スパイ映画などに度々登場するアメリカの情報機関「CIA(中央情報局)」はその知名度の高さにも関わらず、謎が多い組織です。
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そこで今回は、CIAが登場するストーナー・スパイ映画『エージェント・ウルトラ』の公開を記念して、日本のCIAこと公安警察として働いていた経験があり、諜報機関事情にも詳しいK氏にお話を伺いました。
実際のところCIAはどのような活動をしているのか? どのような人間がCIAに所属しているのか? 映画でのCIAの描写は本当なのか? などをお聞きしたのですが......
全てに対して疑心暗鬼になりそうなCIAの驚くべき実態は以下より。
インタビュー中の編集部の表情とほぼ一致
――CIAのエージェントの仕事とは端的に言うと何でしょうか? また、どういった人たちが、どのような環境で、どのような訓練を経てCIAのエージェントになるものなのでしょうか?
K氏:難しい質問ですね(笑)。CIAは非常に幅広く活動しているので、とにかく間口が広いです。
まず情報を収集することだけがCIAの仕事ではありません。情報を収集する部門はもちろんありますが、それだけではないんです。ある目的を持った作業をする部門もあるでしょうし、軍事的な攻撃を行う部門もあるでしょう。
異なる仕事を担当する部門が5~10くらいはあると思いますが、それぞれの具体的な仕事の内容ははっきりとはわかりません。当然、どういう人間を雇うのかは部門によって異なります。
CIAには人材の明確な基準というものがないんですね。CIAへ志望して入る人間に関しては面接を行い、適した部門に振り分けるので、もちろんそこに基準はありますが、スカウトに関しては適材適所なので目的によって基準は異なります。
基本的には目的に応じた人間をCIAはスカウトしていくんですが、CIAという名目で採用するのではなく、「◯◯な作業を行う会社なんですが働いてみませんか?」といったようにスカウトするので、スカウトされた人間はCIAに組み込まれていることに気づきません。
大抵はその会社のトップなどの限られた偉い人間だけがCIAの関与を知っていて、部下や他の人間は誰も、何も知らないんです。なので、例えその会社のスタッフが問いつめられたとしても、自分の立場を知らないので、こういう企業に依頼されてやっているだけで~としか返答しません。
要するに、誰がCIAなのか? を誰も正確に把握していないからこそ、秘密が守れるわけです。「何のためにこんなことをやっているのか?」を把握していない状態で、CIAに知らず知らずのうちに組み込まれている人間がほとんどでしょう。
――そんな状態だとCIAの人間全員を管理することは不可能に思えるのですが?
K氏:できませんよ(笑)。CIAの長官でも全員は管理できません。
ただ、CIAの関与を知らない人間が任務を行っていたとしても、どこかでCIAにはつながるので、その部門の人間に管理は任されています。
任務に当たっている人間は成功すれば違った任務が与えられたり、出世したりすることもあると思いますが、失敗すれば切られるだけです。CIAの任務を行っていたことにも気づかずに切られます。
場合によっては、私のような老人であれば、酔っ払っている時に誤って川に落ちて死亡といったように処理されるでしょう。
――世界で一番規模の大きい諜報機関はやはりCIAなのでしょうか?
K氏:そうでしょうね。
アメリカにはCIAを含めて15の組織が存在すると言われています。今までは独立していたのですが、それをまとめようということで現在はNSC(アメリカ合衆国国家安全保障会議)が束ねています。そこの情報専門官が情報を分析して、大統領へ報告するわけです。
情報機関というのはお互いに「俺が俺が」と足を引っ張り合うものなので、まとめないと正しい情報が上がっていきませんからね。
――スパイ同士が争うこともあるのでしょうか?
K氏:大なり小なりあります。
2つの組織の人間が全く同じことを調査していたとしても、お互いにそのことはわかりません。そういう状況下で違う組織の人間が現場で鉢合わせたら、どうしたって衝突は起きます。
同じ目的を持っているという意味では仲間だとしても、互いの任務のため、そして自分の命を守るために殺し合うのはやむを得ないことです。
殺るっきゃナイトです......
――日本にもCIAは潜んでいるのでしょうか?
K氏:もちろん日本にもCIAはいます。
北朝鮮の金正日の調理人をやっていた藤本健二という人物がいました。彼をまだ泳がせていた頃は日本へ来る度に、在日本朝鮮人総連合会の彼を防護するメンバー、韓国の国家情報院(当時の国家安全企画部)の面々、日本の公安警察、そしてもう1つ得体の知れない日本人グループがそれぞれ監視していたんですね。
その得体の知れないグループの正体が、調べても調べてもわかりませんでした。結局1年がかりで、30人くらいの探偵を雇っている探偵社だということがわかり、その社長が癌で防衛医大に入院していることをつかんだんです。それで防衛医大へと行き、担当主治医の許可のもと取り調べました。
すると、その社長が絶対に言ってはいけないんだけども、もう余命一カ月だからということで、実はCIAから依頼を受けて会社ごと買い取られていたと告白してくれたんです。
これも1人のCIAエージェントがやったことで、その探偵社にCIAが接触したことも社長だけが知っていて、彼の部下は何も知りません。
――まるで映画のようですが、フィクションで描かれているCIAというのはどの程度現実味があるのでしょうか?
K氏:正直なところ、どこまで現実味があるのか、信ぴょう性があるのかというのは、自信を持って言えません。得体の知れない組織だから、最終的にはわからないとしか言いようがないです。
例えば、誰かしらを獲得する(確保する)、もしくは追い落とす(排除する)という目的があった場合、何かしらの絵図を描きますよね。その目的のために何が必要になって、何を行うのか? というのは当事者にしかわからないわけです。となると、何に対しても「これは嘘だろ!」とは言えなくなります。
――「CIAは実際のところ◯◯だった~」みたいなカミングアウトもほんの一側面にすぎないわけですね。
K氏:大きすぎて把握できないほどの組織ですから。ましてや中に入っちゃったら余計わからなくなります(笑)。部門があれば全部縦割りですし、自分の任務に関する情報しか与えられないですからね。
映画に登場するCIAを嘘と言い切ることはできないと語るK氏
――マインドコントロールを受けたCIAエージェントが登場するというのもよくある設定ですが、そういった事例は実際にあるのでしょうか?
K氏:オウム真理教の時にも、マインドコントロールされた東京の警察官が関与しているといった話題が上がりましたよね。
催眠術師や心理学者などの専門家が関われば、薬を使わなくても、ある程度のマインドコントロールはできます。私も何度かやった経験はありますが、マインドコントロールの何が怖いかというと、「◯◯というサインを送ったら、あなたは△△する」と他人に植え付けられることです。これが「えっ!」と思うくらい(簡単に)できるものなんですよ。
かけられた人間は自分がかかっているとはわかりませんし、わからない状態でやったことを犯罪として問えるかどうかも問題になります。一方でかける側は、ある目的をもってやったことであれば裁判がどうというのは気にしません。
結果については幹部が責任を持つという形で実行していますし、どうせやった人間はいなくなりますからね。
――いなくなるんですね......。
K氏:顔を変えるなどして、いなくなりますね。
アメリカだと、例えば敵国の有能な幹部なりスパイなりが亡命したいといった事案が発生した場合、100人までは亡命を受け入れるという法律があるんです。そこで受け入れられた亡命者には名前から何から何まで新しく作られた、全く違う人格が用意されます。その上で守ってくれるんですよ。
だから「アメリカになら亡命したい」というスパイも出てくるわけで、スパイの交換や他国のスパイを受け入れるというのも成立します。
――誰がどこのスパイなのかわからなくなりそうですね......。
K氏:今(取材時)中国で拘束されている日本人がスパイだと言われていますよね? じゃあ交換したらいいんじゃないかと思うんですけど、日本にはいないんです。
もっと正確に言うと、日本にはスパイを取り締まる法律がないので、他の名目で捕まっている人間はいても、スパイとして捕まっている人間はいません。
――スパイとして捕まっている人間同士であれば交換ができるというわけですか?
K氏:そうです。中国で拘束された日本人は、スパイの取り締まりで捕まっていますから。
例えスパイがいるとわかっていても、日本では取り締まる法律がないので、詐欺だとか他の容疑で捕まえるしかありません。だから日本はものすごくスパイに対して弱い国なんですよ。
これは声を大きくして言いますけど、中国や北朝鮮のみならず、アメリカなどの各国のスパイが日本には大量に入ってきています。
――そんな状態である日本はやはりスパイ人口も少ないのでしょうか?
K氏:ほとんどいないです。だから、私のようなおじいちゃんが民間人に混じってまだやっていたりするんですよ(笑)。
情報を収集する組織というのは何十年も前に作らなければいけなかったのに、テロなどの問題が浮上するまで、日本はほとんどやってきませんでした。公安警察、内閣情報調査室といった機関はありますけど、専門的に学んできた人間は本当に少ないです。
情報がとれないというのは非常に危険ですから、スパイがいないことで日本が危険にさらされることにもなると思います。
先日の北朝鮮の水爆実験もそうですが、隣の国のこともわからない、情報がとれないというのは恥ずかしいことです。
このスパイだらけの世界でベッドの下に隠すなんてバカよ
――CIA以外で有能な人材が豊富な機関はどこでしょうか?
K氏:アメリカだとシークレット・サービスですね。
私もお世話になったことがあるんですけど、彼らの仕事は大統領の警護だけではありません。もともとは偽札を摘発する組織で、彼らは相手が外交官だろうが何だろうが、偽札の情報が入ったらすぐに飛んでいきます。
アメリカドルというのは世界中で使える貨幣なので、その偽札が作られ、出回ってしまうと国の信用が無くなってしまいます。それを摘発する仕事を任されるわけなので、非常に有能な人材が集まっているんです。
――テクノロジーの発達によって一般人でもさまざまな情報を大量に収集・分析できる時代になりましたが、それによってスパイの専門性が失われるといったことはないのでしょうか?
K氏:公開情報は大事ですし、それを分析することも重要な情報収集活動の1つです。
でも、私などはあくまでも「ヒューミント」、個人からの情報を重視します。特定の場所へ誰かを送り込んでその人間の話を聞く、またはもともとそこにいる人間を協力者にして話を聞くなどをしないと正しい情報は入ってきません。
実際に人間が見た、聞いた、触った、感じたという情報が一番だと私は思っています。
もちろん公開情報や電波を傍受して聞いた情報、衛星で見た情報も重要ですが、それだけでは不十分です。例えば、衛生で見るというのはストローをのぞいているのと一緒で、範囲が狭いですよね。そこを拡大して見るには人を送り込むしかありません。
結局のところ、電波(耳)と衛星(目)と人間が三位一体になって初めて「そこに何かがある」という情報を確定できるわけです。
――今後も「スパイ」という職業は必要であり続けるのでしょうか?
K氏:「スパイ」という言い方である必要はないと思いますけど、国が存在する限り「情報収集活動」は絶対に必要です。
どこの国だって公にできないことはたくさんあります。国と国の間には利害関係がありますし、いつ同盟国が倒れるかどうかなんてこともわかりません。そういった世界の流れに対応していくには、常に情報収集活動をしていないといけないわけです。
情報収集活動はいつの時代にも国を守るために必要になります。国を守るために一番必要なのは情報です。
私も経験ありますけど、そんな情報を集めているとなぜか「お前スパイだろ!」って呼ばれるんですよ。ただの民間人です! って返してましたけどね(笑)。
――最後にCIAとは全く無関係ですが、「公安たこ焼き」は実在したのでしょうか?
K氏:具体的に存在したという事実を知っているわけではないですけど、学生運動の時代にそういったことはやっていたと思います。
たこ焼き屋に限らず、売店の店員であり何であり、潜入していたのは間違いないです。それこそ学生そのものとして潜入していたこともあるでしょう。
でも「公安たこ焼き」と噂が立つ前に恐らく学生に連れ込まれてメタメタにされていると思います。そういう時代でした。釘の打ってある板で殴られるんですよ。そうすると大体しゃべりますから。
あとは交通事故を装ってとかね......。一番安心なのは屋上から飛び降り自殺したってことにする方法です。
ゾッとする話ばかりでしたが、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかがわからないからこそ、CIAは映画に登場する組織として人気が高いということがよくわかりました。やはり事実は映画よりも奇なり......なのかもしれません。
映画『エージェント・ウルトラ』は1月23日ロードショー。
Alan Markfield/© 2015 American Ultra, LLC. All Rights Reserved.
(コタク・ジャパン編集部)
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コメント
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内乱罪はその名の通り内乱やんなきゃダメ。
外患誘致罪も国外勢力と「通謀して武力行使した」ら適用。
この2つで取り締まれないからスパイ対策法を作ろう。っていう流れで過去何度もやった。
マスコミは機密保護法というレッテルつけてのいつものテンプレだったよ。
普通に新聞紙面と国会で何年もやってきたことだから調べるまでもなく記憶にあるでしょ?
うさんくせぇ
>>21
外患誘致罪って一度も使われたことがないんだろ?いくら抑止のための存在意義が~なんて擁護があろうが使えない道具なんて「あります」どころか無いも同然、持ってても意味が無いわ。
紛れも無いテロリズムだったオウム事件で適用見送りになって物議をかもした破防法ですら僅かとはいえ実際に使われた記録はあるのに、外患誘致罪は全く無い。ただの看板だよ。
(ID:7186746)
こういう錯乱も一つの情報工作なんだろうなあ・・・