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マクガイヤーチャンネル 第74号 【『ヒメアノ~ル』と「バケモン」としての佐津川愛美】

2016/07/04 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第74号 2016/7/4
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おはようございます。マクガイヤーです。

先日の放送「最近のマクガイヤー 2016年6月号」は如何だったでしょうか?

盛りだくさんな内容でしたが、一通りお話できて満足しております。

どこかで「ワクチン」と「黒沢清映画」特集はやりたいところです。



マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


○7/5(火)20時~

「ピクサー続編映画の光と闇」

7/16よりピクサー期待の新作映画『ファインディング・ドリー』が公開されます。

本作は『ファインディング・ニモ』の13年ぶりの続編です。

ピクサーが作る映画とその続編には、傑作もあれば、駄作もありました。

そこで、ピクサー過去のシリーズ作品を振り返りつつ、「ピクサーの続編とはなにか?」について考えたいと思います。


○7/26(火)20時~

「最近のマクガイヤー 2016年7月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定。



番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。

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……等々、絶賛発売中!




さて、今回のブロマガですが、ニコ生で話し損ねた『ヒメアノ~ル』について、『貞子vs伽椰子』にも出演している佐津川愛美の魅力含めて書かせて下さい。


ここ数ヶ月というもの、面白い邦画が続けて公開されています。

『ディストラクション・ベイビーズ』『FAKE』、『貞子vs伽椰子』、『日本で一番悪い奴ら』『クリーピー 偽りの隣人』……と、暴力や犯罪やホラーをテーマとしつつ、これまでにない手法で表現した映画ばかりです。多くは有名な小説や手記を原作としていたり、有名シリーズの続編だったりしますが、安易な作品ではありません。


しかも、その多くは都内の限られた映画館ではなく、ショッピングモールに併設されたシネコンで、全国的に公開されています。イケメンとアイドル女優がチュッチュしてるような映画に混じって公開されているわけです。

出演・主演している俳優たちも、柳楽優弥、菅田将暉、山本美月、綾野剛、西島秀俊……といった若手のスターたちばかりです。

今年は邦画の当たり年といって良いのではないでしょうか。数年前の、テレビドラマのスペシャル版みたいな映画ばかり公開されていた頃と比べれば、ウソみたいな状況です。


そんな中、『ヒメアノ~ル』も公開されたわけですが、先に挙げた映画に負けず劣らず面白かったわけです。


『ヒメアノ~ル』は古谷実の漫画を原作としています。

古谷実といえば、オリジナルな面白さを追い求めるヤンマガ出身漫画家の中でも、頂点を極めた一人といっていいでしょう。

デビュー作である『行け!稲中卓球部』が発表されたのは、自分が高校生から大学生の頃でした。友達という友達が全員読んでおり、女友達の家にもこの漫画だけはあったことに驚いたものでした。

今のアラフォーの感性を決定づけた漫画の一つといっても過言ではないでしょう。



『稲中』の斬新さについては様々な人が様々なことを言っていますが、自分の見立てとしては、「絵」は当然として、「ギャグ」と「台詞」まわしに尽きると思うのですよ。

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よく「小中学生レベルの下ネタ」と言われますが、本当の小中学生は実際にこんな↑ことしないわけですね。


もっといえば、ヤンマガを読んでるような中高大学生は、こういったギャグに憧れつつ、異性にモテるため、そして周囲から馬鹿にされないために、逆方向へ自分を研ぎ澄ますことに忙しいわけですね。


そんな中、『稲中』の直球でも不条理でもないギャグは、実に新鮮だったわけです。


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お笑い芸人がテレビで喋るような言葉でありつつ、実際は文章でしか成立しないような台詞回しも新鮮でした。


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ブスをしっかりブスとして描く「絵」の力にも唸りました。


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キクちゃんは『マンガ夜話』でも話題になりましたね。


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更に、↑のような固有名詞で笑わせるギャグは、後のクドカン脚本よりも早かったわけです。



4年間にわたる『稲中』の連載を終えた古谷実は、その後『僕といっしょ』『グリーンヒル』といった、ギャグ漫画といえばギャグ漫画なのだけれど、『稲中』のように単純に読んで笑えるという漫画は描かなくなりました。なにしろ、家庭崩壊や家出、学歴といったヒリヒリする要素が出てきたり、主人公が口にする人生のテーマが「退屈な日常とどう折り合いをつけるのか」だったりするのです。



その後、古谷実はギャグ一切無しの青春残酷マンガ『ヒミズ』を発表しました。

衝撃的でした。

そのころ付き合い始めた彼女(というか今の嫁)が「もう古谷実は読まない」と言い放っていたことを覚えています。

かくいう自分はというと、古谷実のマンガを完全に舐めていたことを反省しました。

「そりゃー、こんな万人に受け入れられる絵で、テレビのお笑い番組に出てくるような台詞回しで、皆が実際にやろうと思ってもやれないギャグをやれば、ウケること間違いなしだわー」などと思ってましたが、それは浅い浅い浅すぎる見方だったのです。


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特に、時折出てくる「怪物」が衝撃的でした。登場人物が内面に抱える恐れや不安や言葉にならないなにものかを、特定の人物にしかみえない「怪物」として描くことは、文章の世界では一般的ですが、漫画の世界ではあまりありません。それは、「怪物」の恐ろしさ、それも(作中人物にとっての)物理的ではなく精神的な恐ろしさを絵で表現することが難しいからですが、古谷実は容易くやってのけました。『稲中』でブスをそのまま絵に描くがごとく、怪物を怪物そのままとして描いてみせたのです。


その後、古谷実は『シガテラ』『わにとかげぎす』……と、さえない主人公が天から降ってきたような幸運で可愛い女の子と恋愛するラブコメと、殺人鬼や凶悪犯罪がガンガン出てくる犯罪バイオレンスとが同居する、古谷実にしか描けない漫画を何作も描くようになりました。

これは、一見唐突に思えますが、古谷実の漫画を時系列順に読むと納得できます。古谷がテーマにしていたものはずっと「閉塞した日常からどう脱出するか」でした。小中学生のような下ネタを敢えてやること、一歩踏み出して無理そうな恋愛をすること、同じように一歩踏み出して犯罪的行為をすること……これらは全て「日常からの脱出」という意味において、同じなのです。

多くが一年ちょっとの連載であり、唐突な終わり方を迎える作品も多く、古谷実の内面の葛藤や迷いが現れたかのようなものばかりですが、同時にそれが最大の魅力でした。「日常からの脱出」に、葛藤や迷いが伴わないわけがありません。

最初は20代のフリーターだった主人公の年齢や立ち位置がだんだんと上がってゆくと共に、近作の『サルチネス』では「怪物」との和解が描かれるようになったのも、『ヒミズ』以降の古谷実を語る上では面白いところです。


そんな古谷実漫画ですが、漫画のドラマ化や映画化がひきもきらないにも拘らず、なかなか映像化に恵まれません。

その理由は、古谷実の漫画は、現在の日本を舞台にしていて若者っぽい言葉を喋るキャラクターが登場していて――と、一見映像化しやすいようにみえて、実は漫画でしか成立しない構成や表現を多用しているところにあるのではないでしょうか。

あの園子温でさえ、『ヒミズ』の映画化は決して成功とは言い難いものでした。

(ちなみに自分の映画版『ヒミズ』に対する感想はこちら:http://d.hatena.ne.jp/macgyer/20120130/1327852218

さて、そんな中、『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で有名な吉田恵輔監督が『ヒメアノ~ル』を映画化しました。

ドキドキしながら観に行きましたが、これが面白かったのです。

(この続きは有料でお楽しみください)

 

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