今でこそ、銃の有効射距離は数百メートルというのが一般的ですが、火縄銃や散弾銃等の滑腔銃の有効射程は60ヤード(約55メートル)ほどでした。しかし、少し設計を改良しただけで射程距離が10倍になったそうです。 今日は、この「少しの改良」に焦点を当てたお話をしたいと思います。それでは、以下より「弾丸の科学」をお楽しみ下さい。
 
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ビクトリア時代の軍用の銃は銃砲身が長く、頻繁につまり、撃ち手を悩ませたそうです。しかし、何よりも腹立たしいことと言えば、その有効射程。当時、人々はターゲットから60ヤードの距離まで近づかなければならなかったのです。こんなに近くては、ターゲットに発見されやすかったことでしょう。この距離のせいで、命を落とした人もいたであろうことは想像に難くありません。 しかし、銃砲身と弾丸に少しの改良を加えただけで、この問題は解決したのです。ひとつは、弾丸を丸みを帯びた先端の楕円形円筒にすること。そして、銃砲身の内部に螺旋状の溝である「ライフリング」を施すこと。 Wikipediaによると、ライフリングは銃身内で加速される弾丸に旋回運動を与え、弾軸の安定を図って直進性を高めるのだそうです。初期のライフルは、軍用利用の普及を不可能にしてしまうような複雑な装填手順を要しました。しかし、ライフリングが定着してから、全てが変わったのです。 先にも触れたように、ライフリングは銃砲身内で弾丸に旋回運動を与えます。もし、弾の飛行に回転がかからなければ、弾道を保って飛んでいる場合に限って高速で直線に進みますが、もしも弾道が反れた場合、ぐらついて落ちてしまいます。この現象はどんな楕円形の物体にも見ることが出来ます。 もし充分な速度で回転していれば、静止したように見えていた弾の動きに変化が現れます。単純に静止した物体を突つけば、その物体は倒れてしまうでしょう。しかし、回転しているものであれば、突ついても倒れることはありません。それどころか、ぐらつくことすら無い場合もあるのです。そのかわりに、回転している弾の回転軸が円を描くように振れる「歳差運動(さいさうんどう)」を始めます。
【コマの歳差運動】
この動画のように、回転する弾丸は転倒するのではなく、弾道を保ちながら小さな弧を描きつつ進み続けるのです。 これらが、有効射程距離が10倍になった秘密。弾は完璧にコースに沿って飛ぶことが理想とされるので、歳差運動は実はあまり歓迎されるものでは無いのですが、少しの改良でここまで距離を伸ばすことができたことは見事としか言いようがありませんね。
[via University of Houston and Schuemann via io9] (中川真知子)
RSS情報:http://www.kotaku.jp/2012/09/physics_of_bullets.html