いよいよ2015年も終わりに近づいている。プロレスファンならば、そろそろ今年のベスト興行やベストバウト、そして心のプロレスMVPなどを語り合ったりする時期だ。
あなたの今年のベスト興行は? そんな質問をされたら、あなたはなんと答えるだろうか。
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僕? 僕の2015年ベスト興行は8.11小岩「おとこまえサミット」だ。
■「ますだまつり」が起源
「おとこまえサミット」をご存じない方に、その歴史を簡単に解説しよう。
前身となるのは2005年2月に開催された「ますだまつり」。SPWFという団体に所属していた増田圭祐という選手が中心となり、摩訶不思議なプロレスワールドを展開(増田自体は出場できず。というかその後の興行にもほぼ出ていないという謎展開)。関東ローカルのテレビ番組で紹介されたことから、一部のマニアの間でどす黒いブームが巻き起こった。
ちなみに「ますだまつり」という名称は団体名ではなく、興行名だ。
その後、数年に1回のペースで開催。あまりにも開催ペースが遅いため、記憶から消えてしまいそうなときに、ひょっこりと開催されるのは絶妙としか言いようがない。
その後、「ますだまつり」→「いしいサミット」→「おとこまえサミット」と名称は変更されているが、基本的なコンセプトは変わっていない。現在は「いしいサミット事務局」が開催している(ややこしい)。
■過去の興行から名試合を紹介
会場で販売されている公式DVD。手作り感あふれる一品。
2015年に入り、3.1BumB東京スポーツ文化館で「いしいサミット改め男前サミット」を開催。そして、8.11には江戸川区小岩にあるライブハウス「LIVE THEATER オルフェウス」にて「おとこまえサミット」が開催された。
いったいどんな試合が行われているのだろうか。今手元にある3.1「男前サミット」のDVDを例に紹介しよう。
なぜかPCでは再生できなかったのでDVDプレーヤーで再生。
テレビがブラウン管だが気にしなくてよい。
まず、ますだまつりを一躍有名にした試合「脚立 VS こたつ」だ。脚立とこたつがリング上に佇んでいるのを、観客が固唾を呑んで見守るだけ。妙な緊迫感が会場を支配する。
ケンちゃん乱入。
この日の結果は乱入によるノーコンテスト。ちなみにその前の興行では、体固めでこたつが勝っている。2人のライバル関係はいしいサミット、おとこまえサミットになってもまだまだ続いている。
左がグー、右がパー。
また、もう1つの名物カードといえば「グー VS パー」だ。グーとパーというレスラーが登場。パーがひたすらグーを平手打ち。耐えるグー。しかし、最終的にグーパンチでパーを殴る。
グーパンチ炸裂!
カンカンカンカン!
ゴングが鳴り響く。グーの反則負けだ。なぜなら、プロレスではグーパンチは反則だからだ(実際には5カウントまでは反則OKなのだが、おとこまえサミットのレフリーは厳格なのだ)。
プロレス? 格闘技? スポーツ? いや、哲学なのだ!
ブルーシーターは驚異的な強さを誇る。
この他にも、とんでもなく大きなレスラー、ブルーシーターやパンダーマン、与作、JKなどといった常連レスラーが登場。おとこまえサミットは独特な世界を築き、コアなファンを獲得している。
■8.11小岩オルフェイス「おとこまえサミット」観戦記
実は昔、ここでライブをやったことがあります。
僕の今年のベスト興行である、8.11小岩「おとこまえサミット」。その様子をレポートしよう。会場はビルの2Fにあるライブハウス。開場時間より少し前に到着すると、まだ会場には入れないとのこと。
同行したコタク・ジャパン編集長のスタナー松井氏と入り口で待っていると、何やら上のほうからドッタンバッタンという取っ組み合いの音と、レフリーの「外はダメだって!」という声が聞こえてきた。どうやら、ダークマッチ(第0試合)が行われているようだ。
ダークマッチの場外乱闘もおとこまえサミットの定番。
この時点で、入場を待っている人数は我々を含めて5人ほど。ほどなくして、その入場待ちの列に2人のレスラー、ダンボーラーとザ・ニュースペーパーが組み合いながら2階から降りてくる。
白熱した場外戦を展開しているようだ。その乱闘にスタナー松井が巻き込まれる。「外はダメだって!」というレフリーの声。しかし、レスラーとレフリーは路上に飛び出し、乱闘を繰り広げる。
そのうち、またビルの中に戻っていったかと思うと、3階、4階の非常階段で戦っているようだ。
そして、僕たちからは見えない試合会場へ戻った後にゴング。どうやら勝敗が決まったようだ。ダークマッチは基本的に観客には見せない試合。詳しい試合展開はわからないが、好勝負だったようだ。
■名物試合「脚立 VS こたつ」からスタート
開場時にはすでに試合が始まっていた。
そうこうしているうちに開場。小さなライブハウスにはマットが敷いてあり、その周りにイスが置いてある。そして、マット上ではすでに第1試合である「脚立 VS こたつ」が始まっていた。この時点で試合は15分が経過。
徐々に観客がやってきて、最終的に20人ほど。いったいこの人たちはどこから集まってきたのだろうか。
第1試合はおとこまえサミットの現エースである洗濯屋けんちゃんの乱入によりノーコンテスト。「脚立 VS こたつ」の名勝負数え歌は終わらない。
パンダーマンはたくさん登場する。おそらく5~6人は存在。
その後、謎のマスクマン、パンダーマンとパンダーマンの試合が3試合続く(3試合ともほぼ同じ試合展開)。
ブルーシーターはとても強い。
おとこまえサミットの名物レスラーであるブルーシーターは第7試合に登場。パンダーマンを飲み込み、ぺちゃんこにするという圧倒的な強さを見せつけた。
長机を担架として使うのはプロレスの定番。
パンダーマンは担架代わりの長机で搬送。出場レスラーが総出でパンダーマンを救出するという状況に緊迫した空気が流れたが、命に別状はなかったようだ。
とにかく近づきがたいオーラを放っているキム・ヨチャン。
もう一人、名物レスラーがいる。彼の名は「キム・ヨチャン」。極上のゆるふわボディは、一度見ると夢に出てくるくらいインパクトがある。また、動きもかなり独特。世界広しといえでも、キム・ヨチャンのようなレスラーはいないのではないだろうか。唯一無二とはこのことだ。
■勝負とは何だろう? プロレスは哲学だ
おとこまえサミットの名勝負数え唄。前回に比べてパーがかなり増量している。
第10試合は因縁の対決「グー VS パー」。今回もグーがグーパンチで反則負けだった。しかし、今回のグーはよく頑張った。
パーの平手攻撃にも耐えに耐え、何度もグーパンチで殴りそうになるところを我慢したが、やはり最後は堪忍袋の緒が切れてグーパンチ。だが、そのがんばりは確実に観客に届いていたはずだ。
グーがパーに勝つときは来るのだろうか。そして、勝つとしたらどのような勝ち方なのだろうか。哲学は終わらない。
■今一番旬なレスラーは「絶対に3カウントが入らない達人」だ!
ワン、ツー、キックアウト!
第11試合は、今回の興行で一番盛り上がった「絶対に3カウントが入らない達人 VS 絶対にギブアップしない達人」だ。
絶対に3カウントが入らない達人は、なぜかビールを模したマスク。そして、両手を叩いて「ワン、ツー」とカウントし、右肩を上げて「キックアウト!」というポーズを繰り返す。よくアメリカのレスラーがやるアピールだ。東側の客席にいた僕とスタナー松井氏を含めた5人(全員プロレス仲間)は、そのポーズを真似して達人を盛り上げる。
一方、絶対にギブアップしない達人は、入場早々足首をひねって負傷するが、絶対にギブアップをしない。さすが達人。
関節技などで攻められても絶対にギブアップをしない達人と、フォールされてもカウント2で返す達人の激突は見応えのある展開となった。最後は、関節を決められてもギブアップをしない達人を見て、これ以上続行するのは危険と判断したレフリーが試合をストップ。絶対に3カウントが入らない達人の勝利となった。
正直、3カウントが入らない達人は負ける気がしない。なぜなら、3カウントが入らないのだから。これから無敗街道を突っ走っていくのではないだろうか。
■本物のJKも登場(自転車に乗って)
JKが電車男を自転車で轢く。
セミファイナルは、「電車男 VS JK」。電車男はなぜか女の子の人形を手に持ち、おどおどした様子。そしてJK(本物)は子ども用自転車に乗って入場。
観客の前を2周するという過剰なファンサービスのあと、電車男をそのまま轢いて試合終了。多分世界でも最速決着タイムであろう、0分0秒ノックアウトでJKの勝利となった。
■元エースのウィスパー熱唱でフィナーレ
暗くてわかりづらいが脚立の上にいるのが「石Mレボリューション」。
この後セコンド総出でムーンサルトプレスを放つ。
そしてメインイベント。「石Mレボリューション VS 外国のスーパースター」。
前回のおとこまえサミットで引退を宣言したはずの「クリーニングハウス石井」にそっくりな石Mレボリューションが、身体に黒いビニールテープを貼って登場。サポート付きのムーンサルトプレス、ファイヤーバードスプラッシュなどを繰り出し、最後は必殺技石タニックで勝利。
最後は、『HOT LIMIT』を石Mレボリューションがウィスパーボイスで熱唱して終了。非常に濃密な1時間30分だった。
■次回興行は未定。だが期待は高まる
与作 VS 与作。おとこまえサミットで同じ名前のレスラーが戦うのは日常茶飯事。
おとこまえサミットを一言で表すと「最先端すぎるエンターテインメント」。プロレスというフォーマットを使い、勝負を超えた究極の戦いを模索しているという印象だ。
この日の興行だけを見ていたら「?」というマッチメイクが多い。登場するレスラーも同様だ。しかし、ますだまつりから見続けていると理解できる。つまり、「歴史を知るものほど楽しめる」というプロレスの最大の特徴を持った興行なのだ。
「おとこまえサミット」の次の興行は現時点では決まっていない。風の噂によると、来年の3月ごろと言われている。
待ちきれないという人は、おとこまえサミットの公式サイトから過去の試合が収められたDVD(-R)の購入をオススメする。一度触れてしまうと、その最先端っぷりに抜け出せなくなることだろう。
とにかく、僕の今年のベスト興行は「おとこまえサミット」で決まりだ。「天龍源一郎 VS オカダカズチカ」も感動したが、それとは違う感動が「おとこまえサミット」にはある。
「1、2、キックアウト!」
次の興行でも、またあのコールができるだろうか。その日が一日でも早く訪れることを願っている。
(絶対に3カウントが入らない三浦)
撮影:プロレス最先端思想
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