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1982年に公開されたジョン・カーペンター監督の傑作『遊星からの物体X』といえば、プラクティカル・エフェクトを駆使した、それ(The Thing)のうごめくシーンの数々が有名です。


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以前『アナ雪』とマッシュアップされて話題になった血液検査の場面も有名ですが、インパクト大なのは「それ」が腹から登場する瞬間

一体あの衝撃的な場面はどのように作られたのでしょうか? Cinefixがその詳しく説明しているので、動画とその要訳をお届けします。なお、ネタバレがありますので、ご注意ください。



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1974年に『ダーク・スター』で監督デビューしたジョン・カーペンターは、その後『ハロウィン』や『ニューヨーク1997』を含む7本の長編映画やテレビ映画を経て、『遊星からの物体X』でメガホンを握りました。


もともと、この企画は1975年にユニバーサル映画のデビッド・フォスターとスチュアート・コーエンが、ジョン・W・キャンベル著の『影が行く』を映画化(『遊星よりの物体X』のリメイク)しようと考えていたもので、『悪魔のいけにえ』でおなじみのトビー・フーパーを含む何人もの脚本家や監督が候補に挙がっていました。


そして、最終的にコーエンの大学の元クラスメイトであったジョン・カーペンターに白羽の矢が立ち、「それ」と生き物が融合する真面目なホラーが製作されることとなったのです。


監督が決まり、スタジオはすぐさまテレビドラマ『がんばれ! ベアーズ』シリーズで知られる脚本家のビル・ランカスターを雇用。『影が行く』は1951年にクリスティン・ナイビイ監督の手によって映画化されていますが、当時は技術の問題もあり、エイリアンがフランケンシュタインのようなモンスターとして描かれています。


リメイクするにあたって、カーペンター監督とスタジオはオリジナルの「取り込んだ生物に同化、擬態して増殖」という特性をできる限り忠実に再現しようと考えました。


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しかし、これは極めて困難な挑戦だったようです。というのも、1つのモンスターを作るのとは異なり、原作に忠実な「それ」を表現する場合、幾つものモンスターとクリーチャーを生み出す必要がありました。

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そこでカーペンターの大ファンだった、24歳の野心溢れる特殊メイクアーティストのロブ・ボッティンがチームに迎え入れられました。ボッティンは特殊メイクアップアーティストのリック・ベイカーと14歳の頃から共に仕事をして技術を磨き、『ハウリング』では狼男の変身シーンを担当。


そして、1980年には撮影監督のディーン・カンディの紹介でジョン・カーペンター監督と知り合い、『ザ・フォッグ』で特殊メイクを担当したことがありました。


カーペンターはストーリーボード・アーティストのマイケル・プルーグと共に、見せ場となるシーケンスの構想を描き起こしました。そして、オフィスにやってきたボッティンに「これ、どうやったら実現できるかわかるか?」と聞いたそうです。しかし、ボッティンはそれに「いや」と答えたとのこと。


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彼は当時を思い出し、「非常に難しいと思った」とコメントしています。

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1981年の夏、サンフェルナンド・バレーのユニバーサル撮影所で『遊星からの物体X』の撮影は本格的に始まりました。極寒の地に見せるため、屋外は38度以上あったにも関わらず、サウンドステージ(映画撮影用の防音装置を施した舞台)を4度程度に設定したそうです。


カーペンター監督が俳優達とサウンドステージ内に作った基地の中で撮影を始めた頃、近くではボッティン率いるエフェクトユニットがクリーチャー作りに励んでいました。


腹から登場に続いてヘッド・スパイダーの誕生といったシーンのためにヴァンス・ノリス演じるチャールズ・ハラハンは、ボッティンとエフェクトチームと10日間を共に過ごし、彼の頭部、腕、脚といったパーツの型をとったそうです。こうして、本人そっくりのパーツが完成。


腹部に至っては、ハイパーガラスのダミーの上に実際のハラハンの体毛の生え方が忠実に再現されました


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その出来栄えたるや、共演者たちもかなり近づくまでダミーだと気付かなかったほどだったというから驚きです。

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ハラハンの腹が開いてドクター・コッパーの両手が噛みちぎられるシーンは、ジョー・キャロンという両腕の無い役者にリチャード・ダイサートに似せた特殊マスクを被らせて撮影しています。


腹に引きちぎられる両腕は、ワックスで出来た骨とゼラチン、ゴムで作られています。このシーンは血糊や突き出した腹といった過剰なゴア描写を入れることで、観客の注意をドクター・クーパーから逸らし、俳優の入れ替わりに気付かせないようにしたそうです。


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しかし、このマスクも驚くほど精巧にできていたため、フォークス役のジョエル・ポリスはコッパー役のリチャード・ダイサートに瓜2つの両腕がない人物を探し出したのだと思っていたのだとか。

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腹からエイリアンが登場するシーンは1テイクでの撮影が計画されていました。このショットの撮影準備時間は10時間も要したのです。


最初のテイクののち、カーペンター監督は「ラスベガスの噴水のようだ」とリテイクを命令。ハラハンは再び準備をするために、何時間にも渡ってテーブルの下に設置されたハーネスに固定されたままでした。幸い、テイク2で監督のOKが出たそうです。


「それ」は5ガロンにものぼるゴム、フォームラテックス、ゼラチン、クリームコーン、マヨネーズ、イチゴジャム、潤滑ローションでできており、アニメーションは指人形、マリオネット、ラジコンワイヤー、油圧クレーン、ケーブルといったものも組み合わされています。


カーペンター監督が「マジックショーのようにカメラの前で演じてみせろ」と要求したため、撮影のディーン・カンディはライティングなどを駆使して、観客に映画の中の重力やライティング、物理といったものを受け入れ、「不信の宙づり」を喜んでもらえるようにしたのでした。


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しかし、この「不信の宙づり」を実現させることに相当な時間がかかったため、俳優をイライラさせたなんてことも......。

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ハラハンの頭がちぎれるシーンを再現するために、ボッティンは電子レンジで加熱したガムや溶けたプラスチックといった、可燃性の高い物を頭部と首に使用しました。


当時、スタッフは可燃性ガスの恐ろしさを認識していなかったので、続く炎のシーンのために、特に考えることもなくカメラの下の火格子棒に火をつけたのです。


当然ながら、ボッティンが作ったハラハンモデルに着火し、爆発して激しく燃え上がり、修復不可能なまでに破壊されるというアクシデントに見舞われました。


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本シーンは後日撮影されることとなりましたが、数ヶ月にわたってハラハンモデルを仕上げたというボッティンとチームのガックリ感は相当なものだったでしょう。

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本作のVFXを支えた若きボッティンですが、1日たりとも休むことなく57週間ぶっ続けで働きスタジオに泊まることも少なくありませんでした。撮影が終わるとカーペンター監督は、ボロボロに疲れ果てたボッディンに病院で体を徹底的に休めるよう、命令したそうです。


数え切れない努力が積み重なって出来上がった『遊星からの物体X』はカーペンター監督を非常に満足させる作品となりましたが、1500万ドルの制作費に対して、1900万ドルの収益しか上げられず、興行成績的には成功したとは言えません。


というのも、本作の2週間前にスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』が公開されており、世間はハートウォーミングなエイリアンにゾッコンで、人間を攻撃するエイリアンを受け入れる気分ではなかったのです。


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評論家たちからの評価は、それはそれは酷いもので、カーペンター監督は「暴力のポルノ製作者」とまで呼ばれるはめに......。

しかし時が経ち、その気が滅入るような絶望的な設定と暗い雰囲気、プラクティカル・エフェクトで作り上げたゴアなクリーチャーがCG全盛期の今では珍しいものとなり、現在では傑作とされています。

イギリスの南極大陸研究所では毎年、冬初日に夜通し『遊星からの物体X』と『遊星からの物体X ファーストコンタクト』、『遊星よりの物体X』が上映され、長い冬をより一層寒くするのに一役買っているのだそうです。


The Thing's Defibrillator Chest Chomp - Art of the Scene[YouTube]

中川真知子

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RSS情報:http://www.kotaku.jp/2015/08/facts-of-the-making-of-the-thing.html