中北千枝子は原節子ほど美人じゃないのに!)。黒澤の女優に対する恋というか、「萌え」を感じます。

黒澤明が女性を描かないようになった理由はおそらく、三船敏郎に出会ったからです。『酔いどれ天使』『野良犬』『用心棒』『七人の侍』も、闇市を野良犬のように彷徨したり包丁を投げナイフのように投げたり半ケツで刀を振るったりする三船敏郎無しでは成立しませんし、志村喬演じる年長者に自分を仮託しつつ、三船に対する恋ごころのようなもの――「萌え」をどの作品にも感じてしまいます。

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『七人の侍』における三船のぷりぷりのケツは、『萌え』が無ければ撮れません。三船がいるからこそ、女性を描く必要がなかったのです。


しかし、本作『静かなる決闘』だけは違います。「静かなる」の名の通り、三船は葛藤を内心に秘める抑えた演技に務めている(クライマックスを除いて)のに対し、千石規子演じる峯岸るいが、三船を食うほどの演技をみせるのです。



●現代人としての峯岸るい

この後、舞台は1946年、戦後直後です。

病院を訪れた警察官との短い会話で、峰岸るいが住み込みの見習い看護婦であること、その前はダンサーをしており(実際、千石はレビューもやれば芝居もやるムーランルージュ新宿座の出身でした)、悪い男に孕まされた挙句に逃げられ、世を儚んでいることが分かります。自殺を止めた警官に、自分のことを本気で心配するのなら、子供を堕ろしてくれるよう先生に頼んでくれとまでいうのです。

恭二の許婚である三條美紀演じる松本美佐緒の慎ましさや、次作『野良犬』におけるダンスホールの描写などをみると分かるのですが、当時キャバレーやナイトクラブでレビューやラインダンスを踊る「ダンサー」という職業は、性を売り物にするはしたない職業とみられていました。おまけに、結婚してないのに妊娠までしちまった、こりゃどう考えても人生詰んだ――そう考えているわけです。

しかし、やけにカン高い声でぐちぐちと自分の窮状を陰気に愚痴る峰岸(当時もこの後も千石規子のパブリックイメージです)をみていると、人生に絶望した結果、この先また自殺しそうにはみえません。むしろ、お世話になっている先生――恭二とその父親が、お金の無い病人に対して医療奉仕活動を続けている姿を「偽善的」と批判し、そのことでやっと自分の現状に折り合いをつけているようにみえます。自分よりも社会的な地位が高く、「意識が高い」人間をクサしたり侮蔑したりすることで、自分自身と向き合うことから逃げ、現実となんとか折り合いをつけ、だらだらと生き延びる――現在、TwitterやFacebookを覗けば、そのような人間に出会うことは容易いです。本作は70年前の映画であるにも関わらず、峰岸るいを主人公と対照的なもう一人の主役として描くことで、極めて現代的なテーマを扱っているのです。



●「パンパンになるくらいだったら、誰がこんな苦労するもんか!」

峰岸は正看護婦の今井に、サルバルサンが一箱紛失しており、見覚えがないかと尋ねられます。

サルバルサンが梅毒の薬であることを知り、激怒する峰岸。


「人を馬鹿にすると承知しないよ!

パンパンになるくらいだったら、誰がこんな苦労するもんか!」


パンパンというのは、占領下の日本で連合国軍将兵を相手にする売春婦のことですね。

当然、看護婦長は峰岸がサルバルサンを盗んで使っていると疑った結果問いかけたわけではありません。完全に峰岸の過剰反応です。自分の現状を肯定できない、さりとて自らの身体を売るほど思いきれもしない、峰岸の葛藤が表れています。


そしてある晩、峰岸は恭二が自分の腕に注射を打っている姿を目撃します。

「ビーシーの注射ね。あたしもホールにいたころ、疲れた時は打ってもらったわ」

ニヤニヤしながら注射のアンプルを確認しようとする峰岸。

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ビーシー注射というのはL-アスコルビン酸すなわちビタミンC注射のことなのですが、峰岸の頭にあるのはビタミンなどではありません。


「サル・バル・サン。フフフフフ」


ニヤニヤしながら満足そうな顔で立ち去る峰岸。それを、何かを我慢したような顔で見送る恭二。峰岸の中で、普段偉そうなことを言っている恭二が、自分と同じレベルに堕ちていることを確信した瞬間です。こういう人、SNSにいっぱいいますね。



●静かなる決闘

ところが峰岸は、恭二の梅毒感染が、戦場で慰安婦とセックスしたからなどではなく、人を助けようとした故の医療事故の結果だと知り、考えを改めます。

このシーン、サルバルサンの件に気が付いた父に恭二が呼び出され、さぞや面白おかしい修羅場になるだろうと盗み聞きした結果、梅毒感染の経緯を知り、そして梅毒ゆえに恭二が許嫁だった美佐緒との結婚を諦めていることを知り、ついでにお互いに煙草の火をつけ合うほど仲がいい親子関係(映画の中でも外でも、三船と志村喬は15歳しか離れていないにも関わらず疑似的な親子関係のような間柄でした)を目の当たりにするという、手際の良さです。


翌日から、峰岸は人が変わったように真面目に働きだします。試験を受けて見習いから正式な看護婦になることを目指し、子供を産む決意も固めたようです。


ここまでで映画のおよそ半分、95分の映画ですので45分とちょっとです。テンポの良さが光ります。