9月最初のむしマガをお届けします。
9月が始まると、無条件に少し憂鬱な気分になってしまいます。小学生の時、長い夏休みが終わって2学期が始まった時の憂鬱感。これを未だに引きずっているからでしょう。何歳になっても、子ども時代の色々なことが精神の根っこに深く刻まれているものですね。
それでは、今回はちょっとお久しぶりのクマムシトリビアをお届けします。
★クマムシトリビア その20
読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。
◆ 質問:
オニクマムシのオスは生まれても交尾できないそうですが、そうなると同じ個体のコピーばかりになって多様性が失われる気がします。それは生物として弱点になりそうですが、個体の変化ってあるのでしょうか。何か変化する機会がないとこんなに沢山の種類のクマムシが生まれないような気がして不思議に思ってます。
◇ 回答:
クマムシには有性生殖する種類と無性生殖の種類があることが知られています。有性生殖を行うクマムシもそれなりに種数が確認されていますから、クマムシの種類がたくさんいるのはこれで説明できると思います。
では、無性生殖のクマムシの場合を考えてみましょう。無性生殖を行うクマムシには、メスしかいません。慶応大学の鈴木忠さんが飼育しているオニクマムシは無性生殖をしているようですが、たまにオスが出現するとのこと。しかし、オスは交尾には参加しないので、その存在意義が問われています。
無性生殖を行うクマムシがいつ頃出現したのか不明ですが、9000万年ほど前にできたと思われる琥珀の中に、オニクマムシ(Milnesium tardigradum)にそっくりなクマムシが閉じ込められているのが見つかっています。琥珀の中のクマムシ、ロマンですね。
もし仮にオニクマムシが9000万年ほど前から無性生殖をしていたとしたら、その形がほとんど変化していないのも納得できます。無性生殖は有性生殖に比べ遺伝的な変化が圧倒的に起こりにくいのですが、それでも世代を経るにつれて遺伝子の変異が蓄積されていきます。
ところで、クマムシと似たような生活史をもち乾眠能力もあるヒルガタワムシでは面白いことが分かっています。
このヒルガタワムシも無性生殖で子孫をクローン的に作ります。すでに数千万年の間、このような形で繁栄してきたようです。ところが、このヒルガタワムシのDNAをよくよく調べてみると、細菌や植物の遺伝子が比較的高頻度で混じり込んでいるのが分かったのです。
通常、生物の遺伝子は親から子へと受け継がれていきます。このように垂直方向に遺伝子が伝わることを、垂直伝搬といいます。これに対し、親以外の他生物個体から遺伝子が伝わることを水平方向の伝搬、水平伝搬といいます。
コメント
コメントを書く