『不思議堂【黒い猫】』店舗通信

【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第一話閑話「ふきげんな黒猫」

2021/12/12 21:36 投稿

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 第一話閑話・ふきげんな黒猫

著:古樹佳夜
絵:花篠

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◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆

吽野「ただいまー。ああ〜疲れたよ〜〜汽車に揺られて肩コリまくり」

阿文「大江山は流石に遠かったな……」

吽野「阿文クン、それだけじゃないでしょ。祟られるわ、死にかけるわ、生還できたのが奇跡だよ」

阿文「そうだな。でも、意外と楽しかったぞ」


阿文は機嫌が良さそうに微笑んでいた。


吽野「なんでニコニコしてんのさ」

阿文「なんでって、鬼と酒を呑めたし、面白い話もたくさん聞けた。全部、不思議堂の店内にいるだけでは起こり得ないことだった」

吽野「楽観的すぎでしょ。後に尾を引きそうな面倒臭い怪も出てきたし……」

阿文「件(くだん)のことか?」

吽野「そーそー」

阿文「……なんだか妙な話だ。僕には体を乗っ取られた時の記憶がないんだ」

吽野「憑かれてたんだし、しょうがな……」


吽野を遮るように、家の奥から小さな鳴き声がした。

途端に、阿文はキョロキョロとあたりを見回す。


阿文「先生、話は後だ」

吽野「あ?」


吽野を玄関に置いたまま、阿文は店の奥からチラリと顔をのぞかせた

ノワールのもとに駆け出した。


ノワール「にゃ〜」

阿文「ノワールちゃん! ただいまー……あでで!!」


抱き上げようと手を差し伸べた阿文に、ノワールの容赦ない

一撃だった。阿文の手の甲に、赤い3本線が走る


吽野「あら。引っ掻かれたの? 大丈夫?」


心配する吽野の問いかけは阿文の耳には入ってないようだ。

阿文はつれない黒猫に小首を傾げて問いかける。


阿文「ノワール? ごきげんナナメか?」

ノワール「シャー!」

吽野「毛を逆立てて、毛玉様はご立腹のようだぞ」

阿文「すまない、ほったらかしにして……。きっと寂しかったんだ」

吽野「猫だよ? 寂しさなんて感じない。腹でも減って気が立ってるのさ」

阿文「時計店のご主人に、餌と寝床はお願いしてあったんだが……」

吽野「そんなことより阿文クン、お茶―……」

阿文「セルフサービスだ」

吽野「汽車で原稿書き終わったんだから労って〜」

阿文「僕は今からノワールのご飯を作るのに忙しい」

吽野「猫のご飯は作るのに!? 俺にお茶は淹れてくれないの!?俺と毛玉どっちが大事なのよ!」

阿文「ノワールだ」


阿文は猫の餌を作りに、店の奥の住居に引っ込んだ。

台所で猫まんまでも作る気でいるのだろう。


吽野「あんな言い方あります? あの人俺の助手ですよね?」

吽野「たかが猫一匹に翻弄されるなんて呆れるよ。放っとけばいいじゃん」


吽野はぶつぶつ独り言を言った。

その時、不思議堂の扉を叩く音がした。


吽野「あれ? お客さんかな? はーい」


玄関に取り残されていた吽野は

後ろを振り向き、扉を開ける。


吽野「ああ、届け物ですか。判子ここに押せばいいのね? ……拇印でいい? だめ?あ、サインね。はいはい〜。……はい、ご苦労さん。」


荷物受け取った吽野は、カウンターの上に荷物をのせた。


吽野「……随分重い箱だな。あれ? この差出人は」

阿文「先生、誰か来たのか?」


来客の気配を察知したのか、

阿文が猫の餌を片手に寄ってくる。


吽野「荷物が届いたんだ。しかも大江山から」

阿文「あ、この字は茨木さんじゃないか」

吽野「あーもう。今さっき大江山から帰ったばっかじゃん〜」

阿文「また出張依頼だったら気が早すぎるな」

吽野「『妙な怪事件に巻き込まれまして、これが祟りの元凶です』とかさぁ! ありそうじゃない?」

阿文「先日のパターンからすると、あり得るな」

吽野「俺、開けたくない」

阿文「なんで」

吽野「中に鬼の首とか河童の干物とか入ってそう」

阿文「おいおい。気色悪いことを言わないでくれ」


ノワール「にゃん」


先ほどまで牙を剥き出して怒っていたノワールが、

再び姿を現した。

カウンターにぴょんと飛び乗り、

鼻をクンクンとひくつかせている。箱の中身が気になるようだ。


阿文「あれ、ノワール?」

吽野「毛玉のやつ、箱にすりすりしてる」

ノワール「にゃーん」

阿文「開けてみるか」

吽野「ちょ、やめて! 阿文クンたら思い切り良すぎだよ〜」


阿文は構わず箱を開封した。


阿文「あ、瓶が入ってる。酒だな。果実酒かな? 取り出してみよう」

吽野「油断ならない。酒に鬼の首が漬け込んであって……」

阿文「先生、その誇大妄想、めんどくさいぞ」

吽野「はい」


阿文は箱から完全に瓶を取り出してみせた。


阿文「よっこいしょ。おや、これは……またたび酒だ」

吽野「またたび酒?」

阿文「茨木さんの手紙にはこう書いてある。『疲労回復に効果的な薬膳酒』……なるほど。事件解決のお礼だそうだ」

吽野「変なもの送りつけやがって」

阿文「帰り際、重いからと酒のお土産を断ったからだよ。わざわざ送ってくれるとは。気を遣わせてしまったな」

ノワール「ゴロゴゴロ……」

吽野「毛玉が喉鳴らしてる。あ、こら! 瓶に擦り付くな」

阿文「ああ〜〜ノワールちゃん、可愛い〜〜!」

吽野「また始まったよキャラ崩壊。……おっと。これは酒呑童子の手紙かな。『この酒を不思議堂にやるのは惜しいが、仕方ない。

これを飲んで元気を取り戻すんだな。

大江山へ、また旅(またたび)にでも来い。なんちゃって』……だとさ。

たく、……洒落かよ」

阿文「いいじゃないか。ノワールの機嫌も治ったみたいだ」

吽野「猫にはやらんぞ!」


【了】

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※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは 

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ツイッターでツイートいただけますと幸いです。


※本章は、2021年12月放送

浅沼晋太郎・土田玲央『不思議堂【黒い猫】』生放送の

ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、

浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です

ぜひ、物語と一緒にお楽しみください

(※朗読は、本章の全編ではない場合がございます)


[本作に関する注意]------------------------------------------
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復製、転載、配信、送信、販売すること、
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